第2話一ノ瀬 春

 私、一ノ瀬 春いちのせ はるは【ある少女の生後から18歳までの記憶】がある。


 (まぁ、流石に赤ちゃんから3、4才頃までの記憶は曖昧だけど、よく覚えているのは)


 たぶん


 〇〇県ーー市の〇〇〇女子高等学校に通っていた時。


 私と正反対な黒い瞳と腰まで伸びたサラサラな黒髪を大きな真っ赤なリボンでポニーテールにしていた。


(私もそうだったけど)


 成績は優秀だけど学業はそっちのけで、部活の弓道と友人達と遊ぶことに夢中の普通の少女だった。



 ー1月20日ー


 友人達が少女の18歳の誕生祝いにカラオケパーティーを開催してくれた。


 のどかすれるまで一緒に歌った帰り道、最後の友人と別れた後、交差点で信号待ちをしていた時に少女は目を覆うほどの眩い青白い光に包まれた。


 そして少女は私と同じディアーナ王国にとして召喚された。



 コン コン


 春はドアをノックする音で今に意識が戻った。


「…どうぞ」


 ノックの相手にそう告げるとドアがゆっくり開いて、あの部屋に居た少年が現れた。


「お待たせ致しました」


 少年はそう告げると優雅に礼をしてから春の向かい側のソファに座った。


 貴賓室きひんしつで待ってる間に出されただろう手付かずの冷めた紅茶を見て少年は馴れた手つきでベルを鳴らし侍女を呼んだ。


 カートに紅茶、クッキーやスコーンなどを乗せて入って来た侍女はテーブルの上に素早く2人分のセッティングをして、一礼してから退室して行った。


 侍女の退室を確認してから少年は春を見つめて、右手を胸に当てながら


「申し遅れました。僕はフィルシアール。ディアーナ王国の国王陛下の弟です」


「親しい人からはフィルと呼ばれてます。どうぞそう呼んで下さいね」


 にっこりと笑いながらそう告げた。


(なんだろう。この少年)


 春は目線を紅茶に向けながら


「はじめまして、私は一ノ瀬 春。18歳です」


「……春が名前で、一ノ瀬が名字です」


(ちっとも少年こどもらしくない)


 前世まえ少女じぶんと同じ自己紹介をしながら春は少年:フィルシアールの事を


(やっぱりイグニに似てる)


 そう思いながら紅茶を一口飲んだ。

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