第96話 無くしてしまった理性

 窓の外の開けた綺麗な景色を撮影していた俺は飯崎が寝ているベッドの横に寝転がり、飯崎の寝顔でも見ながら少し眠ろうかと考えていた。

 ただそれだけだったんだ。寝顔を見ているだけで、何か行動をするつもりなんて全くなかった。

 それなのに、なぜか俺は飯崎の眠っているベッドに入り込み同じベッドに寝転がっていた。2重人格にでもなったのではないかと自分を疑いたくなる。


 いや、そもそも今日俺はこの部屋に入る前に、今日は変なことをしに来たのではなく飯崎に告白をしに来たのだ、と言い聞かせたばかりじゃないか。

 それなのに、結局今俺がやっていることは自分の欲求のまま、飯崎が無防備なのをいいことに距離を詰めただけだ。


 こんなことをやっているうちは飯崎に告白をしたって俺のことを好きだと言ってくれるはずなんてない。


 そうは思いながらも、一度同じベッドに入ってしまうと少しでも物音を立てたり振動をさせたりしまうと飯崎が起きてしまうのではないかと考えてしまい、中々ベッドを出ていくことができない。

 そんなこと言いながら、本当はもう少しだけ飯崎のそばにいたいと考えているのかもしれない。


 それにしても飯崎凄いな。


 ホテルのフカフカなベッドに潜り込むとき、かなり大きな振動が発生していたはずだ。

 それなのに、意外と目を覚さないもんだな。こんなに目を覚さないなら意外とちょっかいかけても起きないんじゃないか?


 変に好奇心が湧いてきてしまった俺は、手始めに飯崎の頬を指で触ってみた。


 ……柔らかい。しかも起きない。


 味をしめてしまっと俺は、次に飯崎の手を軽く握ってみた。


 ……柔らかい。しかも起きない。


 こうなったらもう俺の欲求は留まるところを知らず、次は次へと飯崎にちょっかいをかけていく。髪の毛を持ち上げてみたり、息を吹きかけてみたりと俺のチャレンジは次第に際どさを増していった。

 色々なことにチャレンジしてみたが、結局最後まで飯崎が目を覚ますことはなかった。


 安心してくれ。流石に一線を超えたことはしていない。


 こいつ、ここまで起きないとなると地震の時とか逃げ遅れるんじゃないかな。そっちの心配が出てきたわ。

 そんな不安を抱えながら俺はまた飯崎の顔を見つめ始めた。飯崎は相変わらず寝息を立ててスヤスヤと眠っている。


 ……はあ。もう無理だよな。こんな距離まで近づいて何もしないなんて。むしろよくここまで我慢したよ俺は。

 大体部屋に連れ込んだ時点でもうオッケーってことだろ。そう思ったって仕方がないじゃなか。


 そして俺は飯崎の顔に近づき、キスをした。


 キスをしてから、流石にこんなところを見られたらまずいと理性を取り戻した俺はすぐに唇を離すが、やはり飯崎は目を覚さない。


 これは俺が告白をする理由をつくらために行った行動だ。そうだ。そういうことにしておこう。

 キスをしたからには、もう告白をしないわけにはいかないぞ俺。自分を追い込むためにしたのであって、ただ欲望のままに行動してしまったというわけではないからな。


 そして俺はいつのまにかそのまま飯崎と同じベッドに入ったまま眠りについた。

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