第111話 何が何でも
泣きじゃくって俺に縋るように抱きついてきていた飯崎が落ち着くまではしばらく時間がかかったが、泣きじゃくったまま話をするわけにもいかなかったので、落ち着いてから必死になって筆箱を探していた理由を訊いた。
「……は? 筆箱に羽実子さんからもらったペンを入れてた?」
「はい……。そのとおりです……」
「不用心すぎるだろ‼︎」
落ち込んでいる飯崎を元気づけなければならないのに、失くした物の価値があまりにも高すぎて思わず口が開いていたていた。
「ご、ごめんなさい……」
「そんな大事なものを筆箱に入れておく奴があるか」
「ごもっともです……」
そんな大切な物ならなぜ自宅で大切に保管しておかなかったのかと説教を続けようと思ったが、強めの口調で話す俺の前で更に小さくなっていく飯崎を見て、言いすぎたと反省して咳払いをしてから冷静に話しかけた。
「それで、図書室で使ったのを最後に記憶がないんだな?」
「うん。それが最後の記憶」
「そうか。わかった」
「わかったって簡単に言うけど……。どうするつもり?」
図書室で最後に使ったとなれば筆箱がある可能性が高いのはやはり学校なのだろうが、飯崎は既に学校を探し回っている。
そうなると、すぐに検討を付けることは容易ではないが、飯崎を不安にさせないためにも毅然たした態度で話しを続けた。
「とりあえず今日はもう寝よう」
「え、でも早く探さないと……」
「こんな暗いのにどうやって探すんだよ」
「それもそうだけど……」
「また明日、手伝うから。二人で探そう」
「……ありがと」
「じゃあな。俺も部屋に戻って寝る準備するから、早く寝て明日に備えろよ」
「うん……。おやすみなさい」
今からでも筆箱を探しに行きたそうな飯崎を無理やり飯崎を寝かせようとしてから部屋を出た。
飯崎の表情を見た俺は決意する。何が何でも飯崎の筆箱を見つけると。
そう決意した俺は飯崎部屋を出て1階に降り、母さんに声をかけた。
「ちょっと出かけてくるわ」
俺がそう声をかけると母さんはため息をつき、呆れたように話し始めた。
「ちょっとってアンタねぇ……。見つからなかったら明日の朝になっても帰ってこないつもりでしょ」
「流石に朝になったら帰ってくるよ。朝になって俺が家にいなかったら飯崎に何してたか気付かれるからな」
「……分かったわ。連絡取れるように携帯は忘れずに持っていきなさいね。無理はしすぎず、気を付けていってらっしゃい」
「……ありがとう」
普通なら自分の息子が夜中にどこかに出ていくとなれば止めてもおかしくないところだが、母さんも飯崎が泣いていたことを重く見ているのだろう。
靴を履き、ゆっくりと立ち上がった俺は、ふーっと息を吐き、気合を入れてから玄関の扉を開けた。
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