第108話 助けるべき人
「美味だ。美味すぎる!」
俺の横で幸せそうに抹茶スイーツを頬張っているのは大食いモンスター金尾。
あたかもこれが今日1個目のスイーツかのような表情をしているが、これが今日9個目のスイーツである。
結局今日も金尾の大食いに付き合わされた俺はもう吐きそうなくらいお腹がいっぱいで辺りはすでに暗くなり始めている。
金尾に付き合わされて吐きそうになっている俺の横には、表情が無いなりにも美味しそうに抹茶スイーツを食べている小波がいる。
小波は金尾が食べるすべてのスイーツに付き合わされた俺とは違い、食べる量を上手くセーブしているのでまだ美味しくスイーツを食べることができているようだ。
お昼過ぎに集合してからずっとスイーツを食べ続けているのに、まだいくらでも入るといわんばかりの金尾の余裕な表情が信じられない。
「天井さん、あんまり楽しめてませんか?」
「急にどうした。腹がはちきれそうなこといがいは楽しめてるよ」
「それならいいんですけど。ずっと他ごと考えてるようにみえたので」
そう金尾に指摘された俺は一瞬身体をビクつかせた。
金尾からの指摘が図星だったのである。
「……他ごとなんて考える余裕ねぇよ。今にも吐きそうだわ」
「小さい胃袋ですねぇ」
「お前の胃袋がデカすぎるだけだ」
「私の胃袋は普通ですよ⁉︎」
「明らかに普通じゃない」
「小波さんまで⁉︎」
金尾と小波さんとの会話はこのように何度も何度も盛り上がりを見せており、嫌なことなんて全て忘れてしまえそうだった。
それなのに、俺の頭の中からは飯崎のことが消えてくれない。
今朝、俺は飯崎の一言に腹を立てて飯崎に強く当たってしまった。
その後悔は結局辺りが暗くなったこの時間になっても消えてはくれない。
「おーい、天井さーん。話聞いてます?」
「あ、ああ。すまん」
「よし、話聞いてなかったお詫びにもう1デザート、行っときましょう!」
「勘弁してくれよ……」
こうして俺は結局金尾が食べたいといっていたスイーツを全て食し、マジで5回くらい吐きそうになりながら帰路についた。
◇◆
家に到着し、玄関の扉を開けるや否や、ものすごい勢いで母さんが俺に迫ってきた。
「藍斗!」
「や、やめろ! 抱き着くな! もう高校生だぞ」
「そんなの今はどうだっていいの!」
「どうでもよくない死活問題だ」
「今朝、あんたが出て行ってしばらくしてから莉愛ちゃんが筆箱を探しに行くって言って家を飛び出していったの」
「は? 筆箱?」
筆箱なんて学校に忘れたところでわざわざ家に取りに行かなくても、家にある筆記用具を使えばいい。
それなのに態々学校まで筆箱を取りに行くのには何か理由があるのか?
「それでね、結局夕方くらいに家に帰ってきたんだけど……」
「だけど?」
「莉愛ちゃん、泣いてたの」
「……え、泣いてた?」
筆箱をなくしたくらいで泣くか普通。何か特別な理由がなければ筆箱をなくしたくらいで涙を流すはずがない。
「そうなの……。それでね、私たちが莉愛ちゃんと話すよりあんたが話した方がいいかと思って」
「いや、そこは母さんが行けよ」
「無理よ。だって余計に泣かせちゃうかもしれないじゃない」
「だとしたら俺も嫌だよ」
「つべこべ言わない! ほら、確認してきて!」
そういいながら母さんは俺の背中を押し、階段を上るように促してきた。
無理やり階段を上がらされると、母さんは1階へと降りていってしまった。
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