10章 接近
第91話 サプライズ
「もっと時間かかるのかと思ってたけど、意外と早く着くもんだな」
「……そうね。でもそんなことよりまだこの状況がハッキリと飲み込めてはいないんだけど」
飯崎が今の状況を飲み込めなていないのも無理はない。
なぜかって? 今俺たちは2人で熱海にいるのだから。
「よし、じゃあ始めよう」
ファミレスで俺の前に座っているのは飯崎尾行騒動で俺を陥れた張本人、くるみだ。まあ何も疑わず、まんまとくるみの策略にハマってしまった俺にも非はあるのかもしれないけど。
今日は用事があって俺からくるみを誘い、こうしてファミレスに呼び出したわけだ。
くるみは何が何だか分からないといった表情で、疑問符を浮かべている。
「いや、始めようって言われても何するのか全く聞かされてないんだけど」
「そういえば言ってなかったか。俺が飯崎に告白するための手伝いをしてほしいんだよ」
そう、俺は今日、くるみに俺が飯崎に告白をするための手伝いをしてもらうようお願いしにきたのだ。手伝いをお願いをすると言っても、くるみに迷惑をかけるわけにはいかないのでお願いするのはとても簡単なことだ。
「まあ別に告白の手伝いくらいなら……って今なんて言った⁉︎」
くるみは机をドンっと叩き、俺の方へと身を乗り出してきている。
「いや、だから飯崎に告白するって」
「何そんなにシレっと言っちゃってんのよ……。今まで散々ウジウジしてきたくせに」
「別にいいだろ。進む速度なんて人それぞれなんだから」
「まあ天井くんと莉愛ちゃんが付き合うのは私の夢でもあったから、嬉しいことなんだけどさ」
くるみには進む速度は人それぞれと言って見せているが、遠回りをしてきた自覚はある。
同じ家に住んでいるという特殊な状況で、普通の高校生の男女よりも距離が近い状態なのだから、結ばれるのは普通より早くなるのが当たり前だと思う。
しかし、俺は、俺だけは近すぎるこの距離こそが、本当の気持ちに気づくのを、そして2人の関係を前進させるのを遅らせている原因だと知っている。
同じ家に住んでいる以上、どうしたって飯崎のことを恋愛対象として見るよりも先に家族という目で見てしまう。
そうなってしまっては無意識のうちにブレーキを踏んでしまい、2人の関係が前進する速度が遅くなるのも無理はない。
「くるみには感謝してるよ。くるみがいなかったら多分もっと遠回りしてたか」
「私っていう高性能ナビが近くにいるんだから、もう迷わせないよ」
「そりゃ心強いな。それで手伝ってほしいことなんだけど、飯崎の予定を学校が休みの日に2日間連続で確保してほしいんだ」
「2日ってことは、私の家でお泊まりでもしようって誘えばいいってことね」
「そういうことだ」
「まああえて理由は聞かないでおくよ」
まず俺は、自分自身が逃げ出さないような状況を作り出したかった。俺は自分で告白のような発言をしておいて、すぐに取り消してしまうような根性無しなので、どうにかして自分が逃げ出せないような状況を作類必要があった。
そのためには、地元から離れてどこか遠くへ旅行に行くしかないと考えた。
旅行に行けば、もしかすると本当なら失敗する告白も、ムードで持っていけるかもしれない。うん、結局はチキンである。
自分で飯崎の予定を確保することをせず、くるみに飯崎の予定を確保してもらうように依頼した理由は、俺から旅行に誘っても飯崎が了承してくれないかもしれないという懸念があったからだ。くるみからの誘いなら飯崎はよっぽどのことがなければ断らないと思う。
「すまん。そうしてもらえると助かる」
そしてくるみの協力を得た俺は、飯崎と2人で熱海へと行くことになった。
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