第102話 大事な返事
金尾と小波から逃げてきた俺たちは、そのまま旅館へと戻ってきた。
部屋に戻ってきた俺たちは、ベッドに腰をかけ息を切らしている。
「はぁ、はぁ……。もう。いくら逃げるとは言ったってここまでダッシュで走ってくる必要なんてなかったんじゃない? 金尾さん達、足遅そうだったし。もう汗だくなんだけど」
「なんか青春ぽくてよくなかったか? それに汗かいたくらい後で風呂入ればそれでいいんだから」
「まあそうだけど……」
それから、俺たちの間にはしばらく会話がなくなってしまい、お互いの荒い息遣いだけが静かな部屋の中に響き渡っている。
俺も飯崎も喋れなくなってしまったのはお互い気まずさがあるからだろう。
俺からしてみれば、まさに今飯崎に告白しようとしていたところで、飯崎の目の前で告白されたことで気まずさがあるし、飯崎はその告白を聞いてしまったことで気まずさを感じているだろう。
どちらから話し始めればいいのか分からなくなってしまった俺はチラッと飯崎の方へと目をやる。
すると、飯崎も全く同じタイミングでこちらに視線をを向けてきており一瞬目があって、直ぐにお互い目を逸らした。
余計に気まずくなってしまうかとも思ったが、それがきっかけとなり飯崎の方から俺へと話しかけてきた。
「どうすんのよ」
「どうすんのって何が?」
「そ、そんなのいちいち言わせないでよ。……さっきの告白よ。金尾さんと小波さん、あんたのことが好きって言ってたけど?」
まあそこが1番気になるところだよな。そりゃ俺だって飯崎の立場になってみれば恐らく同じ質問をするだろう。
今まで自分たちの関係性や様々な部分について曖昧になってしまっている部分が多かったが、ついに核心に触れてきたってところだな。
「……断るよ。俺はあの2人の気持ちには答えられない」
「それはどうして? 2人ともすごく可愛いし、……ほら、アンタには勿体無いくらい」
こんな話してる時に急にディスってくんのはやめてくれねぇかな。雰囲気が壊れるから。
「俺には勿体ないってのは流石に失礼じゃないか? 確かに2人とも可愛いし、そう言いたくなる気持ちも分かるけど、その2人が俺のことを好きになってるんだからそれはもう相応しいってことでいいんじゃないのか。まあ相応しいとまではいかなくても、もったいないってことはないと思うけどな」
「そ、それは……。ごめん。言いすぎた」
ここにきて、飯崎の態度までが昔とは違い、より素直なものになってきている。
「いや、俺もちょっと自信過剰だったわ」
「いえ、自信過剰かもしれないけど、金尾さんと小波さんが好きになったんだから、それは確かに相応しいってことになるわよ」
「そう思うことにしとくよ。その方が気楽だからな」
「それで、告白を断った理由は?」
「シンプルな話だよ。俺があの2人を恋愛対象として見てないからだ」
飯崎の質問に対して、俺はシンプルに自分の気持ちを伝えた。
これまで散々気持ちを伝えられずにいたのに、今は何故か心の中に秘めた言葉がスラスラと出てくる。
「なんであんなに可愛い子を恋愛対象として見てないのよ。普通見るでしょ」
「……他に好きな人がいるからだよ」
とっさにそう回答してしまったが、これでは飯崎以外の人が好きだと思われるか?
いや、そんな心配必要ないか。
だって今の回答なら、飯崎は絶対……。
「それって誰なの?」
予想通り、飯崎は俺の回答に対して更に質問を重ねてきた。
後は包み隠さず気持ちを伝えるだけだ。さっきだって気持ちを伝える寸前まで行ったのだから、もう伝えられるはずだ。
いけ、言うんだ俺。今でさえもう気持ちを伝えるには遅すぎるのだから。
「……誰だと思う?」
俺は飯崎が重ねてきた質問に対して、さらに質問を重ねてしまった。
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