第100話 おせっかい

「今日はね、2人に大事な話があります」


 そう言うと2人は私の方を向き、真剣な表情で話を聞き始めた。


「大事な話ってなんですか? くるみさんが私たちを集めるってことは、天井さん関係の話ですか?」


「うん。察しがいいね。聞きたいでしょ?」


「そりゃ天井さんに関する大事な話ってのは知りたいですけど」


「私も知りたいです」


 私は今日、金尾さんと小波さんを大事な話があると言ってファミレスに集合させた。

 金尾さんの予想通り、私が今日2人に話に来たのは天井くんの話である。


「一応この話をする前に確認なんだけど、2人って天井くんのこと好きだよね?」


「今更なに言ってるんですか。そんなの当たり前ですよ」


「私もそう。まだ好きになってからあまり日は経ってないけど、それでも好きな気持ちは誰にも負けないつもり」


 私がわざわざ2人に天井くんのことが好きかどうか確認したのは、2人が天井くんのことを本当に好きでなければこの話をするのは野暮だと思ったし、するべきではないと思ったからだ。


 しかし、そんな心配は杞憂に終わったようで、2人の眼差しは真剣だった。


「分かった。それじゃあ本題なんだけど、天井くん、今度莉愛ちゃんと2人で熱海に行くんだって」


「熱海に2人で⁉︎ 何しに行くんですか⁉︎」


 金尾さんはあまりの驚きから私の方へと身を乗り出してきた。


「……そんなの1つしかない。きっと天井さんは飯崎さんに告白しに行くんだ」


 小波さんは思ったよりも冷静にこの話を聞いており、鋭い予想もしている。

 しかし、金尾さんはこの話を聞いて焦りを隠すことができていなかった。


「うん。私もそう思ってる。だからね、2人には伝えておかないとと思って」


「なんでわざわざそんな事、教えてくれたんですか?」


「だって、もしこれで2人がうまくいっちゃったら天井くんと莉愛ちゃんの間では綺麗に話が終わったように見えるけど、金尾さんと小波さんの中では気持ちの落とし所がなくなっちゃうでしょ? それなら仮にあの2人が上手くいったとしても、気持ちの落としどころを見つけられるようにこの話を伝えておかないとと思って」


 これまで天井くんと莉愛ちゃんの関係は悪いようにも見えていたが、私の見立て通り、あの2人は確実に距離を縮めている。

 天井くんは私がけしかけた一件のおかげで莉愛ちゃんに気持ちを伝えることを決心しているし、莉愛ちゃんも天井くんに対しての気持ちに素直になっているので、この告白が成功する確率は高い。


 しかし、それで全てが丸く収まるわけではないことを私は知っている。


 金尾さんと小波さんにだって、天井くんに気持ちを伝える権利はあるはずだ。それが天井くんと莉愛ちゃんの邪魔になるのだとしても、2人の気持ちが本物なら、最後は元の鞘に収まることになるだろう。


「ありがとうございます。わざわざ教えてくれて。くるみさんだって私たちにその話したことがバレたらなんて言われるか分からないのに」


「まあ確かにそうなんだけどね。それは大丈夫でしょ。だって2人が黙っててくれれば私が言ったってことには絶対気づかないんだから」


「っ……。私は黙っていられる自信がないです」


「そこは上手く金尾さんをコントロールしてあげてね。頼むよ小波さん」


「任せてください。ありがとうございます。くるみさん」


 こうして私は2人の、「告白ちょっと待った!!」大作戦の内容について、検討を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る