第101話 敵前逃亡
飯崎に気持ちを伝えようとした時、聞き覚えのある声にそちらを振り向くと、そこには見覚えのある2人が立っていた。
その2人を見かけた時、俺の中では2つの疑問が生まれた。
1つ目は、なぜあの2人がここ、熱海にいるのかということ。
最近何やら金尾と小波が仲良さげに会話をしているのは見たことがあったので、2人が意外と意気投合して仲良くなっているのは知っていたが、まさか2人でこんなところまで来ているとは思いもしなかった。
仲が良くなってきているという状況を考えると、2人で旅行に行くというのはおかしい話ではない。
しかし、旅行に行くという話になって打ち合わせもしていないのに旅行先がどちらも熱海になり、そのうえ旅行先でバッタリ遭遇するなんてまず普通に考えればあり得ない。
となると、やはり誰かの策略なのではないかという考えに至るが、俺の周りの人間関係を考えればそんなことができるのは1人しかいない。というか今日熱海に行くってこと、あいつにしか言ってないし。
大体検討はついたが、もしかすると金尾と小波が熱海に来たのが本当に偶然という可能性もあるので、今こんなところでこの場にいない犯人を探したってなんの意味もない。あいつを疑うのは一旦やめておこう。
2つ目の疑問は、あいつらが今俺のことを好きと言ったことだ。
正直、金尾と小波の気持ちは知っていたし、金尾に関しては以前俺に気持ちを伝えてはくれている。
それなのに、なぜまた今この場で告白したんだ?
わざわざ熱海まで来て俺に告白する理由は分からないが、金尾たちと俺たちの間には若干距離があったし、波の音で声がかき消されていることもあったので、これはチャンスだと思い俺は告白が聞こえなかったふりをした。
「なんだって? 聞こえないぞ〜」
「絶対聞こえてるじゃないですかそれ‼︎」
「一世一代の告白を無かったことにするなんて、天井さんは最低ですね」
ぐっ……。仲のいい友人から最低と呼ばれるのは流石に心が痛む。
「ちょ、ちょっと。なんであの子達こんなところにいるのよ」
「俺が知りてぇよ」
「は? あんたが呼んだんじゃないの?」
「違うわ。こんな大事な日になんであいつらを呼ばないといけないんだよ」
「大事な日?」
「っ、ゴホッ、ゴホッ。なんでもない」
あぶねぇ。自分でバラすところだった。
このままだと金尾と小波に捕まって告白ができなくなるか、冷静な状況判断ができなくなってしまい飯崎にボロを出してしまうかもしれない。
こうなったら……。
「よし、逃げるか」
「……へ? 逃げるってどういう……ってちょっと⁉︎」
俺は飯崎の手を握り、砂浜の上を走り出した。
「あ、逃げるんですか⁉︎」
金尾は俺が逃げようとする姿を見て動揺したようだが、この行動こそが告白に対する俺の答えだ。
言葉も無く理解するのは難しいかもしれないが、なんとか分かってくれ。
「はぁっ、はあっ……。天井さん、私たちの想いは伝えましたからね! 返事をくれなんて厚かましいことは言いませんけど、私たちの気持ちから逃げないでくださいねぇ‼︎」
俺たちのスピードに金尾たちは追いつけないようで、金尾は大声で俺に話しかけてきた。
そしてその金尾の声は全て、耳に入っていた。
「ちょ、ちょっといいの走って逃げちゃって。あの子達、あんたに用があってここまで……」
「いいんだよ。俺は飯崎に用事があってここまできてるんだから」
「……そ、そう。ならいいけど」
「だろ」
飯崎の手を握って走り出した俺は、こんな状況にも関わらずなぜか笑いを溢していた。
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