第179話 世代交代
開幕三試合目にして、ようやく今季第一号ホームラン。
二試合ホームランが出なかっただけで、今年は調子が悪いのか、と心配される大介である。
開幕二試合、六打数四安打で六打点なのだが、どうしてこれが不調と思われるのか。
確かに大介もホームランが出ないなとは思っていたが、今までだって二試合ぐらい、普通にホームランは打てない時はあったのだ。
ただ大介としては良かったが、チームとしては問題がある。
レックスとの第三戦は、琴山が先発した。
昨年は完全にローテの一角で、20先発したのである。
それで七勝五敗であるが、リリーフに勝ち星を消された数が、打線に負け星を消してもらった数よりもずっと多い。
リリーフ陣の強化はオフの絶対的な課題であったが、いまいち成功しているとは言いがたい。
アメリカから獲得したキッドが、昨日の試合でも一イニングで炎上。
元々真田に勝ち星のつかない試合であったが、さらに負けてしまっては話にならない。
第三戦の琴山は、六回までを三失点。
クオリティスタートではあるが、これ以上投げるのは危険である。
そしてリリーフ陣は、予想通りに打ち込まれた。
何が原因なのか分からないが、とにかくライガースはごく一部を除いて、リリーフ陣だけでなく先発さえも、数字を落としていっている。
この日はリードしていたレックスが、ランナーのいない場面で二度、大介と勝負。
その内の一本を確実に、スタンドに持っていったわけである。
開幕三連戦の三戦目は、やはりと言うべきか、リリーフ陣が崩壊した。
5-8のスコアで敗北。
開幕三連戦を負け越したのは、もう四年も前になる。
ただ大介は歩かされることが多いため、打率がおかしなことになっている。
まだまだ序盤で、打数が少ないので偏っているが、打率0.625というのは、さすがにおかしい。
今年はホームランを量産する予定で、打率はほどほどでよかったのだが。
ほどほどのはずの去年の最終的な打率は0.379と、これも歴代八位である。
一位と二位のシーズン成績を、大介が持っているわけだが。
開幕二戦目のカードは、昨年も終盤まで優勝を争っていて神奈川。
スターズは上杉がまたも開幕戦で、あっさりと七回までを無失点。
そこからリリーフ陣が働いて、勝利へとつないでいる。
開幕カードで三連勝したのは、ライガースとは対照的である。
別に新戦力が加入しているのは、ライガースだけではないのだ。
スターズこそまさに、今ライガースが抱えている問題を克服したチームである。
守護神峠は今年はクローザーとして、既に二セーブを上げている。
上杉と同期の高卒で、上杉よりもずっと無名であったのだが、一気に一年目から覚醒した。
もっとも上杉の同期ドラフトは、故障した一名を除いて、今でも立派な戦力だ。
ただしあちらはあちらで、今年もまたさほどの打撃成績を上げているわけではないが。
開幕戦で七回と、上杉としては珍しく完封をしなかったのは、やはり去年と同じく、少しでも多くの試合に先発するつもりだろう。
神奈川はなんだかんだ言って、上杉でどうにか勝ち星を稼ぐようになってしまった。
去年は30先発25勝1敗なのであるから、上杉の貯金がなければAクラスにさえ入っていない。
ただピッチャーに対して、投げさせすぎではないかという感想は見られる。
上杉は鉄人だから壊れないとか言うのは、さすがに通用しない言い訳だ。
ライガースはスターズについて、かなり警戒をしていた。
毎年ドラフトでは、将来性と現能力を考えて、バランスよく獲得しているつもりのスターズである。
世代交代が進んでいるのはライガースだけではない。
ただそれでも、野手は打撃力よりも、守備力が高い選手が揃っているのだ。
スターズの先発は遠藤。
去年の頭から先発に回っていたはずだ。
高卒五年目というのは大介の一個上だが、高校時代はほぼ無名であった。
それでも地元神奈川の高校ということもあり、スターズは目をつけていたのだ。
育成で取ってもいいところだが、本人としては進学を希望。
それを下位指名ではあるが支配下登録で取るから、と言ってスターズが取ったものである。
実は一年目も二年目も三年目も、少しだけ一軍に上がっていたことがある。
その度に一軍の壁にぶち当たってまた二軍へ落ちていったのであるが、今は完全に主力である。
去年は上杉に次ぐ勝ち星を上げていたのだ。
対するライガースは、大介の同期である大卒の山倉。
順調に成績を上げていって、去年も12勝4敗。
援護点が多かったとは言え、去年のライガースではチーム二番目の貯金をしてくれていた。
準エースと、準エースの対決。
去年は上杉のローテがかなりぐちゃぐちゃになった影響で、ライガースとは当たっていなかった。
(まあ次から次にいいピッチャーが出てくるのは、さすがプロ野球ってとこだな)
おかげで大介も毎年、新鮮な気分でシーズンを迎えることが出来る。
高校時代に既に、150kmは出ていたのだ。
それがプロに入って四年、さらに球速を増してピッチングを学んでいった。
大介を相手にしても、そのストレートを武器に全力で向かってくる。
ランナーがいないとは言え、慢心である。
ゾーン内に普通に入ってきた159kmを、神奈川スタジアムのバックスクリーンまで運んでしまう大介であった。
西郷とのアベックホームランで、まずは二点先制したライガース。
この調子なら西郷が本当に四番に定着したら、SS砲と呼ばれる可能性もある。
プロ入り四試合目で、既に四本目のホームランの西郷。
大介でさえ開幕戦に二本打ってからは、四試合ホームランのなかったのがルーキーイヤーである。
この調子なら143本を打ってしまう計算になるが、さすがにそれは最初だけであろう。
試合はライガースが最初の一発をぶち込んだ。
だが連続ホームランを浴びても、遠藤は立て直す。
そしてその裏には、スターズも一点を返した。
派手な開幕ではあったが、その後はほどほどにチャンスが出来て点が入っていく展開。
大介と西郷の二人を、徹底して注意して遠藤と尾田のバッテリーは投げて、大介はこの試合三打数一安打となる。
西郷は変化球に合わせてミートし、ヒットを打つ。
だがこんなことではいけないと、塁上で自分の頬をバチバチと叩いている。
妥協したヒットを打つぐらいなら、空振り三振の方が潔い。
桜島イズムを大学時代も捨てなかった西郷は、明らかに高校時代よりレベルアップしている。
そしてこの二人が勝負を避けられても、ライガースは打線の他の部分で点が取れる。
山倉も六回を二失点の好投で、自分の打順で代打のチェンジ。
そこから上手く打線がつながって、一点が追加される。
七回の裏、ここからスターズが反撃という場面で、ライガースはリリーフ陣への継投。
7-2という五点差なのだから、ここで勝ち星を消されたら、それはもうぶち切れ案件である。
だが残念なことに、今年のライガースのリリーフ陣は、悪い意味で期待を裏切らない。
七回と八回に二点ずつを取られ、このままの流れなら最終回で逆転という展開である。
だが九回の表に追加点が入ったことが、流れを変えた。
最終的には8-6というスコアで、どうにか勝利。
ライガースは得点力は上がっているが、それ以上に失点が増えていると言っていいだろう。
しかし開幕三連勝をしていたスターズの勢いを止めたというのは、非常に意味のあることである。
第二戦は去年の成長株、大原が先発である。
完投能力のあるピッチャーの時は、ライガースの首脳陣もほんの少し悩みが減る。
大原としてはどうにか、完封勝利を掴みたい。
今では馬力に任せて最後まで投げきる試合はあるが、どうしてもどこかで点を取られてしまう。
1-0のスコアで勝利するというのは、ピッチャーにとっては勲章のようなものである。
ただ現在のNPBには、狙って完封をしてしまえるピッチャーがいるのだ。
上杉がそうであり、山田や真田も、かなり防御率は低くなっている。
真田などは試合の前は、全てパーフェクト狙いでテンションを上げていくそうな。
それにしても、と大原のバックを守る大介は思う。
大原は確かにパワーのあるピッチャーであったが、そのパワーが空回りしていた。
素直すぎる、それでいてスピードのあるストレート。
大介の大好物なボールであった。
今思えば、どうして四位で取ったのか。
もちろん大原より上の順位で指名された、三位指名の支倉などは、まだ二軍で燻っている。
強力になったライガースの打線においては、生半な成績では上がってこれない。
それでもあの時点での大原を、四位で取る価値があるとは思わなかった。
事実、後から聞いたことではあるが、大原の契約金などは比較的安い。
どこか他の球団も、指名しようとしていたのだ。
それと将来性を鑑みて、大原を四位というそこそこ上の順位で指名した。
あの時点の大原であれば、育成指名というのが妥当なところだったと思う。
二軍にもよく顔を出す大介は、大原が一年目はフォーム固定に集中し、二年目にようやく技術論に入ったのを知っている。
紅白戦で対決したこともあったが、明らかに高校時代よりも実力差は縮まっている。
大介も成長しているのに、大原はそれ以上に成長しているということだ。
そして大介が厄介だな、と思うレベルの投手であれば、他のバッターにとってはかなり打ちにくい投手になっているのだ。
ブレイクした去年よりも、さらに成長している。
その勢いのまま、ガンガンとゾーン内に投げていく。
上位打線には繊細に、ただし弱気ではなく。
下位打線には強気に、上から目線で投げる。
打線の援護もきょうはしっかりとしている。
大介を歩かせたら、西郷が長打を打ってホームに帰してくる。
西郷まで歩かせるなら、その後は普通のクリーンヒットで、ホームまで帰ってきてしまうのが大介である。
圧巻のピッチングは、八回の裏まで続いた。
これならプロ入りして初めての完封か、と期待もされる。
だが七点差で、気が緩んでいたのか。
九回の裏、諦めモードの下位打線から、一発が出てしまった。
毎年シーズンを通しても、五本もホームランなど打たない、守備に特化した選手。
そこでホームランが出てしまって、打った本人の方が驚いている。
口を開けたままベースを回り、三塁でベースにつまづいてこけるという演出まであった。
これでもまだ六点の差があるので、ライガースとしては余裕がある。
問題は大原の方が、まだ切れていないかどうかだが。
大原は切れなかった。
八つ当たりのような全力投球で、その後のバッターを三振。
惜しくも完封ならずで、今季一勝目を上げたのである。
試合は爽快に勝てた。
だが大介のホテルに戻る顔は、厳しいものである。
スターズとの三連戦、上杉が中五日で投げてくる。
はっきり言って試合自体は、おそらく負けるであろう。
ライガースの先発は飛田で、去年も完全にローテを回していた。
ただとにかく相手が悪い。
上杉相手の試合は、一点が取れるかどうかという試合になる。
飛田は自身の防御率も四点近く、完投能力もあまりない。
そしてリリーフ陣は、今日の大原が最後まで投げたように、信頼性に欠ける。
スターズはライガース相手に連敗したわけだが、今年こそリーグ優勝をするためには、直接対決で勝っていかなければいけない。
そこで上杉である。
去年と同じく今年も、中四日だとか中五日だとか、無茶な休みで投げてくるのだろう。
だがスターズはライガースに比べると、リリーフ陣が安定している。
球数が少ないままならば、その間隔で投げても問題はない。
事実MLBではローテーションのピッチャーは、六人ではなく五人で回すことが多い。
もっともその分、球数を厳密に数えて、100球ほどで交代してしまうのだが。
上杉が100球を投げたら、下手すれば試合が終わっている。
単純に球数だけでは、上杉は100球でも消耗しない。
上杉は五年連続で、最も多いイニングを投げたピッチャーである。
その割には球数が少ないというのは、ボール球を無意味に投げないということ。
そしてバッターに粘る余地を与えないということ。
年々成長している実感のある大介だが、上杉は同じく成長しているような気がする。
あとは力を、抜く時には抜くのだ。
相変わらず奪三振能力も高いのだが、ムービング系のボールで、打たせて取るピッチングも出来るようになってきている。
これが出来ていれば、最後の甲子園では優勝出来ただろうに。
またシーズンオフの間に、どういう進化を遂げているか。
映像ではなく、実感するのがこの三戦目。
そしてその結果が、今年のシーズンを占うことになるだろう。
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