九章 プロ二年目 連覇への道
第103話 西端の球団
福岡コンコルズは九州の球団であり、つまり日本で最も西にある球団である。
今年のペナントレースを制した福岡は、クライマックスシリーズも問題なく勝ち残り、日本一の座を賭けてライガースと戦うことになった。
日程的に言うと、まず甲子園で二試合を行い、福岡に移動して三試合を行い、そしてそこでまだどちらかが四勝していなかったら、甲子園に戻ってくる。
興行的には四連勝するよりは、三勝二敗で甲子園に戻ってきて、そこで優勝してくれた方がいい。
ただそんな甘い気持ちでいると、逆に向こうにいる間に優勝を決められてしまう可能性もある。
現在の両チームの状態を考えると、福岡の方は主力が万全に調整している。
途中からスタメンに入った実城が、いよいよ世代最高バッターと呼ばれるに相応しい数字を出してきたのだ。
そして実城の代わりにスタメンから外れた外国人が、代打の切り札として機能している。
福岡の特徴は、その打力だ。
二番から五番までの打者が20本以上のホームランを打っているという、超重量打線。
それ以外のところからも、侮れば一発が飛び出てくる。
ピッチャーも先発、リリーフ、クローザーとそろっていて、ほとんど隙がない。
それに比べるとライガースは、やや弱点がある。
まずピッチャーの中では琴山が、不調に陥っている。
クライマックスシリーズに入る前、シーズン終盤から、ボールに力が入らなくなってきていたのは確かだ。
一応先発のピッチャーの枚数はそろっているが、琴山はリリーフとしても使えるピッチャーだったので、先発に長いイニングを投げてもらわないといけないかもしれない。
あとは福岡の外国人クローザー、クラウンの成績が、ライガースのオークレイよりはかなりいい。
オークレイも負け投手にまでなったのは一度しかないのだが、クラウンのセーブ機会は48回中46回成功という、とんでもない数字である。
リリーフ陣も軒並、防御率は二点を切っている。
ただ先発に関しては、そこまで突出した者はあまりいない。
早めに継投して、投手リレーで勝つ。
それが現在の福岡である。
現代的な野球という言い方をすれば、福岡の戦術は確かに正しいのだろう。
だがライガースには柳本や真田など、完投にこだわるピッチャーがエース級で二人もいる。
リリーフ陣も、やや弱い。
そして攻撃面に限るなら、長打力ではかなり劣る。
大介一人で、強打者二人分ほどのホームランを打ってはいるが、金剛寺やグラントはともかく、他に20本を打っている者がいない。
それでも別に、少ないわけではないのだが、福岡の方が長打力では強すぎるのだ。
もっとも上杉などは、日本シリーズで三試合投げて、その福岡を三試合とも完封するという離れ業を演じていたが。
さすがに上杉ほどのピッチャーと、他のピッチャーを一緒にしてはいけない。
スタンドが黄色くなった甲子園での第一戦。
福岡は今年最多勝のエース武内を出してきて、こちらも勝ち星はともかく勝率なら上回る柳本を出す。
柳本はとにかく、パ・リーグのチームには強い。
元々ジャガースでパに投げていたからではあるのだが、とにかく日本シリーズになれば頼りになる男である。
去年も四連勝の日本シリーズの第三戦で投げて、一点差のタフな試合を投げ勝っている。
相手の武内も、今年は16勝の7敗と、完全にエースの風格である。
ただ勝利数ならばともかく、勝率では圧倒的に柳本の方が上だ。
初回、福岡の強振してくる打線を、三者三振で封じる。
そしてその裏、ライガースの攻撃。
先頭打者の志龍は、まずこのピッチャーの調子を見る。
武内は26歳。おそらくはピッチャーが一番そのパワーに溢れている頃。
歩んできた道は全く違うが、年齢は山田と同じだ。
高校から直接ドラフトで一位指名され、一年目から一軍を経験し、二年目には主力、三年目にはエース。
そのピッチャーのボールをバットには当てたが、強いサードゴロでワンナウト。
二番の石井はこんな場合、ピッチャーの調子を見極めるのに徹する。
スピードはある。どうやら調子はいいようだ。
コンパクトな構えで、他の球種も引き出していく。
フォアボールで石井が出塁した。
ダースベイダーのテーマと共に、大介の登場である。
(ランナーありか)
マウンドの武内は、やや迷っている。
福岡のピッチャーには、共有されている方針。
大介を相手にして、ランナーがいて一塁が空いていたら、必ず敬遠すること。
大介は打力だけでなく走力もあるので、この状態で一塁に出せば、前のランナーが邪魔でその走力も封じられる。
だがランナーが一塁だと、、二塁に進めることで得点圏のランナーとなってしまう。
ライガースの四番の金剛寺は、高打率高長打率のバッターである。
年々長打の方は衰えてきているが、得点圏のランナーを返す力は維持している。
だからこそ四番にいて、確実に打点を積んでいるのだ。
なんといっても三番の大介が100回以上歩かされて、そこから盗塁してセカンドランナーになることが多いので。
打率もほんの少しずつ下がってはいるのだが、得点圏打率と打点を下げないところが、さすがフランチャイズプレイヤーというところである。
そんな金剛寺がいるので、出来ればランナーをセカンドにも行かせたくはない。
そういう時のために大介への攻め方も考えられている。
おおよそは外角に外した球を投げるというのが、初球の入り方だ。
しかし最初に、内角を攻める。特にインハイだ。
大介は内角であれば体に当たるような球でさえ、腕を折りたたんで打ってしまえるが、インハイの球は普通に避けている。
ゾーン一杯のインハイの試行回数が少なすぎるのである。
二試合目以降の攻略のためにも、これまでになかったデータを集めておかないといけない。
そう考えて投げた武内の初球インハイを、バットの根元で打った。
ファーストの頭を越えて、ライト線の着地した後、ファールグラウンドに転がっていく。
長打になったこの打球、石井は一塁から長躯ホームへと帰る。
そして大介もシーズン中ほとんどなかったスリーベースヒットを珍しくも打ったのであった。
この後の金剛寺の犠牲フライからタッチアップも決めて、初回に二点を取ったライガースである。
柳本の安定感が素晴らしい。
ヒットは打たれても単打まで。そして連打を許さず、強打者に対しては悪いカウントからは勝負しない。
三塁までランナーが進んでも、点が入らない展開。
そして大介の第三打席がやってくる。
第一打席で先制のスリーベースを打った後、第二打席はフォアボールで歩かされた。
そして第三打席は、ランナーがいない。
(二点差だったらまだ追いつけるかな?)
そう向こうが思っているなら、ここもまともには勝負してこないと思うのだが。
二打席目は素直に申告敬遠をすれば可愛げがあるものの、妙なプライドがあるのか届かない外角のボールを四回投げてきた。
あるいはその前打席の印象を残したまま、勝負したかったのか。
外に大きく初球を外した後、ゾーン内にほうりこんできた。
すっかり油断していた大介は、これを見逃してしまう。
勝負してくるのかと思えばまた外に外して、打ち気を逸らす。
その後にスローカーブなどを入れてくる。
そして大介はあっさりと、それを打った。
「まあこちらの集中力をかき回すのが目的だったのかもしれないけどな」
無駄なことである。
打球は伸びるような軌道を描いて、ライトの最上段に突き刺さった。
軌道があと少し違えば、場外にまで達していたのでは。そう思わせるほどの打球であった。
3-0とスコアは変化し、柳本は六回までを無失点に抑えて、マウンドを降りる。
ここからはリリーフ陣に任せるが、強打の福岡の打線には、不安も残る。
だがおそらくこのシリーズの間に、もう一度自分に出番が回ってくるだろう。
そこで確実に投げるために、今は失点の危険があっても、疲労をためるわけにはいかない。
そんな柳本の考えは、首脳陣もリリーフ陣も承知している。
まずは七回はレイトナーが行って、一失点。
八回は青山が行って無失点。
そして九回はオークレイが行って、また一失点。
最終的には一点差まで詰められたが、3-2で初戦は勝利である。
ちなみに大介の四打席目は、普通に逃げられた。
小手先の策で集中力を削ろうとしても、全くの無駄だと分かったのだろう。
そこからの失点はなかったので、判断としては正しかったことになる。
もっとも出塁率100%という、最高の結果からこの第一戦は始まったわけだが。
二日目の先発が発表される。
ライガースは山田、そして福岡は秋元である。
山田は今年、去年よりも成績は落としたが、先発ローテとしては多く投げたし、勝率は良い。
と言うか去年の勝率、そして今年の柳本と真田の勝率が良すぎるのである。
人によってはルーキーの真田が、福岡での試合に先発するのかと、心配したりもする。
大介からすれば、あいつがそんなタマかと、むしろ頼もしくさえ感じるのだが。
それより問題は、その後のことである。
いや、明日のことも心配ではあるのだが。
琴山が事実上離脱している以上、ライガースの先発、リリーフ陣は弱体化している。
なので打線が爆発してもっと点を取らないといけないのだが、今日も三点。しかもうち二点が大介の打点だ。
(そうは見えないけど、疲れてんのか?)
クライマックスシリーズをファーストステージから勝ち上がってきたのとは違い、わずかだがちゃんと休みの時間はあった。
あるいはそれで逆に、勘が鈍ってしまったのか。
あるとすれば、上杉の影響だろう。
上杉はクライマックスでの投球で、明らかに大介以外には手を抜いていたが、それでも大介のホームラン以外では失点しなかった。
バケモノすぎて、自信を失っているのかと思わなくもない。
明日の試合は重要になる。
日本シリーズはもちろんどの試合も重要なのだが、地元の甲子園で、山田が先発で投げるのだ。その重要度は比べ物にならない。
明日勝っておけば、もし敵地での三連戦に負けても、甲子園に帰ってこれる。
日程的に考えれば、第六戦を柳本、そして第七戦を山田と真田で分けることが出来る。
ピッチャーの思考は分からないが、真田の大舞台での集中力はよく知っている。
佐藤兄弟がいなければ、三年連続で夏の甲子園の優勝投手になっていてもおかしくなかった。
もしそうだったら評価はさらに高く、競合も激しいものになっていただろう。
それはそれとして、明日の試合だ。
ホームゲームの甲子園は、出来れば両方勝っておきたい。
(秋元か……)
交流戦では、まだ当たっていない。
翌日、試合前のミーティングで、なんでこいつが今まで投げてこなかったのか、大介は不思議に思う。
サウスポーで、変化量の大きな横のカーブを持っている。
つまり大介の苦手なタイプだ。
もっともあまり、このカーブは多投しないようだが。
カーブ、スライダー、フォーク、シンカーと、四つの大きく変化する球を持っている。
そのくせありふれたカットボールやツーシームは投げないらしい。
不器用だから細かく投げ分けられないということらしいが、四つも変化球を持っていれば、充分に器用だろう。
スリークォーター気味で左バッターのみならず、右バッターからも変化球で空振りが奪える。
そのくせストレートもそこそこ速い。
だが変化球が主体であるのは間違いない。
めんどくさそうなピッチャーである。
だがもしそのボールに自信を持っていて、勝負しにきてくれるのならありがたい。
ホームランを打って打点を稼いで、日本シリーズMVPとなる。
年俸を上げるためには、重要なことである。
×××
大谷さんの11号が人間やめてて草
グリーンモンスターやで……。先っちょで当ててるだけやん……。
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