第83話 どこかの2人よりも先に
くるみの言葉はたった2文字。あまりにも少ないその言葉の中には、俺たち2人以外では知ることのできないあまりにも多くの感情が詰まっているのだろう。
「あーあ。最初からこうしておけばよかったのに、何でここまで拗れちゃったかなぁ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。急に告白されるなんて思ってなかったからまだ状況を理解できてないんだけど」
「理解してるじゃん。私が瀬下に告白したってだけ」
言葉で言ってしまえば簡潔に終わってしまうが、頭では理解できていてもこの状況に心が追いついていない。俺のことが好きだったせいでこれまで散々嫉妬をしながらも、その気持ちを隠して我慢をしてきていたというのに、一体くるみの中でどのような心境の変化があったのだろうか。
「だけっておまえな……。だけって言えるような行為じゃないからこそここまで変に拗れてたんじゃないのか」
「だけだよ。たったそれだけ。自分ではたったそれだけだって理解してたはずなんだよ。なにせ、私の友達に莉愛ちゃんっていう中々に拗らせてる子がいてですね」
「たしかに。あいつらは拗らせすぎだよ。俺らから見たらあの2人の感情なんて明らかなのにな」
「莉愛ちゃんは辛いこともあったみたいだし、拗らせても仕方がないかもしれないけどね。でもさ、好きって伝える、たったそれだけのことで終わるなら……いや、始まるなら、最初からそう言っちゃった方が絶対いいよね」
何を悟ったのかは分からないが、藍斗と飯崎さんの面倒臭い関係性や、俺との関係性を自分で勝手に拗らせていた経験でくるみの心の中に何か変化があったことは明白だ。変化がなければこうして俺に告白することなどあり得ないのだから。
「俺まだ何も言ってないんだけどな。……もう始まるって確信はあるんだな」
「始まるって確信はかなり前からどこかにあったんだよ。そりゃ私だって瀬下と同居しててずっと一緒にいるんだから、気付かない方がおかしいよね。それに気が付かないフリをしてたけど、今になって気づいたってだけ」
「あっそ。それじゃあもう俺からは何も言わなくても……」
「……」
くるみが俺の気持ちを分かっているのなら、わざわざくるみに俺の気持ちを伝える必要なんてない。
そう思っていたのだが、くるみは無言で俺のことをじっと見つめていた。
ここまでお互いのことが分かっていて、改めて気持ちを伝えるのは恥ずかしくて仕方がないんだが……。
「……言わなきゃだめか?」
「……」
質問を投げかけてもくるみは無表情のままで無言を貫いている。
「分かったよ。言えばいいんだろ言えば」
「……」
「……俺はくるみが好きだ」
その瞬間、くるみが飛びついてきて俺のことを押し倒しながらがっしりと俺にしがみついた。くるみが飛びついてきた衝撃で俺はソファーへと押し倒される。
「これはここまでの我慢の分ってことで」
「勝手に自分で我慢してきたんだろ……って苦しい苦しい強く抱きしめすぎだから⁉︎」
その後、俺はくるみに何度も離れろと伝えたが、くるみが俺から離れるまでには1時間以上の時間を要した。
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