第107話 最後の頼み

 私たちが勉強をしていた机の上に筆箱は置かれていなかったが、誰かがどこかに移動したのかもしれないと考えた私は机の上だけでなく、図書室全体をくまなく探してみることにした。


 本を借りるためのカウンターの上や私たちが勉強をしていた机とは別の机の上、更には本棚の上も隈なく探してみたが、図書室のどこを探しても筆箱は見当たらず、30分程図書室全体を捜索したが結局筆箱を見つけることができなかった。


「なんで無いのよ……」


 誰もいない図書室で思わず弱音を吐いてしまう。

 図書室に筆箱が無いとなると、もう思い当たる場所はないので弱音を吐いてしまうのも仕方がないだろう。


 考えられる最後の可能性は落とし物として職員に届けられていること。

 そう考えた私は図書室を飛び出して小走りで職員室に向かい、先生に筆箱が届いていないか訊いてみるが、職員室にも筆箱は届けられていなかった。


 図書室にもない、職員室にもないとなるともう筆箱の行方に当てはない。


 思い当たる場所は全て探したので、後は通学路で筆箱を落としたと考えるのが妥当だろう。

 鞄に入っている筆箱を通学路で落とすとは考えづらいが、それ以外に探す場所がない。


 通学路を捜索する前に一応部活動で学校に出てきていた先生やクラスメイトに筆箱がどこに行ったか知らないかと確認をするが、筆箱の在り処を知っている人は誰もいなかった。


 気を落としながら学校を出るが、こんな気持ちで探していては見つかるものも見つからないと思い、よしっ、と気合を入れて通学路を探し始めた。


 普段はそこまで広さを感じない通学路がいつもより異常に広く感じてしまう。

 大げさかもしれないが、大海原に浮かんでいる人をなんのヒントも無く探しているような感覚だった。


 道だけではなく側溝の中まで探してみるが、筆箱は見当たらない。


 最後の最後まで粘っては見たが、日は落ちてきてこれ以上の捜索は困難なので、渋々帰宅することにした。


 帰路についた私はあの日の行動について思い返してみるがやはり筆箱を忘れてくるとしたら図書室しか考えられない。


 とはいえ、どれだけ探しても図書室に筆箱は見当たらなかった。


 どうするべきかと悩んだとき、私の脳裏には藍斗の顔が思い浮かんだ。


 事情を伝えれば藍斗ならきっと一緒に筆箱を探してくれる。見つかるまでいつまででもずっと探してくれる。

 藍斗がそれだけ優しいことを分かっていながら、私は金尾さんたちと出かける藍斗に嫌味のような言葉を投げかけてしまった。


 藍斗の機嫌を悪くさせてしまったことで私は藍斗に協力してもらうという手段を失ってしまったのだ。


 こんな目に合うのは自業自得なのである。

 

 自分の醜さに嫌気がさしながら、自宅に帰って自分の部屋の布団にくるまりただただ涙を流すことしかできなかった。

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