第196話 オールスターも四度目

 ルーキーの頃からオールスターに出ている選手というのは、それなりにいないではない。

 大介と上杉が近年では代表格だが、今年も西郷が選出されている。

 現在ホームラン数26本はリーグ二位。

 つまりライガースには最高クラスのスラッガーが二人もいるわけだ。


 一方のパ・リーグにも、ルーキーのオールスター出場はいる。

 大介からすると高校時代の後輩である悟だ。

 打率は三割を余裕で超えて、リーグ第四位。

 またこの時点でホームランも二桁を打っていて、ランナーになれば頻繁に盗塁をしかけるし、ショートの守備も上手い。

 セ・リーグの新人王は西郷に決まったようなものだが、パ・リーグは悟になる可能性が高い。


 大介は悟とは入れ違いで、高校時代には一緒にプレイはしていない。

 だが直史からその印象は聞いていたし、甲子園でのプレイも見ていた。交流戦ではもちろん戦った。

 自分にかなり似たところがある。

 ただし長打、中でもホームランを打つ力には、かなりの差が存在する。

 ホームラン王の大介と比べてはなんだが、そもそも大介は新人の一年目にホームラン王を取っているのだ。


 一年目にオールスターまでに二桁のホームランを打っていれば、それでも充分すぎる。

 西郷はその倍は打っているが、高卒と大卒の差はあるだろう。

 あとは西郷の場合、日本屈指のピッチャーから、散々バッピをしてもらったという理由もある。

 高校時代は変化球は、カットしたりしていたものだ。

 だが今は積極的に踏み込んで、ホームランにする力がある。


 悟の場合は変化球に対しては、さすがにそこまでの対応力はない。

 だが一年生の時から、当時三年生だった武史のストレートを散々見ている。

 甲子園でも通算11本を打っており、公式戦だけでも50本は打っている。

 練習試合や紅白戦なども含めると、100本にいっていてもおかしくはない。




 オールスターのメンバーは、ある意味日本代表よりも強い。

 日本代表は調整の難しさや短期決戦での体力配分などを考えて、ベテランが少なくなる傾向にあるからだ。

 夢の球宴オールスターは、交流戦などもあって昔に比べれば、お祭り騒ぎの印象は弱くなっている。

 それでも同じチームに、大介と上杉がいるというあたり、日本代表を見ているように夢心地になれる。

 

 今年も簡単に、三回までをパーフェクトに抑えてしまう上杉。

 三回までという制約があるとはいえ、そこで奪三振ショーを始めてしまうあたり、本当にとんでもない。

 さすがに九連続三振は避けるべく、誰か一人ぐらいは必死で内野ゴロか内野フライを打っていく。

 対してピッチャーは、大介を相手にして逃げられない。

 オールスターでフォアボールで逃げたらどっちらけである。

 それでも慣れないキャッチャーとバッテリーを組んで投げてこなければいけないあたり、ピッチャーの悲運を感じる。


 今年もポンポンとホームランを打っていく大介を見て、純粋にピッチャーが勝負してくるなら、どれだけ大介のホームラン数が伸びるかを考える。

 今年はもう94個の四死球で逃げられているため、歩かされる記録も更新しそうである。

 バッターのありとあらゆる記録を抜いていく。 

 荒唐無稽なことを、実力で実現させていく。

 もしも今年の打撃成績が悪く終わるとしたら怪我か、次のバッターに打たれることを覚悟してでも、大介を歩かせることが多くなる場合だろう。


 オールスターだけあって、パのピッチャーは短いイニングに集中して、全力で投げてくる。

 これを全力で打ち返すのが大介である。

 ホームラン三本を打てば、それは当然ながらMVPにもなるだろう。

 上杉が平然と三回をノーヒットピッチングに抑えても、活躍の場はバッターの方が多い。

 いっそのこと二刀流でもやっていたら、上杉にも素養はあったのだが。

 一年目はピッチャーのくせに三割と七本を打っていたのだから、また高校時代には甲子園で10本も打っていたのだから、バッターとしての才能もあったのだ。


 結局はオールスターも、一試合目はスタメンで出た大介が打ちまくった。

 二試合目はのんびりと他の選手に出番を譲ったが、チャンスのところで代打に呼ばれる。

 そしてそこでやはりホームランを打ってしまうあたり、お祭り騒ぎの中でのスターっぷりは半端ではない。




 純粋に勝負だけを楽しむ野球は面白いな、と大介は野球でためた疲れを野球でリフレッシュしている。

 他の選手であればオールスターに出たことにより、宣伝効果で年俸に影響がある者もいるのだろう。

 だが大介の場合はもう、存在自体が広告塔である。

 CM広告などに出るのも、今年のオフからは解禁する。

 今でも簡単なものには出ているのだが、基本的にユニフォームを着てのものだ。


 170cmもない選手が、特大のホームランをかっ飛ばす。

 このギャップの爽快感が、たまらなく魅力的であるらしい。

 身長がさほどないことも、プロに来てからはあまりコンプレックスを感じない。

 成績で隔絶したものを残していることと、身長が低くてそれに比例して体重もさほどないことが、むしろ足首や膝といった、下半身への負担を少なくしているからだ。


 自分はもう、成功したのだと確信する。

 ツインズにも言ったとおり、もう人生を楽に生きるだけの金は手に入れた。

 もっともここからは純粋に野球で、人生を苦しみながら楽しんでいかないといけないのか。


 四割と打ったときと、ホームラン記録を達成した時。

 国民栄誉賞の打診があったものだが、若いからということもあって断っていた。

 だが今年は四年連続の三冠王が取れそうで、打率や打点やホームラン王に加えて、最多安打の打者六冠も濃厚。

 これまでの歴史で五冠という選手はいたが、六冠はいない。

 イチローがホームランが三位で、他の部門でトップを取ったのが、一番それに近かったか。


 大介の他のバッターとの大きな違いは、その瞬発力がそこそこ持続するということだ。

 攻走守の三拍子とか、5ツールプレイヤーとかいう言葉もあるが、大介こそまさに打者の理想の具現化に近い。

 しかも守ってはショートで、ゴールデングラブ賞をもらっている。

 当然ながらベスト9はすっと選出されている。


 勲章だのなんだの、特に国民栄誉賞を謝絶するのは、純粋にスキャンダルの問題である。

 大介は独身で、別に女性問題でスクープがあったとしても、普通にお付き合いしているだけで、バッシングの対象にもならない。

 相手は未成年ではないし、人妻でもないからだ。

 ただ完全に二股をかけているので、その点だけは言い逃れのしようがない。

(メジャーに行くべきなのかな)

 単純に勝負するだけなら、上杉との対決で満足している。

 ただ世間的な価値観で見れば、メジャーで成功してこそ本当の一流選手などという価値観が、今の日本のプロ野球にはある。


 正直なところ、メジャーなどと言ってももう、大介にはおおよその底が見えている。

 上杉ほどのパワーピッチャーはいないし、直史ほどの完璧な技巧派もいない。

 挑戦するとしたら、純粋に記録とだろう。

 150km台どころか160km台でムービングを投げてくる上杉は、メジャーのどの選手よりも凄まじいパワーピッチャーだ。

 直史の変化球いはWBCでも打者を翻弄していた。


 金を稼ぐためにアメリカに行くのも悪くはない。

 ただ状況を見ていると、あちらは応援が日本式でないのは当たり前で、いちいちうるさい暗黙の了解などもある。

 大前提として英語が喋れないので、そのあたりが面倒くさい。

(それにあいつらも連れて行くことになるし……いや、あいつら的にはその方がいいのか?)

 ツインズは芸能人で普通に自分の収入があるが、あれはあくまでも副業だ。

 一人は直史と同じように弁護士を目指していて、兄が落ちた試験を片手間で合格し、司法試験の受験資格を手に入れている。

 もう一人はより資産運用に特化し、自分たちの給料を増やしているらしい。

 オールマイティな能力という点では、野球でしか結果を出せない大介よりもすごい。

 ただ大介のような成績は、他のどんな万能プレイヤーでも、絶対に出せないのだろうが。




 オールスターはセとパで一勝一敗であったが、大介が普通にMVPに選ばれた。

 もう例年と同じ展開であるが、パはジャガースとコンコルズの打力がえげつないことになっている。

 パは強打者が多いのだが、それぞれの能力がかなり分散している。

 織田などは今年も首位打者を狙っているが、三年目のアレクがかなりの勢いでヒットは量産している。

 トリプルスリーを狙える選手が何人もいるジャガースに対し、リーグ一位と二位のホームランバッターがいるコンコルズ。

 ヒットでつなぐが時折放り込むジャガースに、一発が期待出来るコンコルズ。

 今年はここまでジャガースがトップを走っているが、コンコルズはおおよそ毎年、スロースターターなのだ。


 この両者に隠れてはいるが、千葉はかなりチーム再建が進んでいると言える。

 この五年は北海道、東北、神戸がおおよそチーム成績が悪い。

 何がどうというわけではないが、ドラフトで取る選手に失敗が多いと言えよう。

 このあたり北海道は上手いイメージがあるのだが、近年では競合を取りそこなっている場合が多い。

 逆にクジ運がものすごく強いのは、それこそ大介に続いて真田や西郷を手に入れているライガースだが、二年前のドラフトで一位指名したピッチャーは、二年目のここまでまだろくに結果を出してはいない。

 高卒でもピッチャーは比較的即戦力になりやすいのだが、球速では劣っても他の部分で優っているピッチャーが他の球団では活躍しているのと比べれば、やはり目立たない方であろう。


 オールスターの予備日と合わせて、久しぶりに二日間試合のない日。

 それでもシーズン中は、一切練習に手を抜かないのだ大介である。

 鍛錬と共に重要なのは、栄養補給と休養である。

 だがそのバランスのいいあたりは、どこにあるのか人それぞれである。

 そして同じ人間であっても、加齢によってその適切なポイントは変わってくる。

 実際のところはこの20代の間は、とにかく技術に磨きをかけて、フィジカルを鍛えることが重要であろう。

 やりすぎというのは何でも害になるものではあるが。




 オールスター明けの最初のカードは、現在リーグ二位のタイタンズとの三連戦である。

 だがこの三連戦の入り方が難しい。

 なぜなら大原と山田がオールスターに出たため、少しだがローテーションをいじるからだ。

 琴山、若松、キッドという並び。

 大原、山田、山倉という並びと比べると、明らかに見劣りがする。

 琴山は前半戦、リリーフ陣の不調の割を食ったとは言える。

 14登板で三勝二敗というのは、ローテーションを回すという意味では立派であるが、イニングがあまり多く投げられていない。

 勝ちも負けもほぼ均等に、リリーフの投げている間に消されているのだ。


 大原は既に10勝をしている。

 長いイニングを投げればそれだけ打線が逆転してくれることが多く、試合の終盤にリードしている状態でウェイドなどにつなげば、それがそのまま勝ち星になる。

 投手の分業制が進み、100球前後でマウンドを降りるピッチャーは多いが、勝ちや負けの星を増やせるのは、やはりイニングを長く投げるピッチャーだ。

 今のライガースは真田が七回か八回に投げて、ウェイドがクローザーという展開が多い。

 だが最終回に左が多くなりそうであったら、真田をクローザーに持っていく。

 先発に比べれば軽く見られることのある中継ぎであるが、真田が便利使いされている今、完全にリリーフ陣が甦っている。

 イニングの途中からでも出て行って、三振を奪えるのが真田の魅力なのだ。


 タイタンズとの三連戦の初戦も、琴山は同点のところで、自分の打席に代打を送られてしまった。

 ここで点が入ってくれれば、勝ち投手の権利が発生するわけだが、そうは甘くない。

 結局中継ぎがつないでいって、その間に点が入ってしまう。

 勝つか負けるか、とにかく星がついてほしい琴山である。

 先発登板数が多く、イニングもそれなりに投げているのに、とにかく勝ち負けがつかない。

 おそらくライガースの先発陣で、一番悶々としているのが琴山であろう。


 15先発で三勝二敗。これはいい。

 だがその試合の結果を見ると六勝九敗で、琴山のみの責任ではないのだが、印象は悪くなってしまう。

 ちなみにこれとは全くの結果が出てしまっているのだキッドである。

 途中まではリリーフで投げていたので、先発としては八試合しか投げていない。

 だがリリーフで勝ち星がついたのも合わせると、八勝0敗というかなり運のいい数字となっている。


 イニングを食えるピッチャーを、球団は評価しないはずはない。

 ただ防御率などを見ても、去年よりは成績は悪化している。

 シーズンはともかく、プレイオフで使えるかは難しい状態だ。

 不調で二軍に落ちていた飛田も、そろそろ一軍に戻ってくる。

 ただし負け星が先行しているわけではないので、飛田や他の誰かと入れ替えるのも、あまり琴山に公平とは言いがたい。


 ここも負けがついたのはリリーフのレイトナーであったが、彼も今年はあまり良くない。

 それでも中継ぎ要員としては、回跨ぎでも投げてくれる。

 ホールドするのは最近は、早い回では品川であることが多い。

 真田は完全にセットアッパーかクローザーとして、一イニング限定となっている。


 ともあれオールスター明けの初戦、注意すべきタイタンズとの三連戦。

 まずか黒星スタートから始まってしまったのは、いささか流れが悪かった。

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