第95話 気付かぬうちに

 ホテルに到着し、飯崎から俺と同室で泊まってもいいという了承を得た俺は俺たちが泊まる部屋の扉を開けた。


 今回は以前の家族旅行のように露天風呂付きの客室というわけではないので、飯崎がのぼせてしまいこの前の旅行のような際どい問題が起こることは無いはず。とはいえ、母さんも父さんもいない2人からの旅行は初めてなので気を抜くことはできない。

 まあそういう問題が起こるのは男的には喜ばしいことなんだが……。って何言ってんだ俺。今日はそんなことを期待してここまでやってきたのではないだろう。


 露天風呂は無いが、この部屋は丘の上にあり眺望が抜群の部屋だ。部屋の窓からは熱海の景色とどこまでも続く大きな海が一望できる。


「すごいわね。こんな景色見たことないわ」


「俺も見たことないわ。なんかこう、リゾート地に来たって感じがするな」


 これは夜になり辺りが暗くなれば街の街頭で間違いなく景色は最高の状態になるし、告白をするのには持ってこいのムードができあがるだろう。

 この状態で俺が告白をしたとして、飯崎に拒否されるようなことがあれば俺の好感度はかなり低いことになる。

 その現実に直面した時、俺はそのどうしようもない事実に耐えられるのだろうか。いや、耐えられるも何も前は飯崎の俺に対する好感度なんてゼロにしかかったんだけどさ。


「あんまり急にこんなところまで来たからなんか気疲れしちゃったわ。私一回寝るわね」


「まあ確かに。まだ夕方にもなってないし、ちょっと寝てから夕飯でも食べることにするか」


「私、明るいところでも眠れるから、そこのソファに座って景色でも見ながらくつろいでていいわよ。別にテレビとかつけてもらっても構わないし」


「……分かった」


 確かに何も知らずにこんなところに連れてこられて、歩き回ってようやくホテルに着いたのだから体力もかなり消耗しているだろう。

 しかし、ホテルについてすぐ飯崎が眠ってしまうことに関しては、飯崎のためだとは思いながらもやはり少し寂しく感じていた。


 とはいえ、俺の前ですぐ眠ってくれるのだから、俺に対する警戒心みたいな物はないと考えていいだろう。それは喜ぶべきことだな。


 そう思いながら、無音のシャッターで飯崎の邪魔にならないように景色の写真を撮る。

 どうすればいい写真が撮れるかと、パノラマで撮ってみたり口角で撮ってみたり、色々試したりしているうちに微かに飯崎の寝息が聞こえてきた。


 飯崎が寝たのなら尚更物音を立てることはできない。


 意外と1人で取り残されると旅行に来ていてもやることはない物で、俺は横に置かれていたベッドに寝転がった。


 そして、静かに横を向くと、スヤスヤと眠る飯崎の寝顔が目に入る。

 そんな飯崎の寝顔をじっと見つめながら、俺はこっそり無音のカメラで撮影をした。


「(やっぱり好きだなぁ……)」


 スヤスヤと眠る飯崎の寝顔を見ながら飯崎に対する気持ちを再確認したところで、俺はいつの間にか飯崎のベッドへと潜り込んでいた。


 ……え、何やってんの俺?

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