第82話 知られていた同棲
息を切らした藍斗が急に俺たちの家に入ってきた。どうやって入ってきたのかと思ったが、くるみのことで焦っていた俺はどうやら玄関の鍵を閉めていなかったらしい。
俺たちの家に入ってくるや否や、藍斗は俺に可愛らしい薄緑色の小袋を突き出してきた。
「え、ちょ、ちょっと天井くん⁉︎ どうしてここに⁉︎」
「あ、驚かなくても大丈夫だそ。瀬下とくるみが同棲してるのは前から知ってるから」
「へぇ、そっか。それなら安心……ってそんなわけないんですけど⁉︎」
そうか、くるみはまだ藍斗たちが俺達の同棲を知っていることを知らないんだ。
まあそりゃ驚くよな。これまで絶対に同じ学校の生徒には気付かれないようひた隠しにしてきた同棲をしているという事実を知られてしまったのだから。
「まあまあ、今はそんなことはどうでもいいから」
「いやそんなことなんてレベルの話じゃないんですけど⁉︎」
くるみが驚きを隠せないでいると、さらに追い討ちをかけるように先程まで一緒にいたメンバーが全員俺たちの家に到着した。
「ちょ、ちょっと藍斗、はぁ、はぁ……。早すぎるのよあんた。ちょっとはレディのペースに合わせるとかしなさいよ」
「いやだって、早く渡したほうがいいかと思って」
「ちょっとそこ‼︎ 痴話喧嘩を始める前にこの状況説明してくれない⁉︎ 私わけが分からなさすぎて頭が爆発しそうなんですけど⁉︎」
「いや、本当状況説明とかいらないから」
「いるでしょ⁉︎ いらないわけがわからないんだけど⁉︎」
「あ、くるみさん‼︎ 誕生日おめ……ぐふっ⁉︎」
「ナイス、小波」
口を滑らしそうになった金尾を小波が抑えている。
「ほら、早く渡してやれよ。俺たちはもう出てくからさ」
くるみの狼狽えた様子を見て藍斗は俺にそう耳打ちし、家から出ていった。
何もかもお膳立てしてもらって申し訳ないが、ここまでしといて何もできませんでしたでは男が廃る。それにあれだ、俺がここで男を見せればもしかすると藍斗と飯崎さんの関係も加速していくかもしれない。
まずはくるみに疑われているこの状況を打破するため、藍斗に届けてもらったこれを手渡すのが1番早いだろう。
「ほら、これ」
俺がくるみの方に藍斗から手渡された袋を差し出すと、くるみは余計にわけがわからないと言った様子を見せる。
「いや、急にこれって言われてもわかんないんだけど」
「今日って日にこんな小袋もらうなんてもうそれしかないだろ」
「……あ」
「気づいたか」
くるみは先ほどまでオドオドとして体を揺らしたりしていたが、この袋が何なのかに気がついた瞬間体を硬直させる、その小袋を見つめ始めた。
「誕生日か……」
「そうだよ。だからそれは俺からのプレゼントだ」
「瀬下から? みんなからじゃなくて?」
「みんなからじゃなくて悪かったな」
くるみは俺個人からのプレゼントか、みんなからのプレゼント、どちらの方が欲しかったのだろうか。俺からのプレゼントに喜ばないということはないだろうが、やはり俺からのプレゼントの方により喜んで欲しいと思ってしまう。
袋を見つめたままのくるみの反応が気になりくるみを凝視していると、くるみは急にこちらを向いた。
「開けてもいい?」
俺はくるみからの質問に首を縦に振るだけで返答した。そしてくるみが小袋を開ける。
「何これ、あんたのチョイス?」
「まぁそんなとこだ」
「……どうせ莉愛ちゃん達に選ぶの手伝ってもらったんでしょ」
「ゔぅ……」
「そうじゃないと瀬下がこんなにセンスのいいプレゼント、渡すはずがないし」
「……すまん」
「まあ中々やるじゃん」
言葉は若干尖っているが、くるみはプレゼントにご満悦のようだ。
「ねぇ瀬下」
「ん? どうした?」
「好き」
「……え?」
俺はくるみからの一言に固まることしかできなかった。
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