9章 入れ替わり尾行

第84話 尾行交代

「結局くるみと瀬下くん、付き合ったらしいわね」


 俺は瀬下とくるみが付き合ったという事実を飯崎の口から聞かされた。まああれだけお膳立てされて何もない方がおかしいとは思うし、想像はしていたのだが、付き合ったと聞かされると流石に驚きがないというわけではない。


 驚きはあったが、やはり最初に出てきたのは祝福の感情だった。

 今まで瀬下とくるみは仲がいいのか悪いのかよく分からなかったが、今回の件で2人の関係性も知ることができたし、めでたく付き合うことになったことは素直に喜ばしいことだ。


 しかし、若干の複雑な感情もある。


 俺と飯崎の関係は少しずつ前進しつつあるものの、その速度は亀が歩く速度と同じくらい遅い。

 前進しているのかしていないのか分からないレベルでしか前進しておらず、いつの間にか後ろからやってきたウサギに抜かれてしまった感覚だ。


 ……いや、違うな。ウサギが俺たちで瀬下たちはチーターか何かかもしれない。俺たちは自分たちのペースでそれなりのスピードで前進していたのだが、その横を何倍ものスピードでスタートラインにも立っていなかった瀬下たたちに爆速で追い抜かれた感覚の方が近いかもしれない。


 瀬下たちと競争をしていたわけではないし、最初は俺と飯崎の仲は最悪だったので、付き合うなんて考えてもいなかったし、この先も俺と飯崎が瀬下とくるみなような関係になるかは定かではない。


 とはいえ、なんとなく瀬下とくるみの関係を羨ましく思いながら休日の今日、俺は朝からソファに寝転がってニュース番組を見ていた。

 俺がグダグダしているその後ろでは、飯崎が何やら慌ただしく準備をしている。


「そんなに慌てて準備してどうしたんだよ」


「……別に。なんでもないわよ」


 ……ん? 今の飯崎の返答、どこか違和感があったような……。いや、でもどこに違和感があったのかと言われるとそれは分からないのだが……。


 そうだ、確か普段は俺がいつもどこに行くかと尋ねると、毎回と言ってはいいほどに「くるみと遊びに行くのよ」という返答が返ってくる。

 それなのに、今日はなぜか何をするのかを濁されてしまった。


 いつも濁はない話を濁してくるということは、飯崎には何か俺に隠し事があると考えて間違いないだろう。

 何かを隠していると分かったからには何を隠しているか訊かないわけにはいかない。


「なんで隠すんだよ」


「別にいいでしょ。藍斗には関係ないし」


「なんだよそれ。今まで隠したことなんてないじゃないか」


「そんなことないんじゃない。それじゃあ行ってくるから」


「お、おいちょっと……」


 俺が飯崎に隠す理由を尋ねても結局飯崎は答えることはなく、飯崎がどこに何をしに行くのか分からないまま、飯崎は家を出て行ってしまった。


 


 

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