第36話戻れない日々と『じんもん?』

 ※前半・前世ムツキ視点、後半・主人公視点

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 ー1月20日ー


 今日は睦月の誕生日。

 睦月を間に挟んで、よく似た顔立ちの、ふたりの少女が、


『『睦月、誕生日おめでとう!』』

『ありがとう』


 3人の少女達はソフトドリンクで乾杯をする。

 少女のひとり、肩まで長い、ふわふわな天パの少女がマイクを持って、


『先、歌っていい?』

『『いいよー』』


 睦月ともうひとりの少女に許可を求める。

 ふたりから了承を得ると少女はお気に入りの"ラブソング"を入力して歌い出す。


 軽やかなボブヘアーの少女が睦月ともう一度乾杯をする。


『これで睦月も私達と同じ18歳だね』

『うん!』

『7月までは私達同じ年かぁ』

百花ももか、意地悪言わないで』

『意地悪じゃないよー。事実だよー』


 "ラブソング"を歌い終わった少女が睦月と百花に近づき、


『次はどっち歌う?』

『んーじゃあ。私が歌う』


 少女の問いかけに百花が挙手をして、マイクを受けとる。


 百花は"アニソン"を入力して、タンバリンをジャラジャラしながら、軽やかに歌い出す。

 睦月はアニメには詳しくないが、ロボットに乗って『うちゅう軍』と『ちきゅう軍』で戦うストーリーだった気がする。多分。


『睦月どうしたの?』

、貴女の片割れは酷いんだよ』

『百花が?』

『そう。さっきね』


 睦月はメロンソーダを飲みながら"ラブソング"を歌っていた、千夏に百花とのやり取りを説明する。


千夏と百花わたし達は双子だしね』

『それは…そう、だけどさ。わたしも同じ頃に生まれたかったな』


 同学年が18歳と誕生日を迎えるなか、睦月は早生まれなので最後に誕生日を迎える。

 仕方ないと言え、置いてきぼりにされた感じがして睦月は不満である。


『次、睦月だよー』

『なに歌おうかな』


 百花からマイクをバトンタッチされた睦月は、今は楽しもうと頭を切り替えて、曲を入力する。マイクを持ってモニターの前まで来ると曲が流れ出す。その曲を聞いた千夏と百花が、


『『18歳で"えんか"歌うの!!』』


 盛大なツッコミを入れた。




「ハル!」

「えっ、ええと。もしかして寝てた?」


 フィル君の切羽詰まった声で、私の意識が覚醒する。


「え、ええ」


 困惑しながらフィル君は肯定する。


「そっか。夢か」

「夢?」


 私はイグニの生まれ変わりであるフィル君に伝えてもいいか迷ったが、下手に誤魔化すよりはいいかなと思い直して、


「うん。……睦月の…ディアーナ王国に召喚された当日で、元の世界で友達に誕生日を祝ってもらっていた時の」


 夢の内容を伝える。


「…………そうですか。と」


 私はフィル君の呟きを聞いてを覚える。


 あれ?


「……フィル君はムツキの"元の世界の友達"に、あまり"いい感情"もってないの?」


 フィル君から"嫌悪感"にちかい感情を感じる。

 イグニの時むかしは違ったと思うけど。


「………ハル」

「ん」

「乗馬中に寝るのは危険です」

「ええ!」


 フィル君は私の質問には答えず、現在の状況を端的に説明した。

 私もまさか乗馬中に"寝る"とは思ってなくて、驚愕した声が平野へ響く。


「僕がから"支えてる"から、落下はしなかったけど」

「うう。気を付けます」


 私達はルティルナの都で"浄化"をしたあと、賞金稼ぎの眼を掻い潜って都を出発した。


 ハルとフィル君私達"ふたり乗り"で馬に乗ってる。


「なんで『馬』の"スキル"がんだろぉ」


 "あっていれば"私もで馬に乗れたのに。この世界は持ってる"スキル"によって"出来る"ことと"出来ない"ことがある。


「"スキル"とのは過ごした""もしますから」

「あぁぁ」


 私は元の世界で馬に触れたことがない。動物園も家族が臭いを嫌がって行かず、馬はテレビで見るだけだった。


 そしてこれは睦月の『弓』の"スキル"があわなくなっていた理由だ。睦月は弓道部で『弓』に触れていたから"あっていた"が、わたしは違う。


とふたり乗りは嫌ですか?」

「えっ」

「嫌ですか?」

「い、嫌じゃないけど」

「ないけど?」


 なにこの状況、じんもん?尋問なの?


 フィル君は私の心境を知ってか知らずが、かなり慈しむような…切ないような瞳で私を見つめてる。


「恥ずかしいぃ」


 私は顔を真っ赤にして、消え入りそうな声で答える。


「"恥ずかしい"と馬に乗るのが?」


 まだ尋問続くの?そう私が驚愕した時、


「あーーのさぁ。んだが"いちゃつく"なら、他所でやらねぇかぁ」

「ガル。邪魔したら…だめ」


 ガルフォンとティティの呆れた声が聞こえた。

 ガルフォンは黒い馬に、ティティはフゥに跨がり駆けている。


「お頭、そう言うが」

「ふたりは【闇ギルド商会組織】から離れても平気ですか?」

「おい。無視すんな」


 フィル君はガルフォンの言葉を無視して、ティティに問いかける。そんなフィル君にガルフォンはツッコミを入れる。

 理由までは分からないけど、フィル君はガルフォンに冷たい?トゲトゲ?してる気がする。


「ん。大丈夫…ボクの…動物を置いてる…から…それにボクは…""だから」

「"正統"ですか。先代は人間だったと記憶していますがティティは"養子"ですか?」

「「………………」」


 人狼族ティティは"養子"だと思いフィル君は質問するが、ティティとガルフォンは神妙な面持ちで沈黙するだけだった。ふたりの神妙な面持ちで何かを察したフィル君は、


「まさかティティは」


 ブゴッ、ブッブゴッ!

 ブブッ、ブッビィ!!


 先行方向に頭に鋭い角がはえて丸々と太った豚に似た肉食の魔物『ポーンビッグ』の10匹の群がこちらに向かって全速力で走る姿が見えた。


 頭をくしゃくしゃにかきながらガルフォンは、


「あー、避けてくれねぇかなぁ」


 呆れたように呟くが、その手にはしっかりと【魔石】が握られていた。

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