第94話 同室
プリンを食べ終えた俺たちはバスに乗り込み、ホテルへとやってきていた。
飯崎をエントランスに置かれた椅子で待たせ、フロントでのチェックインには一人でやってきた。
このホテル、結構お高いからな。まさかそんなことはないと思うが、フロントでこのホテルに宿泊する値段がばれてしまっては飯崎に変な気を遣わせてしまう。
要するに、気を遣わせてしまう程度には高いホテルだ。
そそくさとチェックインを終わらした俺は椅子に座っていた飯崎を呼びに行った。
「チェックイン終わったぞ。そこのエレベーターに乗ってくれってさ」
「そう。じゃあ行きましょうか」
座っていた飯崎は荷物を持って立ち上がる。そして俺たちはエレベーターの前に到着し、目的の階のボタンを押した。
エレベーターがやってくるまでの間は俺たちの間に会話はなかったが、エレベーターに乗り込み扉が閉まると飯崎が唐突に質問をしてきた。
「このホテル、結構高いんじゃないの?」
まあ誰だってこのホテルの雰囲気を見れば高いことには気がつくだろう。
しかし、正直に高いと答えるほど俺も馬鹿ではない。
「高くねえよ。安い」
「いや、高くないはまあ信じたとしても安いは嘘でしょ」
「嘘じゃねえよ」
確かにこのホテルは値段的に見ると高級ホテルの部類に入るのかもしれないが、安いというのは決して嘘をついているわけではない。
飯崎と2人で泊まれるのなら、どんなに高級なホテルだって高いとは思わないからな。
そんな会話をしながら目的の階に到着し、俺たちは自分たちが泊まる部屋の前へとやってきた。
「お、ここだな」
「ここね。私の部屋はどっち? 右? 左?」
「何言ってんだよ。飯崎の部屋もここだぞ」
「……は?」
飯崎はこの状況に疑問符を抱いている。
「ほら、入るぞ」
「ちょ、ちょっと待って。なんで何の迷いもなく同じ部屋に泊まろうとしてるのよ」
「え、だって前も同じ部屋だったし、よく考えたら同じ家に住んでるんだから今更部屋分ける必要なんてないかなと思って」
あたかも同じ部屋であることを当たり前のように振る舞ってはいるが、これは俺にとって大きな賭けだ。
俺は今日飯崎にホテルの部屋で告白をするつもりなのだから、流石に同じ部屋でなければ告白なんてできるはずもない。
なので無理矢理にでも飯崎と同じ部屋に泊まりたいと思っているのだが、それを拒否されてしまっては今日の告白自体が失敗したといっても過言ではない状態になってしまう。まあ一応拒否された時のために予備のお金は持ってきてるけど。
とにかく、飯崎に拒否されないためにはここは無理を通してでも飯崎を押し切るしかない。
「……はぁ。もうあんたがそれでいいって言うならそれでいいわよ。別の部屋がいいって言ったらもう一部屋取らないといけないんでしょ?」
「まぁそうなるな」
「それは流石に厳しいわね。仕方がないか……」
よし、なんとか飯崎を押し切ることができた。
こうして俺たちは2なんて同じ部屋に宿泊することになった。
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