第44話イーディス~ハルとムツキ~
緋色と銀色の光の粒が私を覆う。
私の銀髪が黒髪に変わり、肩までだったふわふわした髪が、腰まで長くサラサラとしたストレートになり。
150㎝もなかった小柄な身体は、ぐっと身長が伸び、くりくりした緋色の瞳は、黒色の大人っぽい瞳に。
いつも身に付けている洋服から、白を基調として襟や袖口に赤で梅の刺繍が施されているシャツに、弓道で使うような黒い胸当て、黒の細身のパンツに焦げ茶のロングブーツ、ゲームに登場するアーチャのような格好に変化する。
「……
「…………ムツキ」
驚愕を含んだイーディスの消え入りそうな声が零れる。ムツキは優しくイーディスに微笑む。
「…ムツキ、なのか?」
「うん。魔王の封印が解かれたあの日から、
「…願い?あのふたりの子孫?どう言うことだ?」
睦月はイーディスに近付き、イーディスの頬を両手で優しく包む。
「………わたしとイーディスが出会ったのも、わたしが“生贄”になったのも、わたしの魂の半分が春に生まれ変わったのも“
「…………そんな、ことを言うな」
イーディスの質問には答えず、睦月の呟きを聞いたイーディスの瞳から一筋の光が頬を伝う。涙だ。
「あの日、
イーディスは優しく睦月を抱き締める。睦月は力なく、ふるふると頭を振って、イーディスの言葉を否定する。
「“
「“あの日”とは?」
「……………」
睦月はイーディスの問に答えず、身体を少しだけイーディスから離れる。
「……春が覚えてなくて良かった。今はこれだけしか言えない」
「それ「ああ。もう、時間みたい。これ以上は春の身体に負担がかかるから、もう出ていかないと」
イーディスが「それはどういうことだ?」と、問いかける前に、睦月が
「…そうか。これが最後か」
「…わたしは【魔王城】の【封印の間】で待ってる。その時に
そう睦月が呟くと、ティティと睦月の目線が一瞬だけ合い、睦月はティティに口パクで『ティーニャごめんね。ありがとう』と、ティティにだけ分かるよう伝える。
ティティにも睦月の意思が伝わったのか、ティティの頬に銀色の雫が零れ落ちて、そんなティティをガルフォンが支えてる姿が
再び銀色と緋色の光の粒が
『…春、お願いがあるの。……フィルシアールを…イグニのーーから…ーして…』
聞き取れない部分があるけど、睦月は
最後に見た睦月の
私の…春の身体を桜と梅の花びらが覆い尽くし、花びらから視界が晴れると懐かしい光景が目前に広がった。
『春ちゃん、どうしたの?どこか痛いの?』
『熱はないみたいだな』
『…………』
春によく似た20代後半の女性が4才の女の子を、心配そうに抱っこしてる。隣に寄り添ってる30代前半の男性は女の子のおでこに、手を当てて熱がないかを確認する。
『…………』
女の子はそんなふたりの姿が見えていないのか、ぼーと、空虚を見つめるだけだった。
『…いーでぃ、てぃー…にゃ、いぐ…に、どこぉ?』
『えっ、何を言っているの?』
『…誰かの名前か?』
『…もも…か、ちな…つ、どこぉ?あい…い』
『春ちゃん、泣かないで。どうしたの?ママとパパに教えて』
『ちな…つー、も…もかぁー、どぉちてぇ』
『“ちなつ”に“ももか”か?幼稚園の友達か?』
『貴方、そんな名前の子達は幼稚園にはいないわ』
この4才の女の子は“
4才の私に寄り添ってる男女は、私の両親だ。
この頃の私は前世の記憶に引き摺られて、とても不安定な子供
ただ『千夏』と『百花』の名前が出てくる時だけ、4才の私は泣きわめいて、両親さえ、どうしたらいいのか困惑したみたい。
『…お前達、春を連れて
『母さん』
『なに一緒に暮らさなくとも良い。自然が多い場所で暮らせば、春も少しは落ち着くだろうさ』
『お義母さん。それで解決するでしょうか?』
『…それはわしにも分からん。…どうする?』
田舎に来ないかと両親に提案してるのは、
両親も祖母の提案に、母は私を連れて田舎に行くことを決意し、父も不安定な私から離れたくないが、自身の仕事の都合もあって悩んだが、偶然にも田舎の支部に異動辞令が下りて、親子3人で父の
引っ越しから、数日が過ぎ、私は祖母と近所にある神社へ来ていた。
『ばぁば、あれはなぁに?』
『んん、
『ごしゅんん』
『御神木じゃよ。まだ言いにくいか』
『“ちゃくら”と“うめ”が
『そうじゃよ、よく分かったな。この御神木はな、
『……
『春、なんか言ったか?』
春は祖母の問いには答えず、トコトコと桜梅の御神木の元へ歩いて行き、御神木に小さな手を触れる。
『春?』
『なちゅかしぃ、
祖母が不安げに私の名前を呼ぶが、私は桜梅の御神木に問いかける。
当然、私の問いかけに何も返ってこないが、桜梅の御神木の桜と梅の木々が絡まってる隙間から、日光に照らされて、はっきりとした姿形は見えないが、キラキラ光る何かが、私の瞳に入る。
『はっ、春、大丈夫か!?何か入ったか??』
『ん~、らいじょうぶ』
祖母は慌てて私を病院に連れていったが、私の瞳に異常はなく、この日から、私が意味不明に泣きわめくこともなくなった。
『ねぇねぇ、パパ、ママ、ばぁば。“ちゃくらとうめ”にちゅれてって』
『おやおや、またかい。春は御神木が大好きなんだな』
『うん。むかしぃからしってるから、だいちゅき!』
『そうか、そうか。春がまだママのお腹にいた頃も来ていたから、それを覚えているんだな』
父が私の頭を優しく撫でる。
きゃははと、春に生まれて私は初めて笑う。
『…………』
『どうしたんじゃ?』
不安げに私を見つめる母に気付いた祖母が、母に問いかける。
『…春が元気になって良かったけど、これで良かったのか
『それは』
『…いつか春が、私達の手も届かない、
『……国際結婚でもするのかの』
『お義母さん?』
『春が結婚以外で、わし等から離れることはないから、そう不安になるな』
『……そう…ですね』
母は
私は『ずっと此処にいるよ!』と答えていたけど、私が再びディアーナ王国に“聖女”として召喚されたことで、母の“勘”は当たってしまったー…。
「…お母さん…お父さん…おばあちゃん」
私の視界に古びた布が幾重にもかかった天蓋ベッドの天井がうつる。
「…ー起きたか?」
イーディスが天蓋ベッドの、布のカーテンを開き、私を見下ろす。
「ッ!大丈夫かっ!どこか具合がっ!?」
「え?」
イーディスは驚愕して、私に駆け寄る。私はイーディスの問いかけに(具合は悪くないのに、なんで?)と頭を傾げる。
私がよく分かっていないことが、イーディスにも伝わったのか、イーディスもベットに寄りかかるように座り込み、寝てる私に目線を合わせる。
「…何故、泣いてる?」
「え、ええ、ほんと…だ」
私はイーディスに言われて、初めて自分が泣いていることに気付いた。
「…多分、私の…両親と祖母の夢を見たからだと…思います」
「……そうか、もう帰れないだったな」
ホームシックかと私は両手で顔を覆う。
睦月は召喚された日、もう二度と故郷に帰れないとイグニき聞かされた時に、散々「ひどい!」とイグニに泣きわめいてぶつけた。イグニはただ静かに睦月の言葉を受け入れていた。
「…あの」
「なんだ?」
「…フィル君には…このこと言わないでぇ」
「………分かった。その代わりに…ハル、お前の事を俺に教えてくれ?」
「……私が睦月の生まれ変わりだから?」
「いや、ムツキは関係ない。…ただ俺がお前のことを知りたいだけだ」
(そうしなければいけない気がする)
「ハル、お前のことを教えてくれ?」
2度目のイーディスの問いかけに、睦月の記憶を持って不安定だった子供の頃や、神社の桜梅の御神木のことを、私はイーディスに語った。
イーディスはただ静かに私の話を聞いて、私はそんなイーディスを見つめていたら、不思議な懐かしさが込み上げてきた。
「…私達、何処かで会ったことある?」
私の口から、ポツリとそんな問いかけが零れた。
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