第110話 ツインズ
佐藤家の悪魔のような双子。
一般的にツインズと呼ばれる彼女たちは、少し変わった貞操観念を持っている。
それは、女の子相手ならノーカンというものである。
「「というわけで男の子相手には初めてなんで、優しくしてください!」」
「いや何言ってんだお前」
素でツッコミを入れる大介である。
ツインズは即物的であり、そして激情型の二人である。
婚前交渉に全く抵抗はない。ただし二人とも、お互いが公平でないといけないとも思っている。
「なので片方は大介君のファーストキスを!」
「もう片方が大介君の童貞を貰うことで!
「「決定しています!!」」
「早まったかな、俺……」
頭を抱える大介である。
ツインズが借りている芸能人用のセキュリティがしっかりしたマンション。
そこはセキュリティもしっかりしていた、駐車場からなら住人以外の目に止まることもない。
これから起こる出来事を想像して、大介は緊張している。
ツインズは緊張とは違うのかもしれないが、そわそわしていることは普段の彼女たちらしくない。
部屋は二人一緒に暮らす2DKで、割と広い。
リビングには楽器やPC機器に、よく分からない機材。
だが大介が通されたのは寝室である。
二人が一緒に眠るための、広いダブルベッド。
女性の生活の匂いがする。
彼女たちが好む香水は、かすかに柑橘の匂いがするのだ。
「それじゃあ洗ってきます」
「ほ~い」
「なあ、俺いまだにおまえらが、どっちがどっちか見分けられないんだけど、本当にいいのか?」
「そういうように生きてきたし、そういう人を好きになったんだから仕方ないよ」
そう言ってベッドに座った大介をまたぐような格好で、ふわりと抱きしめてくる。
話の通りだと、こちらが桜のはずだ。
柔らかな胸を押し付けてきて、かすかに躊躇った後、大介と唇を重ねる。
そして舌が歯を割って入ってきて、絡まる。
すこししょっぱい。
「……歯磨きしてなかった」
「俺もだな。今からでもうがいぐらいしておこうか」
「大介君の口の中の味は、私がいただく!」
「お前もちょっと緊張してないか?」
「あはは、まあ男の子とは初めてだし……」
もう一度たっぷりとキスをした後、桜は身を離した。
「大介君のファーストキスいただきました!」
「お前らファーストキスとか童貞とか言うけど、俺が大阪で遊んでたりとかしてる可能性考えないわけ?」
「指輪買ってくれるまでは、考えてたけどな……」
妙にしおらしくてれてれとしているので、大介としても調子が狂う。
横に座りなおした桜は、こてんと頭を預けてきた。
「あたしたちさ、中学生の頃、けっこうやんちゃだったんだよね」
「お前らのせいで人が死んだとか聞いたけどな」
「それは本当だけど、全部がほんとじゃないよ。あたしたちは、レールを敷いただけ」
そう言って見上げてくる瞳の中には、深淵の暗さがある。
「そんな女の子だけど、いいかな?」
「いや、怖えーよ」
素直な大介である。
大介にはモテる機会はいくらでもあった。
それこそプロに行ってからは、商店街の小母ちゃんが、ええ娘さんを紹介してやろうという、そんな話もいくらでもあった。
またタニマチ関連からも女を紹介しようなどと話もあり、大介はそれをきっぱりと断ってきた。
大介が基本的に女に弱い、あるいは女に優しいのは、ほぼ女手一つで自分を育ててくれた母の影響だ。
この二人を母に紹介するのは、さすがに憂鬱である。
そんな二人が頑固なカビよりもしつこく大介の脳裏から離れなくなったのは、いつからのことだろう。
初めて会った時から、好意を持たれているのは分かった。
直史は二人を近づけようとしなかったが、あれは妹たちを心配する兄の姿ではなく、戦友を心配する戦友の姿であったのだ。
学校という同じ空間に入って、その異常さは際立ち始めた。
ただこの二人を衛星のように侍らせる、イリヤというもっと危険な存在もいたから、あやふやになっただけで。
楽しかったな、と高校時代を振り返ると思う。
何もかもがみな、懐かしい。
ひどい迷惑を被ったこともあるが、楽しそうに笑うツインズの姿が、強烈に脳裏に焼きついている。
つまりこうやって、相手の記憶に残ってしまえば、恋愛は勝ちなのだろう。
「ナオにも話通さないとな」
「お兄ちゃんは大歓迎だと思うよ。一人であたしたち二人を引き受けてくれるんだから」
「……」
思わず納得してしまう大介である。
話をしている間に、シャワーを浴びて戻ってきた椿である。
将来的には三人で、と考えてはいるのだが、今はさすがに高難易度すぎると思われるため、一対一である。
上手くいかないときには、桜がサポートするということで。
「逆に緊張するんだが?」
「まあまあ、大介君もシャワー浴びてきて。バスタオルは一番上の使ってくれたらいいからね」
そう言って追い出された大介は、丁寧に体を洗う。
正直言って、期待がすごい。
だが色々と手順を頭の中で考えている間に、肝心なことに気付く。
戻ってきた大介が、バツの悪い表情をしていた。
不安になるツインズに、事実をそのまま告げる。
「ごめん、アレ用意してなかった」
「ほほう、アレとは」
「コレのことかな?」
「たららたったた~」
「コンドーム~」
準備がばっちりすぎる双子は、ベッドの腰のあたりにバスタオルを敷いていたり、枕元にティッシュペーパーを置いたりと、完全にシミュレーションの結果の配置をしてある。
だが、それではダメなのだ。
「サイズがな……」
「え……」
恥ずかしげにパンツを脱ぐ大介をガン見するツインズであるが、さすがに圧倒された。
既に臨戦態勢の大介は、その巨大な男の象徴を、初めて年頃の女性の前に出したのである。
「お……おう」
「おっきいぃ……よね?」
「平均の五割増しぐらいらしい」
これ絶対に入らないと思い、そして普通サイズでは装着も無理なのだな、と分かるツインズである。
なお大介は年頃の男子が一度は試すように、避妊具の装着もやってみたことがある。
なので通常サイズでは入らないのも知っているのだ。
処女相手にそれは、かなり無茶でもある。
今から調達に向かうにも、こういうのはムードというものがある。
「じゃあ、なしでいいよ。最初は着けてる方が上手くできないって聞くし」
「いやいや、俺はそれでもいいけど、お前らはもし妊娠なんかしたらどうすんの」
「終わったらあたしがアフターピル買ってくるし」
「何それ?」
「女性が望まない性交をされた時に、妊娠しないために後から飲む薬」
そういうのもあるのか、とあまり知らない大介であった。
双子とはいえ、他人に見られながらの初体験というのは、かなり敷居が高い。
だが、体の相性はいい。
触れ合った肌の密着感が気持ちいい。これだけで、ある程度の相性は分かる。
そして適切な準備の後に、本番となるのであるが。
「いたたたたたっ!」
桜も手伝ってしっかりと準備したのだが、当然のようにやはり痛かった。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないいぃ!」
「おかしいね。あたしたち、激しい運動してるから、膜は破れてると思ったんだけど」
指で試すぐらいはしているので、大丈夫だと思っていたのだが。
処女膜というのはそう、分かりやすいものではないのだ。
少し待ってもらって、呼吸を整えてから、完全に脱力する椿。
「注射と一緒だから。下手に途中で止めずに、一気にやってね」
「本当に大丈夫なのかよ」
もちろん大丈夫ではない。
少しずつ入れて、呼吸を整えて脱力して、また少しずつ入れていく。
全く気持ちよくなどはなく、とにかく痛い。
「ごめんな、そんなに痛いか」
「痛いけど、これは嬉し涙もだから」
息を荒げる椿に対して、大介は罪悪感を覚えるほどであるが、息子は元気である。
別に痛がる女の子を見て、興奮するタイプでもないのだが。
痛みを上回るのは、達成感。
そして安堵だろうか。
自分の中に他人を入れる。
これは両方にとって、お互いを信用していないとしづらい。
合意の上でしっかりと、お互いの肉体を結合していくという感覚。
気持ちいいわけではないが、満足感はすごい。
大介としても、自分の体の下で、女が自分に貫かれている。
この征服感による達成感はすごい。
それも全く男を知らない、無垢な肉体に己を刻みつけているのだ。
動かさなくてもかなり気持ちよくて、はっきり言って出てしまいそうである。
「ちょっとだけ動くぞ」
あまり出し入れをするのではなく、揺らすように。
それでも椿は、押し殺した声を出す。
「ごめんな、すぐ終わりそうだし」
そして大介は満足した。
快楽は肉体的なものより、精神的なものの方が大きい。
覆いかぶさった大介が、ばたりと横になる。
大変だった。
世の中のお父さんやお母さんは、こういう経験をしているわけか。
気持ち良いのは間違いないが、それでもこれは大変である。
さほど激しく動いていないはずの椿も、呼吸が荒い。
そんな二人に対して、桜は甲斐甲斐しく世話をする。
「あ~、血が出てるね~」
ほれほれ、とわざわざピンク色のティッシュを見せてくる桜である。
大介としては賢者タイムなので、少し眠気まで襲ってくる。
椿も変に力を入れていたことが多かったため、全身が気だるい。このまま眠ってしまいたいのが本音だ。
「それじゃああたしは婦人科に行ってくるから、二人はゆっくりしていってね」
桜が向かうのは、芸能人御用達の婦人科である。
入り口が隠れているので、変なパパラッチにも会わないのだ。
「次はあたしだから、もう一回なんてダメだよ」
「あたしが無理だよ~」
そんな桜が出て行くのを聞いてから、大介はクールダウンした頭で考える。
賢者タイムは、現実を分析するのに優れているのだ。
「ナオには報告するの、いつにしたらいいかな」
「それだけど、やっぱりしばらくは三人でラブラブしたい」
体をひねって大介を見る椿であるが、それだけでも腰から下が痛い。
本当にこれが気持ちよくなるのかどうか、はなはだ不安である。
「でもまあ、いずれは色々話さないといけないだろ」
「あたしたちが大学卒業してからでいいよ」
このあたりも、ツインズは二人で話し合っているらしい。
結婚をするなら、まず桜から。
一応は桜の方がお姉さんであるのと、今回の情事なども含めて考えて、不公平にならないようにしている。
お互いにどこまでも一緒にはなれないからこそ、ちゃんと話し合っているのだ。
もっともこんなに痛いなら、こちらを譲った方が良かったかなと思わないでもない。しかし大介は、自分で女を知ったのだ。
「とりあえずお前たちが大阪に来た時のために、部屋でも借りるか? ホテルでもいいけど、もっと落ち着いたところがほしいだろ」
「そんなに毎日するつもりなの?」
「いあ、それだけじゃなくて、大阪でも荷物とか置ける場所が欲しいだろ?」
「そだね。まあ桜ちゃんが帰ってきてから話そうか」
二人……二人か。
昔は戦国武将など、妻が複数いるのは当然であったし、今でも愛人を持っている金持ちなどはいるだろう。
ライガースの選手の中にも、地元大阪以外に、球団の多い東京で、女を囲っている選手の噂はある。
難しいだろうけど、幸せにしてやりたい。
「あたしたち二人いるから、子供も野球チーム作れるぐらい、いっぱい欲しいな」
「育てるの大変だろ。俺はシーズン中はあんまり動けないし」
こういう時は親を頼るのだろうが、この場合はそれも難しいだろう。
まあ育児は、金をかければ人を雇えるものである。
そう考えてみると、さすがに報告しておかないとまずいことが一つ。
母にはなんと言うべきか。
おおらかな母ではあるが、さすがに二股は、公認とはいえ難しい。そちれが当たり前の正常な感覚である。
相手が賛成しているとはいえ、男がそんなことでどうするとか。
難しい顔をする大介の眉間を、つんつんと椿がつつく。
まだ全裸のままの椿は、もう何も恥ずかしくないと言わんばかりに、胸を晒している。
「お袋にはさすがに言った方がいいと思うんだけど……」
「その時にはあたしたちも一緒に行くよ。」
まあその方が、大介としても助かるのだが。
「大介君、好きだよ」
椿は微笑みながら、もうしっかり分かっていることを言ってくる。
「あたしたちを二人一緒に選んだくれて、ありがとう」
それで済ませてしまって、よい問題なのだろうか。
なお、後に母に経過を説明した大介は、グーで殴られた。
お袋にだってぶたれたことはなかったというわけではない大介は、甘んじてその拳を受けたものである。
そしてこのことを知ったおおよその人間には、呆れられることになるが、それも当然のことである。
同時にその勇気も讃えられたものである。
だがスキャンダル大好きの週刊誌などが、この組み合わせに気付くのは、かなり後になってからのことである。
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