第89話 くるみと瀬下の策略
くるみに唆されて飯崎達の方へと走り出した俺だったが、冷静さも残っていたようで以前俺たちが食べていたクレープを急に奪って食べ始めた飯崎とは違い、俺は2人の間に割って入るだけに留めた。
「おおっとぉぉ‼︎ 足が滑ったぁぁ‼︎」
冷静さが残っていたとは言ったものの、こんなところで急に俺が飯崎と謎の男の間に足が滑って割って入ることなどあり得るはずがない。
『アンタこんなところで何やってるのよ』って目線を向けられるのは間違いないだろう。
「アンタこんなところで何やってるのよ」
目線だけ向けられるのかと思いきや、まるっきり俺が予想していた通りの言葉を言われてしまった。
まあ確かに視線を向けるだけじゃ俺がここにいる疑問は解決しないからな。
「な、何って遊びに来たら偶然飯崎の姿を見かけて、声をかけようとしたら足が滑って思わず転びそうになってただけだ」
「何言ってるのよ。そんなの信じられると思う?」
思わない。あまりにもあからさますぎるしこんな幼稚な嘘、小学生でもつかないだろう。
「莉愛ちゃん、この人は?」
「あ、はい。私の兄妹って感じですかね」
「へぇそうなんだ。こんにちわ」
こいつぅぅぅぅ‼︎ 俺が陰キャ高校生の雑魚だと思って余裕ぶりやがって腹が立つ。
お前なんかに、お前みたいなクソ野郎に飯崎は渡さないからな‼︎
「こんにちわ」
「もしかして僕、君に悪いことしたかな?」
「……別に。お2人の関係をどうこう言える立場ではないですから」
「やっぱりそうか……。ごめんね、莉愛ちゃん。僕は用事を思い出したからもう行くよ」
……は? 何言ってんだこいつ。飯崎とデート中だろ? 俺が飛び出してきたからってそんなすぐに飯崎を諦めていいのかよ⁉︎ そんな骨なし野郎なら最初から飯崎に手を出すんじゃねぇ‼︎
「え、もう帰るんですか?」
「うん。ありがとね。もう大体分かったし大丈夫。ボーイフレンドと仲良くね〜‼︎」
「ボ、ボーイフレンド⁉︎」
結局謎の男は俺が名前を知るよりも前に帰って行ってしまった。てかいま俺のことをボーイフレンドって言ったか? 飯崎のボーイフレンドはおまえ自身じゃないかとツッコミたくなる。
「……それで、こんなところまで尾行してきて何の用?」
「いや、それはその……。というか尾行じゃねぇから」
「尾行じゃないならなんだっていうのよ。こんなところにアンタ1人で来るなんてありえないでしょ」
「おっつかれ莉愛ちゃん‼︎」
俺が飯崎から問い詰められていると、くるみが飛び出してきて会話の中に入り始めた。
「え、くるみ? なんでこんなところにいるのよ。今日は予定があるんじゃなかったの?」
「いや〜急遽予定がなくなって、暇になったから天井くんとこいつ誘って遊びに来たんだよ〜」
「--瀬下⁉︎ お前いつのまに……」
驚いた様な反応を見せると、他は俺の背中を強めに叩き、耳打ちをしてきた。
「(バカ。お前がそんな反応したら尾行してたことがバレちまうぞ。話合わせとけ)」
そう瀬下に耳打ちされた俺は口を閉じた。
「そういうことね。まあそれが本当だとは信じられないけれど」
「信じないも何もそれが事実だからな。それで、あのボーイフレンドは何者なんだ?」
「は? アンタ何言ってるのよ。あの人は別にボーイフレンドでも何でもないんだけど」
「ボーイフレンドじゃない? じゃあ誰だって言うんだよ」
あれがボーイフレンドじゃなくてなんだと言うんだ。男友達にしては会話の内容がカップルのそれ過ぎたんだが。
「あの人はくるみの従兄弟よ。初めてできた彼女さんに渡すプレゼント、何を渡したらいいか分からなくてくるみに教えてくれってお願いしたら、私は用事があるから友達にお願いするって言ったみたいでね。それで私がお願いを受けたのよ」
くるみの従兄弟……?
いや、そんなはずはない。だってくるみは俺に『今日莉愛ちゃん、男の人と2人で遊びにいくって言ってたから気をつけてね‼︎』とメッセージを送ってきていたのだから。
そう思ってくるみの方を見ると、くるみは、てへぺろ‼︎ と言った感じで下をペロッと出している。
いや可愛くないから。それ、今の俺からしたら憎たらしいだけだから‼︎
そして俺は静かにくるみの頭を小突いた。
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