第81話 くるみの追跡

 藍斗達をショッピングモールに置いてきた俺はできるだけ駆け足で自宅に向かっていた。くるみは1人でいるのが好きなタイプではないので向かうとすればほぼ間違いなく自宅のはず。

 そう検討はついていたが、検討というよりは家にいてほしいという希望に近かった。


 そんな希望を持ちながら自宅に到着し、鍵を開けて玄関の扉を開ける。扉を開けてすぐに下方向を確認すると、そこにはくるみの靴が置いてあった。

 どこにもいかずに無事自宅に帰ってきていることを確認して安堵した俺は、靴を脱いでそのままリビングの扉を開けた。


 リビングにはくるみの姿がないように見えたが、よく見るとソファーからくるみの足だけがはみ出しているのが確認できた。 

 そのまま歩みを進めると、ソファーに寝転がってクッションで顔を覆っているくるみを見つけた。


「クッションなんかで顔隠してどうした」


「……別に」


 俺が何事もなかったかのようにそう話しかけると、くるみはクッションを顔に押し当てたまま籠った声でそう言った。

 それは強がりか、本当に俺に怒っているのか、俺にはわからない。


 俺はなにもなかったようなフリをしながら冷蔵庫を開けてコップにお茶をそそいだ。

 そうしてから机の前に置かれた椅子に座り、くるみに話しかけてみた。


「あのさ、くるみが中学校の時、俺が家に女子を呼んでから機嫌悪くなったじゃんか」


「……何の話か知らないけど」


「あれさ、俺が女の子だけ呼んだと思ってるだろ」


「……思ってるも何も、それが事実でしょ」


 やっぱりな。俺が言っていないのだから当然かもしれないが、くるみはあの時俺が女子3人だけを家に呼んだように見えていたのだ。

 しかも、俺がこの話をしてすぐに内容を思い出すということは、やはりこの出来事はくるみの中で色濃く残っているのだろう。


 それなら、その曲がった事実をすぐ正してやらないとな。


「あれな、俺から女の子3人誘ったわけじゃないからな」


「……は? そ、そんなわけないでしょ。あんたから誘わなかったら誰から誘ったら女の子が3人も私たちの家に来るっていうのよ」


「中学校の同級生に坂本っていただろ。俺あいつと仲が良かったからあいつと女子3人合わせて5なんで遊ぶって話だったんだよ。それなのに、坂本がドタキャンしたせいで俺が女子3人と遊んで見えただけだからな」


「……え、そんなこと?」


 キョトンとした顔をして目を丸くするくるみ。

 そんなことというが、そんなことを説明させてくれなかったのはくるみ本人であることを忘れてもらっては困る。


「そんなことだよ。それにな、今お前が目尻を赤くしてるのも多分見当違いなことだと思うぞ。俺が金尾さんたちと遊んでるのを見たからだろ?」


「……瀬下が金尾さんと小波さんとかいう謎のグループで遊んでるのを見て、こいつはまた女の子と遊んでるのかって思って嫌気がさしたからだよ」


 やはりな……。くるみは俺が想像していた通りの勘違いをしてくれているようだ。


「それも違います」


「……ほんと?」


 何だよこいつ。急に上目遣いで俺のこと見るなよ。いつもは絶対しないのに、くるみにキュンとしてしまった自分に腹が立つ。


「本当だよ。俺が理由もなく女子と関わるなんてあり得ないだろ」


「……知らないけど。未だに何か理由があって金尾さん達と遊んでたとは信じがたいし」


「それはまぁ……」


 この場でプレゼントでも渡せばくるみが俺が女の子と遊びたかっただけではないと気づいてくれるのだろうが、そのプレゼントは今俺の手元にはない。

恐らく藍斗達が買っておいてくれているだろうが、今そのプレゼントがないとどうしようもない。

 くるみはジト目でこちらを見つめており、完全に俺のことを疑っている。

 

「何よ、やっぱり言い訳してるだけじゃない」


 もう手の内用がないと思った矢先、大きな音を立てて玄関の扉が開いた。


「瀬下‼︎ これ、持ってきてやったぞ」


 そう言って俺の家に入ってきたのは藍斗だった。



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