第37話“火炎喰らい”ポーンビッグ

 ※主人公視点

 ーーーー

 


 フィル君とガルフォンは馬の手綱を引っ張り、


「リリィ止まって」

「クロウ!」


 フィル君の白馬•リリィと、ガルフォンの黒い馬•クロウは指示に従い、その場に留まる。

 ティティが乗るフゥもキキッとブレーキをかけて砂埃が舞う。


 ブッヒッ、ブッヒヒッ!

 ブッゴ、ブブッゴ!

 ブッブー、ブッヒー!


 10匹のポーンピッグの群れが全速力で私達を目指して駆けて、その瞳は恐ろしいほど鋭く、


「あー、避けてくれねぇかなぁ」

ボク達獲物が目前に…迫ってる…魔物に?」

「無理だよなぁ」

「…それに」


 ティティは双剣を構えながら、チラッと私を見る。その視線の意味が分からず、なんだろうと思っていると、


「ガルフォン」

「なんだぁ?」

「ハルを頼みます」

防御ガードしか出来ねぇぞ」

「十分です」


 フィル君のその言葉とほぼ同時に、私の身体は優しい風に包まれ、ふわっと浮かび上がり、ガルフォンの隣へ地面に着地する。


「フィル君っ!」

「ハル、絶対に近づかないで。それと使。いいね」


 フィル君は私にリリィの手綱を託す。私は訳が分からず、ただ頷くことしか出来ない。

 頷きを確認したフィル君はテレポートでポーンビッグの30メートル程前まで移動する。


 フゥがティティを乗せたまま、上空を飛ぶように駆け上がる。


「飛んだっ!?」


 私が千年前むかしのクゥになかった"幻狼"の能力ちからに戸惑っていると、ティティとフゥはフィル君の右上へ、


 そういえばルティルナの都で魔物が出現した時、ティティとフゥは上空から降りてきた。あれは飛んでいたの。


 ポーンビッグは息を吸い込み、息を止め、


 ブォォゴォォォォッ!ゴォゴォゴォォ!!

 ゴッゴォーー!ゴオゥゴオゥゴォォォ!!


 口から膨大な火炎をフィル君とティティをめがけてき出す。


「危ないっ!」


 私がふたりの元を走り出そうとした時、ガシッとガルフォンに腕を捕まれ、阻まれる。


「ガルフォン、ふたりがっ!離して!?」

「大丈夫だって、落ち着け」

「なっ」


「なにが落ち着けよっ!」そう叫ぼうとした時、フィル君とティティの頭上へ降り注いだ火炎は水の盾と氷の膜で塞がれた。


 フィル君の水の盾が消滅すると、水飛沫が広がり火炎を消化していく。


 氷の膜が砕けて氷柱つららになり、ティティの右手に集まった。多数の氷柱がポーンビッグに降り注ぎ、4匹のポーンビッグを貫く。


「え、ええ」


 私がフィル君とティティの強さに唖然としてると、


 ブブッ!ブブッ!

 ブゴォ!ブゴォ!


 残った6匹のポーンビッグは警戒を強め、息を吸い込み、


「ま、そーなるな」

「どういうこと??」


 千年前むかしはなかったポーンビッグの行動に私の頭が混乱する。


「説明してぇが、そんな暇なさそうだぞ」

「こっちに向かって来る!」


 私は右手に装備した小手から杖を取り出して、魔法を使う準備をする。


「嬢ちゃん、使。あと、近づくなよ。


 ガルフォンはリリィとクロウを視覚阻害の空間結界で覆って、2頭が興奮して、暴走しないようポーンビッグを見えなくした。そのお陰か2頭はほのぼのとして、地面から生えてる草を食べだした。


 喰われる?なにが?


 逆に私はガルフォンの説明にクエスチョンマークを抱えるばかりだ。


「あと、俺。、攻撃は任せる。サポート守りはしっかりするから安心しろ!」


 ガルフォンは私の周りに防御の空間結界を幾重も張り巡らす。


 さすがに多すぎない!?


 ポーンビッグが息を吸い込み、先程放った火炎よりした火炎を私に向かって放つ。


「っ!」


 私は土属性の魔法で、土石の巨大熊で強大化火炎をガードする。ポーンビッグはまた強大化火炎を喰らい、さらに強大化して吹き出す。


 喰らう度に、炎の強さが増してる?

 それにさっきから私ばかり狙われてる?


 地面から巨大な口を開けた泥のカバが3匹のポーンビッグを飲み込む。


 残り3匹。


 大口を開けた3匹のポーンビッグが私に喰らいつこうとして、ガルフォンの空間結界に阻まれる。その眼が獲物を狙ってるようで、私の脳裏にひとつの答えがでた。


「せーかいだなぁ」

「どうしてっ!?」


 ポーンビッグは肉食で人間も食べるけど、どうしてして、喰らおうとしているの?私とみんなの違いはなに??


『火属性魔法は使わないこと』

『火属性魔法は使うな』


 フィル君とガルフォンの忠告を思い出す。


 火炎を喰らって強さを増すポーンビッグと、私だけ火属性の魔法スキルを持ってる。


「火属性の人間が狙われてる!」

「""ポーンビッグ」

「"火炎喰らい"?」

「こいつの現在いま正式名称なまえさ。3

「…3年前【魔王】の"封印"が弱まったときから?」

「……そーだよ。ポーンビッグこいつは火属性の魔物や魔法スキルを持つ人間を喰らって、強さを増す」


 ダンッと私の頭上の幾重もはられた空間結界へフィル君がテレポートして、3本の水の剣が3匹のポーンビッグを切り裂く。


「はぁはぁ、ガルフォン。周辺にポーンビッグか"土壌喰らい"は居ますか?」

「ん、ちょっと待ってろ」


 ガルフォンが"感知•探索"のスキルを使用して、瞳が青く輝く。


「安心しろ。な『プリティラビット』や『スライムキャット』ぐらいしかいねーよ」

「はぁ、そう…ですか。ハル、怪我はありませんか?」

「怪我は…ないよ」

「そうですか。良かった」


 汗だくのフィン君は安堵したように私を見つめ微笑む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る