第28話 恐るべき野望。其の参

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持病治療の為、入院し手術を受けておりました。

先頃無事退院しました。

まだ本調子ではありませんが不定期に更新します。

宜しくお願い致します。

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アインとブラッドを魔獣武装(ビーストアームス)をした俺は、あれ程苦戦していた魔人を圧倒していた。

魔人の速度について行けなかったのが、今では鈍いと感じるまでになっていた。

速度が上がるのと同時に攻撃力や防御力も上がって来た。

サブスキルによる能力倍化は俺と魔人の実力差を補うどころかひっくり返してしまった。

しかしながら魔人も簡単には倒される訳でもなくギリギリで踏み止まっている。

それは主には俺自身が原因なのだが…突然ステータス4倍というサブスキル『魔獣力倍化』に振り回されている為である。

暴れ馬の様な力を制御し切れない…歯痒いが何とか慣れるまでは攻撃有るのみだ。



◆◆◆◆◆◆◆



対する魔人はかなり焦っていた。

もうそろそろ召喚の時間がやって来るのに供物がかなり減らされている為だ。

このままでは前の洞窟の時の様に不完全な召喚で失敗してしまう可能性が高いのだ。

この冒険者にはもう勝てそうに無い…何故か解らぬが突然のバワーアップで恐ろしい程の力を手に入れている。

中々制御し切れてないのが唯一の救いだ。


(くっ…如何したものか…)


魔人はありとあらゆる可能性を考える…そこまて追い詰められているのだ。楽勝で勝てる相手が突如として自分が倒せぬ相手になったのだから無理もない。

今は何とか凌いでいるが段々と相手が自身の力に慣れて来ているのが分かる。

このままではそう時間もかからない内にやられてしまうだろう。


(と、とにかく時間まで粘り切るしかあるまいな…)


と、魔人は召喚までの時間稼ぎをする事にした。

召喚さえしてしまえば…その考えのみで粘り続けていた。


◆◆◆◆◆◆◆




その坑道の一番奥にある広い場所には魔界獣召喚の魔法陣が張られており、赤黒く光出してきている。

その時、魔法陣の中から黒い魔力が噴き出て来ている…そしてその魔力は何かを形造っていた。


《…ガルルルル…》


徐々にその黒い魔力は実体化している。魔界獣は召喚されようとしているのだ。

しかしながら魔人が集めた供物が足りない。このままでは実体化し切れずにまた魔力が拡散して失敗に終わってしまう…魔界獣は2度目の失敗を前に苛立っていた。


《…ウウ…ガウ…ルルル…》


魔界獣は表にいる魔人に念を送った。

供物が足りないならば『………しろ…』と…。


魔界獣はこの世界に降り立つ事を楽しみにしていた。新しい獲物を求めてこちら側に来る事を願った。それがもう少しで叶うのである。その為には何をしようとも構わない…その様な強い意志を持っていた。




◆◆◆◆◆◆◆




姿を変えた瞬間からサルナスがいきなり強くなった…このような事は見た事がない。パトリックは今見ている事に全くついて行けてなかった。

もちろん彼はサルナスのスキルを詳しく知らない。その為にいきなり姿を変えた事も、急激に力が上がり魔人を圧倒している事も理解出来てないのだ。


(何が彼に起こったんだ…こんな事が有り得るのか??)


しかし時間を追う毎にパトリックは戸惑いながらも徐々に冷静さを取り戻していった。



(とにかく他の魔獣を倒しておかねば…魔人は彼に任せれば良い)



その様な判断をしている時だった。

遠方から集団が近付いて来たのだ。それは待っていた援軍である事は直ぐに理解出来た。

彼はこの最悪の事態が更に好転すると確信していた。コレで助かったと。




◆◆◆◆◆◆◆




彼はイヤな予感がしていたので予定よりも早めに到着出来る様に馬車を進めさせていた。

すると遠方から物凄い魔力がぶつかり合っているのを感じた。


(コレは…魔人か??何ていう邪悪な魔力か…相手は…パトリック様のものでは無い…まさか彼の魔力??)


ミカエルは更に速度を上げさせた。相手が魔人ならば直ぐにでも駆けつけて合力しなければと考えたからだ。

かの地では予想を上回る何かが起こっている。それを防ぐ為に来たのだから。

しかしながら魔人を圧倒するその魔力を感じているにも関わらず、相変わらずイヤな予感が消えない…いや、寧ろ酷くなって来ているのだ。

彼のその”勘”は彼をいつでも助けていた。それが近付いて行く毎に増して来ているのに戸惑っていた。


(何故この様な有利な状況下で、この様なイヤな感じが消えない…いや、酷くなっているのか?とにかく彼らを助けなければ…)


ミカエルは更に馬車の速度を上げるのであった。




◆◆◆◆◆◆◆




サルナスは徐々に力の制御を出来る様になっていた。

魔人の傷が多くなって来ているのだ。魔人の傷が消えない内に傷を付けているのでヤツの回復が間に合わないのである。

それでも中々致命傷になる傷を与えられない…流石は魔人と言うところなのか?

サルナスは戦いの中で援軍がやって来ているのに気が付いた。


(ミカエルさんが来たのか?コレで何とかなる…ならは無理をせずにこのままで良いか…)


サルナスには余裕が出て来ていた。

自分の強さと援軍の到着がその様な余裕を出させたのである。

それは魔人の時間稼ぎに協力する様な形になっている事を気付いてはいなかった。


(早く力を制御しなければ…もう少し…時間が欲しい…)


サルナスは攻撃の手は緩めなかったが、それ以上は”踏み込まなかった”のである。




◆◆◆◆◆◆




魔人は段々と追い詰められていながらも致命傷を与えずに粘り続けていた。時間稼ぎをして何とか召喚の時間まで…その一心だった。そんな時に魔界獣の意志が飛んで来た。それは魔人にとって青天の霹靂とも言える内容だった。


(…何だと…ま、まさか…そんな…馬鹿な…)


魔人はこの時に覚った…自分が魔界獣を使役して操るのだと動いていたが、実は魔界獣に操られていた事に。

自分の野望を魔界獣に見透かされ利用されていた事に。

だか、それは今の状況下では絶体絶命の危機を逆転出来る一手なのは確実である。

このままでは相手を倒すどころか逃げる事も難しいだろう…その様に思っていた時、更に敵の援軍を感じ取ったのだ。


(…フフフ…そうか…こうなっては仕方無い…魔界獣よ、貴様の策に乗ろうではないか…)


腹を括った魔人はその時が来るまでとにかく粘り切る事にした。

そして、その時は刻々と迫っていたのである。




◆◆◆◆◆◆




ミカエルが到着した時には魔人を圧倒するサルナスがもう少しで魔人を倒せるのでは無いかという感じだった。


「ミカエル!!良く来てくれた!」


「パトリックさん!よくご無事で…」


「ああ、彼のお陰だ」


パトリックが魔人と戦闘しているサルナスの方を見た。


「助太刀しよう…」


ミカエルは剣を抜きサルナスに加勢しようとしていたその時、坑道の方から途轍もない邪気が噴き出して来た。


魔人とサルナスは少し間を取った。


〘…フハハハ…もう良い頃合になった様だな!〙


「もうお前に後は無いぞ。このまま観念しろ」


〘観念しろ?…馬鹿者め…ここまで粘り切ったのは何の為だと思っているのだ?〙


ミカエルはハッとして直ぐに魔人に斬り付けた。しかし交わされてそのまま坑道の入口まで逃れた。


〘フフフ…気付いた様だがもう遅い…〙


魔人は自分の持っていた魔剣を自らの胸に突き立てた!


〘我を供物に!!魔界獣召喚!!出現せよ!!魔界獣【ケルベロス】!!この世界を人間の血で染め上げるが良い!!〙


魔人と供物の魔獣達が、黒い霧の様になり坑道の中に吸い込まれてゆく。


「し、しまった…此処からはなれ…」


ミカエルが言い終わる前に坑道の入口が爆発して言葉を遮った。

サルナスは爆発に巻き込まれだが、覇気で爆風を弾き返した。



『グルアアアア!!!!』


そして坑道の奥から途轍もない魔力を噴き出した怪物…召喚された魔界獣【ケルベロス】が現れたのであった。

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