十四章 プロ四年目 復活の季節

第193話 復活の五月、そして六月は

 福岡との三連戦が三連勝で決着し、五月の試合が全て終わった。

 今シーズンイマイチ波に乗れなかったライガースは、これで今季最長の11連勝。

 完全にAクラスに入り、28勝22敗と借金生活も終わり。

 そして当たり前のように、大介は月間MVPを取る。


 打率0.419 出塁率0.578 OPS1.619

 相変わらず化け物のような数字となり、50試合が経過したところでホームランは25本と、測ったように二試合に一本の割合で打ってくる。

 安心の打撃三冠に加えて、四月はそれほど多くなかった盗塁が、一気にリーグ二位まで伸びてきた。

 選手が揃ってきてようやく、ライガースも本領を発揮し始めたというわけだ。

 

 そして大阪が大盛り上がりしている中、関東の球団は「またライガースかよ」と怨嗟の声を上げるのである。

 特に一位のタイタンズと、二位のスターズはそうだ。

 だがスターズはあせっていない。

 なんならリーグ優勝はタイタンズに譲ってもいい。

 ライガースにさえシーズン優勝をさせなければ、クライマックスシリーズで巻き返すことが出来る。

 そんな静かな狙いを首脳陣が持っているため、スターズの選手はあせってはいないのだ。




 それはともかく、ライガースの次の三連戦は、絶好調でパの首位を独走する埼玉ジャガースである。

 セの方はタイタンズがトップを走っていると言っても、三位のライガースまで六ゲーム差。

 だがジャガースは二位の千葉相手に六ゲーム差なのである。

 試合展開としては序盤から一気に点を取っていって、相手の士気崩壊を狙う。

 まさに強さを見せる野球をしているのだ。


 これに対抗するには強い先発と、取られたら取り返す打線陣が必要になる。

 ライガースの三連戦の並びは、大原、山田、キッドとなっている。

 チームの勝ち頭である大原は、この間のタイタンズ戦で初めての黒星がついたが、それでも大きく崩れたわけではない。

 しかしさすがにローテを守りつつ完投も多いということで、早めに下げたのだ。

 そこから逆転の可能性もあったのだが、世の中はそんなに甘くない。

 年に一度も負けない化け物は、上杉ぐらいでいい。

 まあ今年の上杉は、既に一度負けているのだが。

 

 埼玉の敵地において、この三連戦は行われる。

 相変わらず山の中の雰囲気っぽい球場は、構造上あまり改修して座席を増やすことが出来ない。

 だがジャガースの人気も最近は高い。

 強いチームというのはよほど阿漕なことをしない限り、人気は出るものなのだ。

 昭和のパのチームは除く。


 かつてジャガースはパの王者であり、覇権を握るチームであった。

 そのスカウトと育成のノウハウが、実は今では福岡に伝わっていたりする。

 他のチームのいいところは、どんどんと導入していく。

 福岡はチームのオーナー会社が変わっているため、そういう傾向がある。

 まあオーナーが変わっても、資金力がなければやはり無理であったりもするのだが。




 大原はここまで六勝一敗で、リリーフ陣が崩壊していたライガースにおいては、イニングイーターの先発として安定した成績を残してきた。

 かなり運が良かったこともあるが、味方が逆転してくれるまで待てるということも強い。

 完投数はリーグ三位で、去年からさらに覚醒した感じはする。

 あとは体力があって、回復力も高いことが評価されている。

 上杉がいなければタイトルを取れてもおかしくはない。


 今日の試合も初回から一点を取られたものの、ライガースの打線はそれ以上の点を取ってくれる。

 打線の援護というものは、大原の高校時代にはなかったものだ。

 一軍の得点力があってこそ、大原は活かされる。

 この後も追加点を取ってもらって、調子よく大原は投げていく。


 ジャガースはとにかく一番のアレクからずっと、高打率高長打率俊足のバッターが五人も続く。

 最後に長距離砲の外国人を六番に置いて、止まらない打線を作り上げていくのだ。

 一番と二番に白富東の選手がいて、高い出塁率を誇る。

 どちらが出塁しても、二塁までは平気で塁を進めてくる。

 大原の弱点らしい弱点としては、クイックがやや遅いことだ。

 30盗塁ペースで走ってくるジャガースのランナーは、とにかく走力では全球団一位だろう。


 一番から五番までが三割打者で、塁に出れば安定して走ってくる。

 そして六番の助っ人外国人は、打率こそ三割には満たないが、ホームランは30本ペースで打っていて、そして外野フライが多い。

 機動力を活かして、そして時折長打も打ってくるこの打線は、上杉であっても抑えるのには苦労するだろう。

 そう思いながらも大原は淡々と、ヒットを打たれてもイニングを進めていく。


 七回までを投げたところで、4-4の同点。

 大原はほぼその実績に合った数字を残している。

 あとはここから、他のピッチャーがリリーフをして、打線が勝ち越し点を取るのみである。

 大原は七勝目こそつかなかったが、充分なピッチングをしてくれた。




 八回の表、先頭の西郷にソロホームランが出る。

 この回は一点だけだったが、勝ち越しは勝ち越しだ。

 ただしその裏のジャガースも、三番クリーンナップからの好打順。

 だがベンチの中で悟とアレクは、ここからの継投を考えると、非常に厳しいと感じる。


 ジャガースの偏った点は、一番から五番までが左打者ということだ。

 そしてライガースの現在のリリーフ陣には、左殺しがいる。

 ピッチャー交代が告げられて、この回の頭からが真田である。


 白富東は確かに、甲子園では真田をどうにか攻略して勝ってきた。

 だが左打者にとっては、やはり鬼門であるのだ。

 あの高速スライダー。

 ストレートの球速は戻っていないらしいが、どうも映像を見るに、従来のスライダーに加え、カットボールらしき変化球も投げている。

 単純な左ピッチャーというだけならいくらでも打てるのがジャガースの三割打線だが、真田は左打者相手の被打率が極めて低い。

 あのスライダーにカーブを組み合わせると、まともに打てないのはほぼ全てのバッターに共通のことだ。


 今日は打線の運が悪かったと言える。

 大原をそれなりに打ってはいたのだが、しぶといピッチングで連打を浴びない。

 それでも内野ゴロやタッチアップで、ホームに帰るのがジャガースの機動力野球である。

 しかしゾーンで勝負してくる大原のストレートには、詰まった打球を打ってしまうことが多かった。


 八回、ジャガースの攻撃は真田の前に三者凡退。

 現在のパの先頭を走るジャガースにとって、真田がリリーフで投げてくるというのは、相性が悪すぎる。

 ストレートはゾーンに投げず、カーブとスライダー、そしてカットボールで三振と内野ゴロに片付けられた。

 そして九回の表はライガースの攻撃は一番からで、つまりツーアウトで大介に打席が回るのだ。




 一点差ではまだ分からないな、と大介は考えている。

 同点から勝ち越したので、真田に勝ち投手の権利が発生している。

 リリーフに徹している今の真田に、勝ち星がどれだけ意味があるのかは不明である。

 だがとりあえず、一つぐらいは勝っておこう。


 ツーアウトまではどうにか片付けたが、そこから対決するのが大介である。

 一点差であればホームラン一発で同点であるし、下位打線に代打を出していくことも考えられる。

 だが二点差になると、試合の流れを見ても、ライガースの勝利が近付いてくるのではないか。


 歩かせてもいいな、とジャガース花輪監督は考える。

 大介もまあ、まともには勝負してこないだろうな、とは思っている。

 外角のボールが続く。

 バットは一度も振ることはない。

 スリーボールとなって、一度バッターボックスを外した。


 軽く素振りをするが、そのスイングスピードはなんなのか。

 パワーではなく、瞬発力のスピードから、パワーを生み出すのが大介のバッティングである。

 そしてスイングのパワーが一番発生するのは、外角のボールなのだ。

(内角にスライダーを)

(いいのか? バットの根元でも打ってくるぞ)

(当ててもいいぐらいのつもりで投げろ)

 コントロールミスで少しでも内に入ったら、打たれる可能性がある。

 それよりは外のボールしか見せていないここで、内角にボール球を投げよう。

 どちらにしろ、ゾーンには投げないのだ。


 投じられたのは内角へのスライダー。

 しかし当てるつもりというほどではなく、ボール球ではあるが、よけられる程度のコース。

 そして大介は、こういったボールならば打てる。


 当たる直前まで体を開かず、腰を高速で回転させながら、バットの根元で打つ。

 高く上がったボールは、甲子園球場なら風の影響で、押し戻されていただろう。

 だが今は、ポール際に飛び込んだ。

 シーズン51試合目にて、26本目のホームラン。

 試合を決める追加点であった。




 左バッターが多いジャガースは、終盤に出てくる真田にとってはカモであった。

 三連戦の二戦目は山田が投げて、終盤までライガースがリードする展開で進む。

 そして終盤、上位打線の左が続くところで、真田が登場する。


 従来の大きなスライダーに、新しい小さなカットボール。

 外に逃げていくスライダーに、懐をえぐるボールがあって、左打者には打てないコンビネーションを作っている。

 そして真田が投げて相手を封じると、ライガースはその次の回で追加点を取る。

 より楽な状況になって、クローザーのウェイドへと。

 ここも0で封じて、ライガースはジャガース相手に二連勝である。


 これは面白い使い方ではないのか、と首脳陣のみならずプロ野球関係者は気付き始めた。

 真田の左殺しっぷりは、プロ入り当初からよく言われていたことだ。

 そして今、リリーフとして登板する場合、より効果的に左打者に当てることが出来る。

 もちろん完投能力もある真田は、先発として使うのもいい。

 だがまだ完調に至っていないからには、左打者の多いところに当てていくべきだろう。


 それを首脳陣に確信させたのが第三戦。

 サウスポーのキッドが先発のこの試合、それほど左打者との対戦成績が傑出しているわけではないキッドだが、この日はジャガース打線の不振と、彼の好調が上手く重なった。

 七回までを無失点で抑えて、ライガースは三点のリード。

 そして八回には真田を使わず、ここで一点を返される。

 3-1となって九回の裏は、二番の悟から始まる好打順のジャガースである。

 そしてライガースはここで、真田を投入した。


 中継ぎではなく、抑えとして。

 真田はコントロールや奪三振能力などから、クローザーとしての適性も持っている。

 そしてこの日はそのクローザーとしての適性が、存分に発揮された。

 先頭の悟を内野ゴロに、その後を三振と内野フライ。

 三連戦で一イニングずつを投げて、ランナーを一人も出さないパーフェクトリリーフである。


 最終回に左打者の打順が多く回ってきそうなら、真田をクローザーに。

 そうでないならウェイドへと、クローザーを二枚というシステムにライガースは変えていく。

 気が付けば連勝は14にまで伸びていた。

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