第30話 恐るべき野望。その伍。
【ケルベロス】の猛攻を凌ぎながらカウンター攻撃をしているサルナスは、次の一手をいつ使うのかタイミングを計っていた。
アインが叡智のスキルで弾き出した次の一手は、【ケルベロス】のHPの3分の1減らした後で使わないと勝ちに繋がらない。その為にカウンター攻撃で削り続けているのだ。
【ケルベロス】は依然として猛攻を仕掛けているのだが、中々当たらずにイライラしている。
コレはアインの叡智の〔予測思考〕に依るものが大きいのだが、スキルの【見交わし】やジェシーから買った(買わされた?)招福のガントレットの効果である”ガントレットへの攻撃を避ける効果”もかなり効いている。どうやら装備者にもその効果が発揮されてる様だ。
(ジェシーに後で礼を言わなきゃな…まあ、生きて帰れたらの話だが…)
しかしながら【ケルベロス】の攻撃力は恐ろしいモノがある。周辺の地形は殆ど最初の状態を維持出来ていない。こうしてる今も【ケルベロス】の攻撃で大地は破壊され続けているのだ。この一撃がマトモに当たったら…と思うと冷や汗が出る。もし、コイツがもっと冷静さを持っていたらかなりキツい戦いを強いられていただろう。
そうは言っても綱渡りの様な戦いなので、流石に神経はかなり使うそ擦り減ってくる。何度も危うくマトモに喰らいそうになるが何とか交して居る。それが【ケルベロス】にとっては余計苛つく原因にもなっている。
【ケルベロス】が範囲攻撃を放って来るが、其れを巧みに交わしながら魔素砲をぶち込んで行く。更に【ケルベロス】は猛攻を仕掛けてくるが、荒っぽい攻撃では避ける事が楽になってくるのだ。
もう少しで【ケルベロス】のHPが3分の1削れる所まで来ている。俺もダメージは少しだけ食らってはいるのだが、朱刃のスキル《強奪》により【ケルベロス】へのカウンター攻撃で得たダメージの5%HPが回復するのが地味に効いている。それに傷口自体はガッツの超再生によって塞がるので、決定的ダメージさえ貰わなければ問題無い。傷を喰らえばヤツのスキルで状態異常を起こしそうだが、それも小さなダメージなら状態異常耐性と招福のガントレットの効果で護られて居るのだ。
(とにかくもう少し地味に削れれば良い…そうすればその後は…)
俺には勝利への方程式が見えて来ていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
…クソぅ!!!!!一体コイツは何なのだ!!
のらりくらりと我が攻撃を交わし続けているのだコイツは??
あああ、忌々しい…しかも当たったと思うと傷口が塞がる…小奴も超再生を持っているのか?
しかも回復しながら攻撃を仕掛けてきている…何故コイツの攻撃は当たるのに我が攻撃は当たらんのだ!!グルルル…。
あの魔界においても我とこれ程互角に戦える者は多くは無い…しかもコイツはどう考えても我よりも弱いはず…なのに如何して…!!一体何者なのだ??
範囲攻撃を喰らわせてもその無数の雷をまるで踊りでも踊ってる様に全く無駄な動きをせずに交わし続けている。
嗚呼…イライラする…クソぅ!クソぅ!!
早くコイツを食い散らかして、他の人間共を恐怖に叩き落してやる!!
【ケルベロス】は頭に血が上り、自分の状況を見失っていた。サルナスをたかが人間と侮っていたからである。
その代償は【ケルベロス】の生涯において最悪の結果をもたらす事になるのだが、この時の【ケルベロス】には分りようが無かったのである。
◆◆◆◆◆◆◆◆
遂にサルナスは【ケルベロス】のHPを削る事に成功していた。
種族︰エルダーケルベロス(希少魔界獣)
HP 89735/135490
『そろそろ頃合いかと…』
アインの声が聞こえてきた。
やっと次の一手を打つ事が出来るようだ。
「ああ、やっとか…じゃあ行くぞ…《金剛力》!!!」
コレはブラッドのスキルである。
《金剛力》は全てのステータスを倍に上げる効果を発生させる。つまり…
攻撃力:133125→266230
防御力:90976→181952
回避:85843→171686
幸運:8064→16128
と一時的に上昇するのである。
コレを【ケルベロス】のステータスと比べて見ると…
攻撃力:164395
防御力:118138
回避:129926
幸運:2981
と全てにおいて【ケルベロス】のステータスを超える事になったのだ。
俺は間髪入れずに【ケルベロス】に猛攻を開始した!!
【ケルベロス】は何が起こったのか理解していないようだ。これも丁度良い。
「プラズマブレイド!!!!」
稲妻の刀身が【ケルベロス】に襲いかかる!!【ケルベロス】の右前足が吹き飛ばされる!!超再生で元に戻るが空かさず攻撃を加えられ、またも大きな傷を負っていく!!
『グルルアアア!!!!』
苦しそうな声を上げる【ケルベロス】に容赦無い攻撃が叩き込まれる。
確実に【ケルベロス】のHPは削られ続ける。
しかしながら俺には余裕が無かった。実は《金剛力》の効果が続くのはこの相手では約2分程なのである。どうやら相手によってこの時間は決まる様で【ケルベロス】相手ではこの時間が精一杯の様である。
しかもクールダウンタイムはその倍の時間がかかり、しかもその間のステータスは2分の1に制限されてしまうので更にもう一回はあり得ない。
つまりこの時間内に倒さなければ【ケルベロス】に殺されるのは間違いなく俺の方である。
だが、実はこの時間内には【ケルベロス】のHPを全て削る事…つまり倒す事は無理なのはアインによって計算出来ている。
そう…コレも”最後の一手”への布石に過ぎない。
(アイン…まだか??)
『想定外に硬いです…このままでは削り切れないかもしれません』
オイオイ…マジかよ…ここに来ての計算外はコッチの命に直結してんだぞ!!
俺は更に攻撃の手を速める。
ありとあらゆる攻撃を仕掛けて確実に【ケルベロス】にダメージを与えているのだが、中々HPが減って行かない。焦りだけが募って行く。
種族︰エルダーケルベロス(希少魔界獣)
HP 13956/135490
よし、もう少しだ!!
この瞬間に俺はガクリと腰を落とした…《金剛力》の効果が切れたのである。
(し、しまった…)
この瞬間に【ケルベロス】の一撃を喰らってしまった…。
超再生はしているがごっそりとHPは持って行かれている…。
(くっ…くそ…もう一撃で…!??)
動けない…【ケルベロス】の闇の牙の効果で麻痺を喰らってしまった様だ。流石の状態異常耐性も招福のガントレットの効果もこれだけの傷だと何かしらの状態異常を喰らうようだ。
俺は決定的な場面を招いてしまった事を察した。
【ケルベロス】はゆっくりと此方にやって来た…その眼は怒りに染まっている。
(さ、流石にもう駄目か…)
俺は魔獣武装(ビーストアームス)を解いて他の皆を逃がそうかと思ったのだが、4体共に俺の意志を頑なに拒否した…。
全く…バカな奴らだ。
俺と一緒に死ぬ必要など無いのに…。
そう思いながらも引き攣った顔で笑っていた。
まだ彼らと一緒に冒険したかったのに。
後、もう少しだったのに…何か悔しいなあ…。
最後の一撃を喰らうかと言うその時、【ケルベロス】の背にパトリックさんとミカエルさんが刀を突き立てていた!!
二人はずっと【ケルベロス】の隙を狙っていたのか…夢中で攻撃していたので気付かなかった…。
俺の猛攻を受け続けた【ケルベロス】が、身に纏っていた魔闘気を発する事が出来なかった事で、二人の直接攻撃を受けざる負えなくなっていたのだ。
その隙を熟練の冒険者である二人が見逃す筈も無かった。
「やらせんぞ!!このバケモノが!!」
「このままやらせてなるものか!命に替えても助けるぞ!!」
更に何度も斬りつける二人は確実に【ケルベロス】にダメージを与えていた。
不意を突かれてダメージを負った【ケルベロス】は二人を吹き飛ばすが、その時は既に全ての条件が整った後であった。
種族︰エルダーケルベロス(希少魔界獣)
HP 12589/135490
二人共…ありがとう!!
俺は叫んだ!!
「魔獣平伏!!!」
すると【ケルベロス】は光に包まれて行く。物凄い光に三人共に目を伏せる…。
そして光が治まったあとに残っていたのは…
伏せの状態で居る、額にテイムの証が刻まれた小犬サイズの【ケルベロス】であった。
《魔獣平伏》
9割以上のダメージを与えた魔獣は、如何なる魔獣で有ってもテイムする事が出来る可能性を得られる。
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