最終章
第104話 問題発生
放課後、私はくるみと金尾さん、小波さんの4人で図書室に置かれた机を囲み、教科書とノートを広げテスト勉強をしていた。
テスト勉強をしているとは言っても、私は勉強をしているのではなく殆どの時間をくるみの面倒を見ることに費やしていた。
ちなみに、今凄く気まずい。
私は金尾さんと小波さんが藍斗に告白をする場面を見ていたので、2人の気持ちは知っている。
しかし、藍斗は2人に返事をする訳でもなくその場から逃げ、私と2人でホテルの部屋へと戻った。
好きな人が私という女子と2人で旅行に来て一夜を共にしているのだから、普通は私に対して嫉妬心を抱くものだろう。
それなのに、2人はそのことについて全く触れてこようとしない。
「どうかしました? 飯崎さん、考え込んだような顔してますけど」
「べ、別に⁉ 考え込んでないけど⁉」
金尾さんからの質問に私の声は自然と裏返る。
「あたかも好きな人のこと考えて物思いに耽っている人のような表情でしたけど」
そこまで言い当てられるの? 私そんなにわかりやすく表情に出てたかしら。
というかその指摘間違ってるし。私が考えていたのは藍斗のことではなくて、藍斗に告白をした金尾さん達のことなんだけど。
「そ、そんなわけないでしょ。好きな人なんていないんだから」
「え? 飯崎さんって天井さんのことが好きなんじゃないんですか?」
「そ、それは……」
金尾さんと小波さんの視線が私に刺さる。
私は藍斗が好きだ。それはもうどうしようもなく好きだ。
子供の頃からずっと好きなのだから、もう異常なくらい好きなのだろう。
しかし、藍斗に告白をした2人を前にして、藍斗が好きだと声を大にして言うなんてことできるはずもない。
私の反応を見たくるみがやれやれとため息を吐く。
し、仕方ないじゃない‼︎ くるみだったらこの状況で藍斗のことが好きだって言えるっていうの?
普通この場面で誰だってそんなこと言えないわよ。
「そうなんですか。それならまだ諦める必要はないってことですね」
「そ、そうね……」
「ってことで今週の休み、天井さんをデートに誘ってみます!」
「え、ちょ、ちょっと金尾さん⁉」
金尾さんはスマホを取り出し、藍斗に電話をかけ始めた。
図書室という静かにしなければならない空間で電話なんて……とも思ったが、図書室には私たち3人以外誰もいない。
私がそう思ったのはきっと、金尾さんが藍斗に電話をかけることが嫌だったのだろう。
金尾さんが電話を耳に当てて藍斗が電話に出るのを待っているとき、くるみが私に耳打ちしてきた。
「いいの? あのままだとあの2人、デートに行くことになりそうだけど」
「よくはない……けどどうしようもないじゃない」
「本当素直じゃないって大変だね」
「素直じゃないのはあいつの方よ! 私はこの前の旅行でだって結構攻めた発言してたんだから」
小声で話しているというのに思わず声が大きくなってしまう。
私だって簡単に素直になれるのならそうなりたい。
「もう金尾さんを止めるのは無理そうだし、莉愛ちゃんは次の手でも考えときなよ」
次の手か……。
確かにこのままでは金尾さんの独壇場になってしまいかねない。
私もまた何か行動を起こさなければ。
「あ、天井さん? 今週の土曜日、2人で遊びに行きませんか? ……いいんですか⁉︎ はい‼︎ 了解です……ってちょっと⁉︎」
藍斗が金尾さんの誘いを了承したのか、嬉しそうに返事をする金尾さんだったが、その電話を横から小波さんが奪い取った。
「私も行く」
そう一言だけ藍斗に伝えてから、小波さんはすぐに金尾さんに電話を戻した。
「……なんか1人邪魔者がついてきそうですけど、とにかくまた詳細は後でメッセージの方でお願いします‼︎ それでは‼︎」
金尾さんは満面の笑みで私たちに報告をしてきた。
「約束できました!」
そう言って笑顔ながらも若干のしたり顔を私に向ける金尾さんに、「……よかったわね」と歯切れの悪い返答をするしかなかった。
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