第195話 首位奪還
交流戦中の連勝で、ライガースはトップに立った。
全てのカードで勝ち越しし、四連覇への期待がかかる。
打線は代打で結果を残す選手が多く、そして投手陣が安定してきたのが大きい。
ただ見る者が見れば、やはり弱点は分かる。
今季既に60試合以上を消化しているが、無失点で抑えた試合が一つもないのである。
野球は確率のスポーツなわけで、ライガースの負ける試合もある。
だがライガースの今の先発陣と、リリーフ陣を見れば、無失点で終えてもおかしくはないであろう。
一失点というのは何試合かあるのであるが、無失点は一度もない。
去年一人で完封をしまくった真田がいないことが、やはり大きな原因ではあるだろう。
ちなみに完封負けを喫した試合は二度あり、両方が上杉相手である。
そんなピッチャーを援護するためか、後ろに強いバッターが二人揃った大介の成績が、一気におかしなことになってきている。
そもそもおかしかったので、さらにおかしくなってきたというべきか。
交流戦終了時に、65試合を消化。
打率0.418 出塁率0.567 OPS1.567
打点91 ホームラン32 盗塁42 四死球69
そして安打数が83と、今まで取れなかったタイトル、最多安打の目が見えてきた。
これまで大介は、三年連続でトリプルスリーおよび、二年目にはトリプル4を達成している。
去年は盗塁王にも輝き、打者六冠のうちの五冠を取るという、非常識というか不可能なことをやっている。
それでも唯一取れなかったのが、最多安打のタイトルであった。
これは大介の長打率が高すぎるため、歩かされることが多かったからだ。
だが金剛寺と西郷が、今は後ろにいる。
この二人のおかげで大介は、相変わらず歩かされることは多いのだが、上手くヒットを打つことが出来るようになっている。
200安打は無理だろう。
だが今年はこの分厚い打線のおかげで、前陣未踏で記録更新も不可能な、200打点が見えてきている。
打者六冠。
ピッチャーと違って、理論上は取れなくはないタイトルである。
だがもちろんそれは理屈の上での話で、実際には過去には、五冠までしか達成した選手はいない。
おおよそは盗塁以外のタイトルを独占していて、盗塁王を取ったがホームラン王を取れなかったのは、イチローしかいない。
ライガースは確かに投手陣の数字が良化し、順位も上がってきた。
去年と比べて西郷という強力な長距離砲がいるため、大介を敬遠することが難しくなった。
だがそれでも、不安はある。
真田は復帰以来、ホールドとセーブを記録し、一度も敗戦投手になってはいない。
だが先発から中継ぎを経て抑えという順番を経ても、無失点の試合がない。
確かにライガースの得点力を考えれば、まず三点以内に抑えれば、ほとんどの試合は勝てる。
だが今年、上杉と対戦した三試合のうち、二試合は完封されているのだ。
とてつもないピッチャーである。
大介の知る限りでは、直史と共に最強ではあるが、直史は自分でも言っているように、プロで一年戦い抜くには、体の線が細い。
もちろん短期決戦であれば、その支配力は上杉に劣るものではない。
上杉自身はライガース以外との試合では、敗北を喫している。
それでもこのシーズンも、三点以上の自責点を取られた試合はないのである。
交流戦はライガースの優勝に終わり、その余韻に浸る間もなく、すぐに広島との三連戦が始まる。
甲子園の三連戦で、琴山、大原、山田という順番でローテが回る。
ここでも勝ち星のつかない琴山と、勝ち星のつく大原との違いが見えてくる。
大原は今年は、かなり野球の神様に愛されている。
もちろん本人が、点を取られた展開でも大量点にはつなげず、味方打線が逆転してくれるまで、長いイニングを投げられているというのもある。
それに対して琴山は、勝ちも負けもなかなかつかない。
競った試合では中盤から終盤に、代打を出されているというのもあるだろう。
結果的に先発の登板数は増えていくものの、勝ちも負けも星がつかない。
琴山の先発した試合を見れば、本人の星は二勝二敗で、試合の最終的な結果も勝ち負け五分。
ただこういう、貯金は作れなくてもいっかりとローテを回してくれるピッチャーというのは、普通にありがたいのだ。
これで完投能力が高ければもっといいのだが、今年のライガースは代打での得点も多いため、戦術的に仕方のない部分もある。
それでも防御率は五点台に近いことを考えると、やはり打線に助けられているということか、
大原ほどではないが、マイナスを0にしてもらっているという点で、琴山もかなり野球の神様に愛されている。
ただ今年の大原の愛されっぷりは、上杉にも優るかもしれない。
まだシーズンは半分も終えていないが、上杉は既に二桁勝利を上げている。
もちろん他にも防御率や奪三振など、今年も上杉は沢村賞の候補である。
と言うか上杉以外に、沢村賞に相応しい者がいるのか。
柳本や東条がMLBに移籍し、上杉に少しでも対抗できそうなピッチャーが減っていっている。
今年が六年目である上杉は、あと二年でFA権が発生し、さらに三年目には海外FA権も持つことになる。
上杉自身はMLBなどにはなんの関心もなく、国際試合で日本を優勝させることが最大の目標である。
島国の中の王様などと揶揄する者もいるが、ならば上杉から一勝でもしてみろというのだ。
上杉は国際戦において、無敗のピッチャーだ。
優勝出来ない場合は、彼ではなく他のピッチャーが打たれることが多い。
ライガースの中では山田と真田が、左右の両エースであった。
だが真田は故障から今年は本調子ではなく、山田もシーズン序盤は苦しんだが、現在は完全に立ち直っている。
ただしこの調子なら、チーム内での勝ち頭は大原になるかもしれない。
とにかく馬力と、体の強靭さでイニングを投げるピッチャーなのだ。
そして交流戦後の試合が終わって、六月も終わる。
当たり前のように、大介は月間MVPを取ってくる。
六月も打率は四割を超えて、OPSも1.5を超える。
入団してからこれまで、負傷で休んだ時期を除けば、スランプの時以外は野手部門のMVPをずっと取っている。
上杉の場合は何かの拍子で一敗した月に、全勝したピッチャーがいれば、そこに与えられる場合が多い。
こういったものは複数人に与えるからこそ、価値があるものなのだ。
大介の場合は成績が突出しすぎていて、他の者に与える余地がない。
だからといってスランプや故障など、ファンは求めてはいないのだ。
ここまでで73試合を消化と、いいペースでシーズンは進んでいる。
大介の打撃成績は打率0.409 安打92 打点100 本塁打35と、盗塁が46まで増えている。
そして最高出塁率も軽く五割を超えているので、他のバッターでは対抗のしようがないのだ。
これでピッチャーまでやる二刀流だったら本当に地獄のような選手であるのだが、確かに150kmぐらいは出せる肩をしていても、ピッチャーに向いているわけではない。
200安打超えは難しいだろうが、安打数でもトップに立っている。
そしてまさかとは思うが、200打点超えが視野に入っている。
なお四球の数も81となっており、これもまたシーズン最多記録を更新するかもしれない。
なおホームラン数の二位は同じライガースの西郷で、ここまで21本のホームランを打っている。
普通ならこれもまたホームラン王を狙える記録なのだろうが、プロ野球においては大介以前と大介以後が存在する。
ちなみにピッチャーも、上杉以前と上杉以後が存在する。
ホームランの世界記録、年間73本を狙うのは難しくなってきた。
だがそもそもMLBの記録は162試合の中で行われるものであり、それより20試合あたりも少ないNPBのシーズンでそれを狙う方に無理があるのだ。
これまでの大介は三冠王を三度、そしてその中には一度の四冠王と二度の五冠王が含まれている。
六冠王を達成できたとしたら、それは間違いなく史上最強のバッターの証明である。
歩かせても盗塁され、勝負したら打たれる。
もう本当に、ごく一部のピッチャー以外は、大介を止めることは出来ない。
そして大介を運良く止めても、その前後の打者も怖いのだ。
七月に入るとオールスターの集計が見えてくる。
投手で上杉、野手で大介が突出するのはいつものことだが、ライガースからは他に、西郷と大原と真田も選出されそうだ。
リリーフに回った真田は、ここまで15登板で2勝0敗7ホールド4セーブと、リリーフエースとしての地位を確立している。
セットアッパーで使われるかクローザーで使われるか、相手によって変わってくるので、どちらかに偏ることがない。それでむしろ、タイトルには届かないだろう。
そんな真田はまだ体の調子が悪いので、おそらくオールスターは辞退することになるだろう。
そして代わりに山田が出ることになるのだが、気付く者はこのあたりで気付く。
大原はなんとここまで九勝一敗。
上杉が12勝2敗なので、勝率では上回っていることになる。
もちろんタイトルのために必要な勝ち星には、まだ届いていない。
勝利数や防御率や奪三振数など、もちろん他の部門では全くかなわない。
だが今のライガースの強力な援護があるなら、勝率のタイトルが狙えるのではないか、と。
チームが全体的に良くなってきても、今度は調子が落ちてくる選手がいる。
ライガースの場合はそれがクローザーのウェイドで、左打者が多めに相手の最後の攻撃となれば、真田が投げることも多くなった。
そんな状況でもしっかりと結果を残すあたり、真田もまたプロである。
ただ中継ぎにクローザーまで兼務に使われるのは、さすがに負担が大きい。
このオールスター期間は、休養にあてる真田である。
そして七月も中旬、ついにオールスターがやってくる。
ライガースの好調は七月になっても続き、またもペナントレースは独走態勢に入りつつある。
大原も勝ち星を増やし、真田もリリーフエースとして君臨し、西郷は大介と一緒にホームラン競争に呼ばれることになる。
83試合を消化し、大介のホームランは40本。
打率もまだ四割を維持し、チーム打率やチーム得点でも、リーグで首位を走るライガース。
投手陣はそこまでの数字は残していないが、要所で真田が締めるピッチングをしているので、競り合いにも強い。
短いイニングとはいえ、勝ち試合にはほぼ登場する真田のパターンは、首脳陣としてはおおいにありがたいことだ。
大介の戦いはもはや、上杉のような例外を除いては、ピッチャーとの戦いではなく自分との戦いになってきている。
プロ野球の打撃記録の大半を、史上最速で塗り替えていく。
不可能だと思われていたシーズン記録も、ぽんぽんと更新していく。
たださすがに盗塁の記録は届かないだろうし、そんな機会もそれほどないだろうが。
あと実は、サイクルヒットは一度も達成していない。
また足が速いにもかかわらず、三塁打は極端に少ない。
今年はおおよそ180本ほどの安打を打てそうなので、本当に打撃六冠が狙える位置にいる。
どうせ他の誰にも出来ないのだろうから、もう自分がやってしまうしかないだろう。
大介はそう考えているが、同時に打率や打点、ホームランの数までもが一気に更新できるかもしれないというのは、それこそ異常なのである。
プロ入り四年目にして、その力は完全に発揮されるようになった。
トリプルスリーならぬトリプルフォーも、狙える位置にいる。
このままなら、四割、60本、80盗塁という意味の分からないことになるが、本人もあるがままに打って走っているだけなので、あまり深くは考えていない。
普通ならばもっと、勝負される機会は少なくなるだろう。
だが少ない勝負の機会に打っているので、打率は上がって成績も上がる。
前に出てくれて、後ろで打ってくれる打線のおかげで、大介は狙ったシーンで確実に打てる。
首脳陣はもう、守備負担の大きなショートをさせずに、打撃に専念させたらいいのではないかとも考えている。
もっともポジションを変えるということはそんな簡単なことではなく、下手に影響を与えるようなことはどのコーチも避けている。
実際のところそれなりに失点する現在のライガースでは、ショートの役割は大きいのだ。
セカンドの石井との二遊間は鉄壁で、横への動きはあまり俊敏でない西郷の分も、左方向への打球は処理してしまう。
球団の資本の大きなライガースであるから良かったものの、これが貧乏球団であれば、近いうちには年俸が払えなくなっていたかもしれない。
ライガースの場合は親会社も広告に球団を使えるので、そちらもまた好調である。
大介の年俸が10億を超えても、まだまだ余裕がたっぷりある。
甲子園球場は毎試合満員であるし、ネット配信の料金も高くなってきている。
この点では毎試合出られる大介は、上杉よりもずっと商品価値が上なのである。
そしてオールスターがやってくる。
ルーキー時代から続いている、四度目のオールスター出場。
今年もまた存分に暴れまわるつもりの大介。
ベテランになりつつある山田は、初出場の西郷と大原を連れて、何かと世話を焼いてやる。
そんな中で始まるのが、ホームラン競争なのである。
大介の打球は、低く飛ぶ。
バックスピンをかける打ち方なのは、他のホームランバッターと同じである。
だがレベルスイングからの、ほんのわずかな切る感覚で、スタンドまで飛ばしてしまう。
この軌道が低いことにより、次のボールを投げてもらうのも簡単になっている。
短い時間で、多くを打つ。
当然のように一日目は、最多のホームランを記録する大介であった。
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