十一章 プロ三年目 狙え! 三連覇!

第125話 今年も開幕

 プロ野球がいよいよ開幕する。

 いくら前年優勝しても、本拠地での開幕戦は行えない不運な球団。

 それが大阪ライガースである。

 とは言ってもアウェイにおいてでも、開幕戦は開幕戦。

 ここはやはりチームのエースが投げるのが筋というものである。


 広島カップスの本拠、広島市民球場での開幕戦。

 一回の表に当たり前のように先制点を奪ったライガースが、その裏のマウンドに置くりこんだのが真田である。

 地元開幕を本当の開幕戦と取るか、素直に開幕戦を開幕と取るか、それはどちらでもいい。

 とりあえず真田は、どちらでもやることは変わらないのだ。




 初回にいきなりスリーランホームランを、当たり前のように打った大介であるが、とりあえず言えることがある。

(やっぱあの年の大阪光陰、死ぬほど強かったんだなあ)

 その大阪光陰を、自分と直史の代だけではなく、武史の代も破ったというのは、高校野球で常勝軍団を作ることの難しさと言うべきか。

 大介のいないオープン戦の間も調子の良かった毛利が、開幕から一番に入っていた。

 そしていきなりヒットを打って、盗塁まで決めた。

 思えば後藤も一年目から新人王を争ったし、四人も同じ年にプロ入りしたのは、大阪光陰だけである。

 さすがに残る一人の明石までは、まだスタメンに手が届く状態ではない。

 だがオープン戦では、それなりに出番を与えられていた。なにせ打線陣にはいまいち評価が低い神奈川なのだ。

 めんどくさい二番打者だと、直史も言っていたものだ。おそらく今年中にはこいつも一軍に出てくるだろう。

 本当に、なんでこいつらが三年の時に、全国制覇出来なかったのか、不思議でならない。


 そんな始まり方に、広島の初めての開幕投手は対応出来ず、二番の石井も歩かせてしまう。

 初めての開幕という点では、真田も同じことだが、どうせいつかはやると思っていた、という自信の塊と比較してはいけない。

 おそらくはベンチから、歩かせてもいいという指示はあっただろうに、中途半端な外し方をしてしまった。

 そこでホームランを打たれて、開き直ることも出来ずにまたフォアボール。

 一つもアウトを取れずに、開幕投手は降板したというわけである。

 弱肉強食のプロの世界ではあるが、これに折れることなくまたマウンドに登ってほしい。


 初回に五点のリードをもらった真田は、悠々と投げていく。

 球数少なめで内野フライ多めというそのピッチングは、あっさりと勝利投手の権利がつく五回まで、パーフェクトピッチである。

 だが六回、ここでよりにもよって、八番に投げたボールが、すっぽりと抜けてホームラン。

 パーフェクトどころか一気に、完封までなくなってしまった。

 ここで一気に落ち込んで、10秒で立ち直るあたり、真田もプロに慣れてきたと言うべきだろうか。


 負けてもそこでは終わらない。終われない。

 それがプロの世界の、優しさではなく厳しさである。

 チャンスはむしろ、高校野球よりも多いだろう。

 だがそのチャンスを逃せば逃すほど、リアルでクビが待っている。

 

 その六回を終えたところ、完投してイニング数を増やしたいか、と真田は島野に問われる。

 イニング数は確かに増やしたいのだが、完封出来なかったのだから、完投にこだわる意味もない。

 打線が爆発して12-1というスコアになっているので、新人や若手にチャンスをやることも大事だろう。

 長いシーズン、いきなり完投というのもチームにとってはいいのだろうが、どちらにもメリットやデメリットがある。

 結局真田は、他のピッチャーにマウンドを譲った。

 一年目と、二年目のキャンプを送って、自分の体は出来るだけ長く使いたいと思ったからである。


 なお大介は敗戦処理の投手からも二本のホームランを打って、広島の若手の自信を完膚なきまでにへし折っている。

 こういう一方的になった試合の場合、勝っている方は確かに若手を試したいのだろうが、負けているほうはむしろ、敗北の味に慣れているベテランを使わないと、若手の成長を妨げることもあるそうな。

 広島の首脳陣がどう思ったのかは知らないが、そこからベテランの敗戦処理が出てきて、それなりの結果になった。

 スコアは最終的に、14-3である。

 開幕初戦が終わった段階では、大介は三冠王を取っている。




 今年のライガースは、開幕からいきなり一軍という高卒選手は出ないはずであった。

 だが柳本が抜け、琴山が軽い故障をし、WBCから帰ってきた山田の調子がいまいちと、投手陣に脱落者が出ている。

 こういう時こそ若手の出番であるのだが、この出番というのは、年数的に順番に与えられるものではない。

 一年目から結果を出すという選手も、いることはいるのだ。


 柳本の抜けた今年のライガースの先発六枚は、当初は以下のように考えられていた。

 山田、真田、琴山、山倉、ロバートソン、飛田といったところである。

 だがこの中で、ロバートソンとの再契約にフロントは失敗。

 彼はMLBで投げるため、アメリカに帰国してしまった。

 梅雨から夏場にかけて、体調を崩したというのが大きいらしい。

 それでもほぼローテを守り、貯金も作ってくれた先発であったのだ。

 去年の段階では今年も契約がまとまりそうだったはずだが、やはりメジャーから声がかかればそうなってしまう。


 これで一つ枠が空いたが、誰かをしっかりと入れるとは決まっておらず、流動的に使っていく予定だ。

 基本的には高橋に、あと二勝をさせたい。

 200勝投手の誕生というのは、球団にとってもずっと残る記録であるのだ。

 他には真田のデビューで外れてしまったが、星野や二階堂は一軍での勝利投手の経験もある。積極的に試されるだろう。

 そして二軍のコーチ陣から、太鼓判をもらって上がってきた大原。

 スタミナと耐久力は、リーグ屈指であろうとのことである。


 敵地広島での第二戦。

 先発は大介と同期の山倉である。

 山田と琴山は、小さな故障や調整のため、地元での先発に回される。

 飛田でも良かったのだが、大原はいきなり敵地で先発というのもなんなので、消去法で山倉に出番が回ってくる。

 去年は16登板の14先発。

 七勝四敗の白星先行で、また少し年俸は上がった。


 だがこの試合は、ライガースが空回りしたと言うべきだろうか。

 大介のホームランの一発はあったのだ、得点はそれだけ。

 七本のヒットを打たれても一失点で、山倉は六回までを投げて三失点。

 いわゆるクオリティスタートではあるのだが、味方の得点がそれ以下なのでは仕方がない。


 スコアはそのまま3-1で決着。

 打線陣が沈黙していたわけではないが、チャンスで野手の正面を突くことが多く、ランナーが出ても得点に結びつかなかった。

 正直なところ今日の結果は、監督の采配の選択がミスであった。

 ライガース打線が昨日爆発しただけに、今日も雑な強振策が取られたのだ。

 それに対して広島が、しっかりと継投で抑えてきた。

 結果というのは色々と知恵を絞った先に出てくるものである。




 そして開幕三連戦の最後の試合。

 ライガースはここで百戦錬磨、43歳の高橋を先発のマウンドに立たせた。

 試合を捨てたのかと味方側の応援団からさえブーイングが上がったものだが、とにかく高橋は粘り強いピッチングを行う。

 ある意味では目の前の一試合に、最も集中して投げられるのが高橋である。

 そして高橋が投げるなら、絶対に大量の援護が必要だと、味方の打線も奮起する。


 5-4でリードした状態で、高橋はマウンドを降りる。

 わずか一点ではあるが、しっかりと勝ち投手の権利をもぎ取った。

 そして充実してきたリリーフ陣を、ここから投入する。


 ライガースの弱点は、そこそこ点を取られるオークレイを、クローザーとして使っているところだろう。

 だがその分レイトナーや青山も、しっかりと無失点でイニングを回していく。

 そしてそんな状況で、開園された大介をその後のバッターが帰し、7-4と点差は開いた。

 まだ一イニングはどうするのかという場面であるが、ここでライガースはなんと琴山を投入した。


 確かにベンチには入っているのだが、今年は先発の柱として思われていた琴山。

 二年前まではリリーフをしていたが、その働きにまた戻すというわけではない。

 純粋に調整がどうなっているかを、確認するための登板である。


 琴山としてはピッチャーとして、せっかく選ばれたWBCから、あんな形で離脱してしまったのが残念である。

 故障の治癒に首脳陣が慎重になるのは分かるが、もう中継ぎには戻りたくない。

 そんなピッチング、無失点のまま最終回のオークレーにつなぐ。


 三点差あれば、さすがに充分である。

 充分すぎて気が抜けたのか、一点は取られはしたものの、そこまでで広島の反撃は終了。

 7-5にてこの開幕三連戦は、二勝一敗で勝ち越したのであった。

 広島には今年、大介がなかなか攻略できなかったピッチャー、元上総総合で早稲谷出身の細田が入っている。しかしさすがに一年目の開幕からは、出番がなかった。


 これで、高橋はついに199勝。

 名球界入りまで、残り一つの勝ち星という、現実的な数字が見えてきたのである。




 山田に限ったわけではないが、WBCに参加したピッチャーの中には、調子を落とした選手がいる。

 特に先発にそれは顕著だ。むしろオープン戦期間中は休みだったこともあり、仕上げが上手く行かなかったのか。

 その割にはWBC自体では、しっかり戦果を上げたのであるが。

 リリーフ陣の不調はあまりなく、先発に限った話である。

 もっともその中でも、上杉は別格である。

 いきなり完封勝利を上げるなど、四年連続の沢村賞奪取に余念がない。


 大介にも環境に少し変化があった。

 一つには寮の自室にデスクトップパソコンを買ったこと。

 野球ファーストな生活には変わりはないが、しっかりと自分なりの情報網を構築して、自分の練習に活かそうとしている。

 もっともそのデータベースは、セイバーの構築したそれに、しっかりと乗ってしまったものであるのだが。


 あとは、マンションを借りたことである。

 二軍用球場横の寮は、今でも利便性は高いし、寮を出て行くわけでもない。

 ただ、あの二人が来たときのために、ホテルなどではなくちゃんとした、自分の拠点がほしかったのだ。

 保証人には球団の人間ではなく、こちらにいる親戚に頼んだ。

 これで週末のお泊りの準備はOKであるが、そもそも野球選手が休めるのは、普通は月曜日だけなのである。

 無駄遣いになるのかなあと思っていた大介であったが、実際のところはツインズが色々と揃えて、野球から離れて休める場所にしてしまった。


 合鍵は渡したものの、セキュリティもしっかりしたもののため、それなりのお値段になったものである。

(こういうところから色々なスキャンダルが生まれるのかな)

 三人で付き合うと決め、一線は越えてしまった大介であるが、どこか良心の咎めるものがある。

 それだけによけいに、野球で成績を残しておきたいのだが。




 次の三連戦は、大京との対決。

 ホームゲームとは言っても、まだ甲子園が空いていないため、大阪ドームでの対戦となる。

 どうせなら神宮になった方が、まだホームランも出やすくて、あちらで会う機会も作れるだろうに。

 ただ甲子園が大阪ドームの試合になるなら、ホームランはまだ出やすいものとなる。

 そもそも出にくい出にくいと言われる甲子園で、二年連続のホームラン王が出ていることが異常なのだ。


 大介は自分でも、対戦するピッチャーについて調べる。

 三連戦の最初のピッチャーは、高卒二年目の佐竹である。

 経歴を調べてみれば、高校時代に甲子園には出ていない。

 ただその出身高校は、大介が卒業した後の白富東に勝利した、水戸学舎である。


 そんないいピッチャーがいたのに甲子園に届かず、卒業してから甲子園にいけたというのは、レベルは全然違うが上杉に似ている。

 あれだけ圧倒的なピッチャーがいたにも関わらず全国制覇は出来ず、その卒業後に全国制覇を果たした。

 上杉や真田ほどではないが、二年目から先発に上がってくるというのは、相当に見込まれていたものだ。

 これに対してライガースは、まだ甲子園開催でないが、それでも大阪での開催ということで、山田を持って来る。


 山田の不調は大会での疲労と言うよりは、環境の変化によるものであると予想された。

 だが一週間ほども休んで、体が日本を思い出してきている。

 ライガースのエースクラスのピッチャーに、二年目の新人が当たる。

 そして相変わらずライガースの打線は、好調をキープしているのだ。

(佐竹……俺の一個下か。でも水戸学舎って、うちが秋季大会で負けるまで、あんまり知られてなかったんだよな)

 プロ野球は栄枯盛衰。去るものがいれば新たに加わる者がいる。

 対決するピッチャーが年々変わっていくこのプロの環境に、大介はまだしばらく退屈しなくて済むようである。

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