第231話 混戦のシーズン

※ 本日は大学編234話のネタバレがあります。


×××


 セ・リーグは上杉のプロ入り以後、さらに大介が加わってからは、ほぼほぼ三強と三弱の二つに分かれている。

 ライガース、スターズ、タイタンズが三強であり、カップス、レックス、フェニックスが三弱である。

 ただ今年は四月にライガースが勝率五割であったこともあり、圧倒的な差が三位と四位の間に見えてない。

 大介の復調後はすぐに勝ちが先行しだしたが、そこにレックスの三連発である。


 ライガースは無敵の球団ではない。確かに四年連続でリーグ優勝をしているが、今年も三連敗と四連敗を既にしている。

 ただあの三連戦は、なんというかレックスに絡め取られたというか、そんな感じがしたのだ。

(あいつの力かな?)

 大介はなんとなく、樋口の力を感じる。

 一時期0.380もあって、打席数は少なかったものの、暫定一位だった樋口の打率は、三割ちょっとで落ち着いている。

 ただ代打からキャッチャー併用、そしてようやく正捕手という過程でありながら、打点の数は多いのだ。

 大介は打てるものは全て打つバッターであるが、樋口は違う。

 なんと言うか、本当に打って欲しい時のために、普段はあまり打たないでいるような、ありえないがそんな雰囲気を感じるのだ。


 そしてレックスに三連敗した後、今度はスターズとの三連戦。

 幸いと言うべきなのだろうが、上杉のローテには回ってこないはずだ。

 おまけに第一戦が真田の先発なので、だいたい三点取ればほぼ勝てるだろう。

 そんな考えでいると、敗北フラグが立つものなのだが、真田も立派なフラグクラッシャーである。


 スターズはセ・リーグの中では平均得点が五位である。

 そして平均失点が二位であるので、ピッチャーと守備によって勝っていると言っていい。

 ライガースはそれに対して、得点も失点も一位。

 それはトップを走っていても当たり前という感じである。




 この三連戦も、第一戦は真田が好投し、七回一失点でリリーフにつないだ。

 打線の方は大介の二打点を含んで、合計四得点。

 連敗はあっさりと止まったのであった。


 スターズはとにかく、ピッチャーへの援護が少なすぎる。

 防御率がほぼ三点の先発ピッチャーが、どうして負けが先行するのか。

(あんたも大変だな)

 第二戦の先発玉縄に、大介は対峙する。


 玉縄は一年目からローテに入って、セの新人王を取っていた。

 上杉玉縄と二年連続で、スターズは高卒ピッチャーが新人王を取ったわけである。

 その後も玉縄の年俸は順調に上がっていったが、成績の方は伸び悩んでいる。

 プロの厳しい世界で、玉縄のボールが通用しないというわけではない。

 とにかく打線の援護がなくて、それでもプレイオフには参加する。

 上杉がいなければ間違いなく、Bクラスに沈むチーム。

 あるいはそのカリスマがなければ、最下位に落ちてもおかしくないのだ。


 大介も玉縄に対しては、苦手意識はない。

 ただ復調しかけていた打撃が、また微妙な感じなのである。

 捉えたと思った瞬間、スタントに届くか外野フライで終わるかが分かる。

 ホームランと打点は伸びていくが、案外打率が上がらないのである。

(こうかな?)

 ややゴロを意識してボールを切ってみれば、弾丸ライナーがフェンスを直撃。

 余裕のスタンディングダブルを決める大介である。


 


 それにしても、プロのシーズンというのは長いものである。

 鉄壁のように思われたライガースも、ピッチャーの調子が落ちてきたりする。

 今季リリーフとして使われているオニールが、ここでも打たれて同点。

 ただし大介を打ち取ってホッとしたところに金剛寺と、西郷に打たれてスターズの守護神峠が失点する。

 これが決勝点になって、勝ち星がつくのはオニール。

 こんな感じでオニールは、今季リリーフでのみ出場ながら、三勝三敗しているのである。

 もちろん同点の場面で登板し、味方が勝ち越すまで踏ん張った試合もある。

 だがリリーフとしてはやはり、安定感がないと言えるだろう。


 ちなみに三連戦最後の試合は、大介は二打数0安打という結果になる。

 一試合に二度も敬遠されたので、当然ながら怒りの盗塁を決める。

 今年は盗塁の成功率にこだわる大介は、かなり少なめの盗塁数になっている。

 それでもこの調子であれば、トリプルスリーは普通に狙えそうである。


 大介が目指しているのは、プロ入り後の連続三冠王。

 ただ今年はまだ六月とはいえ、打率はかなり不足している。

 いやこのままでも首位打者は取れそうなのだが、これまでの四年に比べると、かなり低くなるのである。

 あとは樋口がえらく打っていったが、規定打席に到達しそうにないので、これは無視してもいい。

 事実この後、樋口の打率は徐々に下がり、三割ちょっとで安定することになる。


 続く広島戦でも、大介はホームランが出なかった。

 これで五試合連続ホームランなしと、大介としては珍しい状況にある。

 三戦目には雨が降って、試合は中止。

 次はドームでのタイタンズ戦である。




 そろそろ今シーズンも、前半戦終了である。

 その前に二位のタイタンズと戦えるのは、展開的には悪くない。

 急激に勝率を上げてきていたレックスであるが、上杉の前にノーヒットノーランで封じられた。

 最後の打者は樋口であり、それでも上杉には全く歯が立たなかった。

 あの人はいったい、引退までにあと何回ノーヒットノーランを達成するのだろう。

 なお過去に三度のノーヒットノーランを達成した者は、他に二人しかいない。

 ただ上杉は完全試合もしているので、まさにプロ野球史上最強の投手になったと言えるだろう。

 数年前からずっと最強だった気もする。


 ドーム球場というのは、雨天などでの中止がまずないので、甲子園を本拠地としている大介たちライガースとしては、羨ましいところもある。

 ただ野球の本場アメリカでも、基本的には球場は全てがドームではない。

 太陽の下でプレイするのが野球だと、あちらもそういう認識があるのか。

 もちろん実際は集客の都合上、ナイターが多いわけであるが。


 タイタンズ戦三連戦は、第一戦が山田、第二戦が真田と、ライガースの左右両エースが先発である。

 対するタイタンズも、ピッチャーとバッターの層が厚いので、そうそう油断できるものではない。

 だが今のライガースは、またチーム状態が上り調子である。

 

 第一戦はなんと大介のソロホームラン一本が、決勝打となった。

 山田は珍しくもフルイニングを投げて、今季六勝目。

 怪我で休んだ期間を取り戻すべく、調子を上げてきている。

 島野としてはリリーフを使いたかったのだが、最近はそのリリーフがあまり休めていない。

 山田の続投志願もあり、完封試合となったわけである。


 そして第二戦の先発真田も、今年はチームの勝ち頭である。

 去年は大原のイニングイーターぶりが目立ったが、真田も鋭く三振を奪っていくので、かなりのイニングは投げているのだ。

 もっともこの試合はライガースが大量リードしたため、真田は無失点ながら六回で降板。

 リリーフ陣は一点を奪われたものの、9-1と圧勝である。


 第三戦は山倉が先発であり、ここは確実には勝てないところか。

 ただ今季の山倉は12試合先発で7勝4敗と、勝ち負けがはっきりとついている。

 かなり多いイニングを先発が投げるのは、リリーフ陣の負担を減らすためにはいい。

 だがこの試合はほぼ拮抗した状態から、リリーフ陣を投入となった。


 来日してしばらくは日本のボールに慣れていなかったオニールだが、ようやくこのあたりで調整がしてこれたと言えるだろうか。

 これまでもリリーフ失敗はあったが、奪三振はかなり取れるピッチャーであったのだ。

 この試合も勝ちはオニールにつく。

 そしてライガースと二位タイタンズの間には、一気に3ゲームの差がついた。

 去年までと同じく、二位争いになりそうである。




 六月も終わる。

 大介の打撃成績は、今年はかなり波がある。

 だがチームとしては三連敗はあったが、五連勝が二度あった。

 ライガースは確実に、今年も覇権へと向かっている。


 今季の大介はシーズン序盤から不調であったが、それでも他の選手なら月間MVPに選ばれそうな数字を出していた。

 だが普通の四番レベルでは、もう月間MVPは取れないらしい。

 しかし六月は交流戦の後半で、一気に打撃が爆発した。

 打率0.391 出塁率0.538 OPS1.553

 ホームランも12本打っていて、さすがにこれを選出しないわけにはいかないだろう。

 ちなみに、長打率は10割を超えていた。

 とにかく打てばホームランの確率が、かなり高かったということである。

 ほとんどがソロホームランであったが。


 ホームラン数33本、打点が86点。

 これで打撃二冠である。

 だが打率はまだ二位であり、0.358となっている。

 これで二位というのもかなり厳しいが、今年は貧打のスターズ打線で、三番の堀越がかなり一人気を吐いているのである。

 とは言っても六月の打率を見るに、追い抜くのも時間の問題かもしれないが。


 ちなみに今季のシーズンMVP候補は、第一が上杉になっている。

 六月が終わった時点で13勝0敗という、相変わらず異次元の数字だ。

 下手をすればこの勝ち星で、最多勝が取れる年もあるというのに。


 おおよそ半分ちょっとの試合を消化したが、この調子で行くならば、大輔のホームランと打点は、単純に倍にしても記録更新はない。

 ただし六月の調子を維持出来るのなら、三冠王と共に記録更新もあるかもしれない。

 もしもそうなれば、上杉と大介の、どちらがシーズンMVPに選ばれるだろうか。

 やはり優勝したチームから選ばれるのが、自然と言うものだろう。




 そして七月に入るということは、オールスターまで間もないということだ。

 当然ながら大介はショートの一位であり、全体の数字を見ても一位。

 上杉が二位であるが、そこそこの差がある。

 チーム力が違うと言っても、やはりライガースがずっと、シーズン優勝と日本シリーズ進出を果たしているからだろう。

 ショートだと他にも、芥や緒方といった選手がいるが、大介がいる限りはショートのポジションで一位を取ることはかなり難しい。

 他にライガースからは、野手だと西郷、投手だと山田と真田が選出される数字を残している。

 あとは監督推薦などだが、大原は選ばれない。


 去年の勝ち頭だった大原は、今年も休まずローテを回しているが、五勝四敗と勝ち星がついてこない。

 防御率などはそれほど去年と変わらないのだから、やはり運というものはある。

 もっともローテを完全に守っているし、先発した試合の勝敗自体は七勝六敗。

 こうやってイニングを食ってくれるピッチャーがいるから、リリーフ陣は楽が出来るのだ。

 この調子でローテを守りきったら、ちゃんと年俸は一億に到達するだろう。

 いや先発で貯金が出来るなら、もう少し高くなるか。

 しかしライガースの強力打線の援護があってこれと見るなら、少し寂しいものである。


 前半戦が終了し、ライガースの勝率は六割に到達した。

 四月がちょうど五割であったことを考えると、五月以降がどれだけすごかったか分かるというものだ。

 二位のタイタンズとも七ゲーム差と、かなりのリードを奪っている。


 だが不気味なのは、現時点では四位のレックスだ。

 フェニックスと最下位争いをしていた五月までと違い、明らかに六月は勢いがついている。

 その原因はと見れば、単純なものである。

 一試合あたりの失点の平均が、一点ほども改善している。


 これは樋口が正捕手になったことと関係しているのか。

 大介としてはあのレックスとの対決は、三試合で三ホームランを打ったので、おおよそ勝ったと言える。

 だが試合自体は三連敗であったのだ。

 高校時代とWBCで、味方として戦ったこともある。

 直史が信頼していたのだから、キャッチャーとしての技量が卓越していること自体は、間違いないはずなのだ。

 それにしてもキャッチャー一人で、ここまでチームが変わるというのは、不思議な感じがする大介である。


 優勝するチームには、必ずいいキャッチャーがいる。

 そう言われているが、現在のライガースのキャッチャーは、まだ島本による遠隔操作を受けている。

 高校時代に遡れば、確かにキャッチャーは大事だなと納得も出来る。

 だがあれはキャッチャーが優れていたと言うよりも、ジンがキャプテンとして優れていたのだと思うのだ。


 オールスター前の、フェニックスとの三連戦。

 ここでライガースは勝ち越したが、今年から本格的に正捕手になっている竹中は、それほどの劇的な変化をフェニックスに与えているとは思えない。

 樋口は確かにいいキャッチャーではあるが、そこまで完全に突出した影響力があるかと言うと、疑問が残るのである。


「とりあえず行くか!」

 今年のライガースからは、四人がオールスターへ参加する。

 たまにはぬくぬくと休んでいたいかな、などとは欠片も思わない大介であった。

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