第92話 勘のいい人
「よし、とりあえずプリンでも食うか」
熱海に到着した俺たちは宿泊先のホテルに向かう前に熱海の名物でもあるプリンを食べることにした。
そもそも今回俺が旅行先を熱海に選んだのは、飯崎のプリン好きを考慮したからだ。全国的にも有名なプリンとなれば恐らく飯崎も満足してくれるはず。
「プリンでも食うか、じゃないわよ。なんで私、アンタと2人で熱海に来てるの? わけがわからないんだけど」
……まあどれだけあしらおうとしても気になるよな。理由も分からず急に熱海に連れてこられたら俺が飯崎の立場なら気になるというかもはや恐怖を抱いていると思う。
「理由とかどうでもよくね?」
「どうでもよくない。この状況をどうでもいいって言える人なんて中々いないわよ」
「じゃあ飯崎はこの状況をどうでもいいって言える数少ない人間ってことで……」
「うるさい。テキトーなことばっか言ってないで早く教えなさいよ」
「……はぁ。じゃあプリンが食べに来たかったからってことで」
「今じゃあって言った‼︎ それテキトーに考えた嘘じゃない‼︎」
今回の旅行についてどう飯崎に言い訳をしようかは旅行に来る前から検討していたのだが、どれどけ考えても飯崎を上手く丸め込めるようないい案は思い浮かばなかった。
仮に俺が上手く嘘をついてその場は誤魔化せたとしても、いつかは必ずどこかでボロが出ると思ったので、それならもうテキトーな理由でゴリ押しする方がよいのではないかという結論に至った。
飯崎は意外と押しに弱いので、ゴリ押しすればなんとかなるような気がする。
「あープリン楽しみだなー」
「……もう。訊いても教えてくれないならもうこれ以上聞かないことにするわ」
よし、勝った。
「そうしてくれ」
「それにしてもよくこんなところまで来るのを陽子さん達許してくれたわね。しかも2人きりでなんて」
「母さんには言ってないぞ?」
「は? 言ってない?」
「ああ。母さん達には瀬下とくるみの家に2人で泊りに行くって言ってある」
流石の俺も今回の旅行のことを正直に親に伝えるような馬鹿な男ではない。今回のことが母さん達の耳に入ると、旅行に行くのを禁止されてしまう可能性もあったので、もう母さん達には内緒にしておくことにした。
俺と飯崎が2人で旅行に行くなんて知られたら絶対に止められるし、何か変なことを疑われかねない。
そうならないために、俺は母さん達に嘘をついたのだ。嘘をつくのは申し訳なさもあったが、俺と飯崎の関係に蹴りをつけるためにはそうするしかなかった。
「それ大丈夫なの⁉︎ 気付かれたらまずいんじゃないの⁉︎」
「大丈夫だって。気付かれないから」
「どこからその自信は湧いて出るのよ……」
母さん達はそんなに感がいい方ではないし、この旅行のことは絶対に気が付かれないはず。
そう思いながらプリンのお店に向かっていると、スマホの通知がなる。
陽子
<頑張ってね♡>
-14:07
……なんでバレてんだよ。
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