第85話 倍返しではないけれど

 飯崎は質問に答えぬまま家を出て行ってしまい、俺はリビングに1人取り残される形となった。

 リビングに取り残された俺はリビングの入り口の前で立ち尽くし、頭をフル回転させてどうするかを考えていた。


 それは、飯崎を尾行するかどうか、ということだ。


 以前、俺が金尾と2人で遊びに行っていた時は、飯崎と瀬下、くるみの3人が俺のことを尾行していた……ような気がする。くるみは偶然3人で食べ歩きに来ていただけだと言っていたが、それが真実だとは思えない。

 なぜ尾行する必要があったのかは知らないが、一度された実績があるのだからこちらから尾行をしたって構わないだろう。まあ尾行されたとは限らないんだけどさ。


 ……でも流石にまずいよな。俺は飯崎のことが好きなんだと思う。それは家族旅行に行った辺りから自覚はしているのだが、いくら好きだからと言って尾行をしていい理由にはならない。

 とはいえ、飯崎が今日どこに誰と何をしにいくのかというのが気にならないといえば嘘になる。俺はどうすればいいんだ……。

 いや、流石に尾行はやめておこう。もし気づかれたら洒落にならないしな。そう決意した俺はもう一度、立ち尽くした状態からソファに座り込んで、映画を見ることにしてリモコンを手に取った。






 胸の鼓動が速くなる。もし近くに誰かがいたらこの音に気づかれてしまうのではないかという程に俺の胸の鼓動は早くなっていた。都会の喧騒で俺の胸の音が聞こえないのは安心だ。


 俺は店の前に置かれた看板をハシゴしながら飯崎の尾行をしていた。


 ……いや尾行してるんかい‼︎ とツッコミたくなる人もいるだろうが、コレは仕方がないことなんだ。

 一度はゆっくり家で見たいと思っていた映画を見ることにしたのだが、映画を見ようとしたとき、こんなに落ち着かない状況で映画なんか観れるか‼︎ とヤケクソになった俺は家を出た飯崎をダッシュで追いかけてた。家を出るのが遅かったので、飯崎を見つけられるかは不安だったがなんとか飯崎を見つけ、尾行することに成功している。

 急ぎだったので、パソコン使用時用に購入したブルーライトカットメガネとマスク、そして帽子を被ることくらいしか変装ができなかったのは苦しいが、そもそも俺の姿を見られななければ気づかれることはない。


 そう安心しながら飯崎の尾行を続けているのだが、飯崎は電車に揺られること1時間、割と自宅から離れた繁華街まで足を伸ばしている。こんなところに1人でやってきて一体何をするのだろうかと不安になりながら尾行を続けていた。

 まあ自宅の最寄駅で誰かと落ち合わなかったことは安心だな。もし飯崎が男友達と2人っきりで遊びに行っていたのだとしたら俺は……。


 おっと、飯崎を見失うところだったぜ。


 人混みを歩きながらの尾行は予想以上に難しく、気づかれないように距離を取りながらも、飯崎を見失わないようにするのには骨が折れる作業だった。


 そして飯崎は百貨店の前に止まった。


 1人でここまでやってきて百貨店の中に入らないということは、誰かと待ち合わせをしているということになる。しかもこんなところで待ち合わせということは、地元の友達ではなく、SNSなどで知り合った誰かだったらすふのだろうか。

 まさか飯崎が出会い系サイトを⁉︎ ペ◯ーズとかティン◯ーとかタッ◯ルとかをやってるというのか⁉︎


 ……いや、最悪の最悪を考えるとしたら、パ◯活に手を出してるなんてことも……。

 考えはハマ考えるだけ最悪の状況はいくらでも思い浮かんでくる。


 そんなことを考えていたその時、飯崎の前に1人の人物が現れた。

 それは、少し身長が高めで俺は見たことがない、さわやかイケメン風の男子だった。

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