第194話 リリーフエースはサウスポー
野球は実力差があっても、割と連勝はしにくいスポーツである。
理由の一つとしては、ピッチャーに絶対的なエースがいても、毎試合登板できるわけではないというものがある。
これまでの連勝で最も長いのは、18連勝。
去年のライガースも15連勝というものがあったが、今年のライガースも交流戦前あたりから、14まで連勝を伸ばしている。
特にその要因と言えるのは、安定した先発ピッチャーが増えてきたことと、リリーフ陣が改善されたことにある。
中でも一番大きいのは、復帰した真田である。
高校時代は大介でさえ、まともに攻略するのは難しかったスライダー。
それが左打者にとっては、必殺の効果を持っている。
真田の球種はスライダー、カーブ、そしてたまに投げる高速のシンカー。
肘への負担がかかるタイプなので、今でもあまりシンカーは使わない真田である。
緩急はカーブを使って、ストレートかスライガーでしとめるのが去年までのスタイルであった。
だが怪我の影響からストレートの球威が戻らず、先発として長いイニングを投げるのは厳しい状況。
とは言っても相変わらず左殺しのスライダーは使いたいわけで、それをより効果的にするため、カットボールを身につけた。
ストレートはまだ回復していないが、見せ球としてボール球を振らせる程度のことは出来る。
もっとも決め球として使うには、やはり信頼性が低い。
今季はもう、リリーフとして投げる予定だと真田は言った。
先発か中継ぎかで迷っていたキッドを、これで先発に固定することが出来る。
日々の練習の中でも真田は、ストレッチと柔軟を多くして、下半身強化に努めているらしい。
やはり怪我をすると、それだけ慎重になるものだ。
真田は高校時代に、しょっとした怪我を何度かしていた。
おそらく本当にシーズンを通じて全力で投げるなら、もう数年は体がしっかりとしてくるのを待つべきなのだろう。
今の真田にはまだ、危うさがある。
(せごどんみたいな人もいるけど、日本人って高卒の段階では、あんまり無理させない方がいいんじゃないかな)
そんな大介は一年目から、開幕スタメンであるわけだが。
大介が入ってからライガースは、多くの記録を作ってきていた。
その多くが大介の個人記録であるが、連勝記録を更新するのか。
そんな期待をかけられているライガースは、次は甲子園に戻って神戸との対戦である。
だが三連戦の初日は雨で中止。
先発予定だった山倉を一つ後ろにずらし、まだローテ固定とはなっていない若松は一回飛ばし。
そして三戦目で琴山を投げさせる。
山倉はまだいいのだが、琴山はピリッとしない内容が多い。
今季もローテの一角として、九先発しているのだが、一勝一敗で星のつかないゲームが多い。
もちろんリードして後ろにつなげても、リリーフ陣が打たれることはあったのだが、打線のおかげで消えている負けも多い。
山倉の投げた神戸との一戦目は、接戦で終盤にもつれこんで、ぎりぎり八回の裏に勝ち越し。
勝ち投手はこれまた、一軍に戻ってきている青山についた。
これにて15連勝と勝ちを伸ばす。
真田はここでセーブを記録した。
セットアッパーがクローザーか。
相手チームの左割合と、打順によって起用方法は変わる。
どちらにしろ終盤には、大量点差で勝ってない限りは、出番が回ってくるのだ。
雨によって若松の登板は飛ばされて、琴山の先発となる。
かなりの試合に先発として投げているのだが、どうしても打線の調子と噛み合わない。
確かに今年は防御率が悪いが、それでももう少しは勝っていてもおかしくないのだ。
六回までを投げて四失点と、まずまずの出来。
しかしそこで打席に代打を送られて、チームが逆転しても勝ち投手の権利が消える。
結果は最後まで追いつくことも逆転することもなく、黒星がつく。
良化して来ている投手陣の中では、いまいち波に乗り切れていない。
それと同レベル以上で語られるのが、大介の成績である。
もう四試合もホームランが出ていない、と異常事態のように言われる。
ホームラン王争いは、二位にダブルスコア近い差をつけているのに、なんでそんなことを言われるのかは分からない。
だがとりあえず、シーズンはまだまだ進むわけである。
続いては千葉との対決となった。
ここでも初日が雨で潰れて、月曜日に試合がずれ込むこととなる。
先発は中七日休めた大原。
甲子園で千葉と戦うというのは、なんだか不思議な感覚の大原である。
そして大介は雨が降って休みの間に、スイングを微調整する。
四試合ホームランが出ていないといっても、それぐらいは普通のことである。
だが確かにこの数試合は、ミートの瞬間にスタンドには届かないな、と分かったものである。
フォームからスイングを解析してみると、ややスイングスピードが落ちていた。
どういうことだ、と首を傾げるが、おそらくは脱力からのスイングが上手くあっていない。
腕の力で打とうと思っても、ホームランは打てない。
腰から当たっていく感覚で、回転でスピードを加える。
そして、スピードこそがパワーである。
インパクトの瞬間には、しっかりとバットを握っておかなくてはいけない。
固定することによって、パワーが爆発力となって、ボールを飛ばしていくのだ。
大介は自分の感覚を重視する。
ボールを掬い上げて、スピンをかけてホームラン、という打球を打つのは難しい。
レベルスイングの鬼となって、ボールをとにかく遠くに飛ばす。
マシンの球なら簡単に飛ばせるのだが、人間のピッチャーのボールはクセがある。
それをしっかりと見極めるのが、大介のホームランを打つためのコツだ。
現在の千葉は、パの中で二位の順位にある。
ジャガースが独走していたのだが、ライガースが三タテで勝ってしまったため、その勢いが削がれることが期待される。
そんな千葉には大介の後輩である鬼塚もいるわけで、今年はおおよそレギュラーに定着していることが多い。
ただ細かいこととはいえ、怪我がそこそこあるのは心配である。
雨の翌日にはグラウンドの整備も入り、試合にはちょうどいい天気となった。
鬼塚以外にも千葉には、そこそこ見知った顔が多い。
その中ではやはり、今年もパの首位打者争いをしている織田が要注意だろう。
もっとも織田と首位打者争いをしているのが、ジャガースのアレクなのであるが。
織田は普通にツラがよいこともあり、千葉の中ではスター選手だ。
それにイロモノ枠で取った鬼塚が、スタメンに入っていることが多いのが、現在の千葉である。
千葉の好調の要因は、一つには去年のドラフト一位で指名した、東北環境大の大卒クローザー木場のことが上げられる。
スタミナがないため先発には向いていないのだが、中継ぎや抑えとして、その短い時間の爆発力が、終盤の千葉を救っている。
大介としては別に、そうこだわるほどのピッチャーではない。
ただスプリットを二種類持っているというのが、ややこしいところかもしれない。
小さく鋭く落ちるスプリットに、大きく手前で落ちるスプリット。
それはもうフォークだろうと周囲は思ったりするのだが。
本日のライガースは、やはり大原が先発である。
そして試合を崩さない程度のピッチングをして、その間に打線陣が点を取る。
プロの世界では圧倒的な存在のエースというのは、シーズンを戦う上ではあまり必要ない。
大原のように試合を崩さない、スタミナにあふれたイニングイーターが、絶対に必要なのである。
前の試合で連勝が途切れて、ライガースとしては少し心配な雰囲気であるが、それに動じずに大原は投げる。
ある程度打たれて、点を取られるのも覚悟の上。
必要なのは、崩れないこと。
崩れさえしなければ、ライガースの打線は、大介は必ず点を取ってくれるのだ。
四試合、ホームランが出ていなかった。
だから確率的には、そろそろ出てもおかしくなかった。
久しぶりのホームランは、ランナーを一人置いた二打席目。
まともにではなくても、勝負しにいったら打たれる。
それがまだ分かっていないのが、パのピッチャーにはいるらしい。
いや、マスクを被っていた武田の責任であるのか。
そして終盤、追いつかれてからの最終打席。
クローザーとしてマウンドに立った木場から、サヨナラとなるソロホームラン。
ちょっとやそっと上手く行っていても、大介との勝負はまともにはいかない。
ここまで12連続セーブ機会成功であった木場だが、そういった記録は大介には通用しない。
選手としての、格が違う。
マスクを被った武田としては、それを思い知らされる試合であった。
千葉との対決は、ライガースが二連勝した。
雨天で順延となった分、月曜日に試合が行われるはずが、ここも雨で中止。
どちらにしろ交流戦、ここまでライガースは全ての試合に勝ちこしている。
首位までほぼゲーム差なしと、今年もまた優勝が見えてきた。
もっともそれを意識するには、さすがに早すぎる時期であるが。
57試合を消化した時点で、大介のホームラン数は28本。
相変わらずほぼ二試合に一本は、ホームランを打っている計算になる。
そして下手に勝負してしまうと、一試合に普通に二本も打ってしまうわけだ。
そろそろまた敬遠が増えてきそうであるが、ランナーなしでは敬遠しても、ライガースファンから野次が飛ぶのが甲子園。
選手への人格攻撃がひどいので、ここでは逃げ気味でも勝負することをオススメする。
千葉との三戦目は予備日にずれて、次の対戦カードは北海道である。
飛行機で北海道に飛び、北海道ドームでウォリアーズとの対決。
パはジャガースの一強状態とは言え、まだ季節は初夏に入るころ。
ここから一気にチームが躍進して、優勝を狙っていくことも考えられる。
もっともそういった勢いのためには、中心となる選手が必要になるのだが。
それほどの影響力を持った選手など、そうそういるものではない。
たとえば上杉のように、確実に勝ち星を稼いでくれる選手や、大介のように、必ず一発を打ってくれる選手。
チームを采配するのは監督であるが、それを実行できるかは選手次第である。
そしてライガースは、それを実行できるのだ。
北海道と言えば、大介は買った馬のことが気になるが、あちらはツインズに任せたきりになっている。
毎月金が支払われているのは確認してあるが、高い買い物は維持費も高い。
動物であるからには仕方のないことなのであるが。
(北海道の経済に貢献してるわけだし、ここでもまた貢献するか)
たとえ対戦相手のファンでも、大介のホームランは見てみたい。
現在進行形で、伝説を作り続ける大介は、史上最速でのホームランをどんどんと打って行く。
それはこの北の大地でも、変わることはないのだった。
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