第10話フィル君

 ーあなたはどのタイプですかー

『待ち合わせ時間、何分前に着きますか?』


 ①時間ピッタリ

 ②早めに到着

 ③遅刻する


 私は“①時間ピッタリ”で、フィルシアールは“②早めに到着”の人間ひとだったからこそだろう。


「…ーーすみません」


 そう言うとフィルシアールくるっと後ろを向いた。


 私は悲鳴を上げればいいのか、恥ずかしそうにすればいいのか分からずに口をぽかんと開けたまま固まっていると


「すみません。早く着替えて…」


 表情かおは後ろを向いていて分からないが、フィルシアールはかなり消え入りそうな声でそう言った。


(そうだね!それがさきだったね!!)


 私は赤くなったり青くなったりしながら着替えをはじめた。


(ええっと、まずは上着)


 白のタートルネックで襟元や袖辺りに淡いピンク色の糸で草花の様な刺繍ししゅうほどこしてあるポンチョっぽい上着を急いで被り


(次は)


 上着と同じ刺繍ししゅうほどこしてある白のひざ下丈のキュロットパンツをいて、後ろに付いてる布の紐をリボンに結ぼうとするが


(あれ)


 なかなか結べず苦戦していると、それに気付いたフィルシアールが


「かして」


 私から紐を受け取るとフィルシアールは綺麗きれいに結んだ。


「ありがとう」


 私は身支度の続きをしようとするが、フィルシアールはリボンを掴んだまま動かなかった。


「?


 どうしたの?と、私はフィルシアールの名前をはじめて呼んだ。

 フィルシアールの体がピクッと反応したのは分かったが、顔が下を向いていたので表情かおは今度も分からない。


 フィルシアールは返事の代わりに魔法鞄マジックバックに入っていた全身が隠れる黒色のローブを私に渡した。


 私はローブは羽織はおって留め具を留めようとしたが、この異世界せかいの留め具はかなり複雑でまた苦戦していると、フィルシアールが今度は何も言わず留め具を留めてくれた。


 またフィルシアールが動かなくなったので、私はフィルシアールの顔を覗き込みながら「フィル君」と、2回目の名前を呼んだ。


「…ーーーっ////」


 今度ははっきりとフィルシアールの大きな瞳がさらに大きくなり、口はパクパクと閉じたり開いたりして、耳まで真っ赤になった表情かおが見れた。


 フィルシアールは私から目線をそらし口元に手を当てながら


「あの…見て…しまい…すみま…せん///」


 途切れ途切れながらも謝罪するフィルシアールを見て私は


(可愛いぃー

 可愛いよー)


 ヤバいヤバいと、危ない扉を開きかけてそっと閉じたのだった。



 やっとベージュ色のミニブーツを履いて時計の針を見ると23時55分を指していた。


 約束の時間の5分前だった。

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