第80話 くるみの捜索
涙を流しながら俺たちの横を通り過ぎて行ったくるみを見かけた俺たちは、瀬下たちと早急に合流してその事実を瀬下に伝えることにした。
くるみが泣いていた理由は俺たちには見当もつかないが、瀬下ならくるみのことが何か分かるかもしれない。
俺と飯崎は周りのお客さんの迷惑にならないよう小走りで瀬下たちとの集合場所へと向かった。
1分もしないうちに集合場所に到着するが、まだ瀬下たちの姿は見えない。
「まずいわね。できるだけ早くこのことを瀬下くんに伝えたいんだけど……」
「そうだな……。とりあえず電話してみる」
瀬下たちに早く集合するよう伝えるために瀬下に電話をかけると、俺たちの真後ろから着信音が鳴って俺たちは後ろに振り返った。
「なんだよタイミング悪いな。驚かせてやろうと思ったのに」
「タイミングが悪いのはお前だ」
「イテっ⁉︎」
俺は事情も知らずにヘラヘラと呑気にしている瀬下の頭を小突いた。
「え、なんで今俺殴られたの?」
「そんなことはどうでもいいんだよ。おい瀬下、お前くるみのこと見なかったか?」
「は? くるみは今日呼んでないんだからこんなところにいるわけないだろ?」
「さっき見たんだよ。くるみが泣きながら走り去ってくとこ」
「……嘘だろ?」
「本当だ」
「マジか……」
ただくるみを見かけただけならまだしも、涙を流していたとなれば瀬下が動揺するのも無理はない。
しかし、くるみが涙を流していたということを疑問に感じている様子は見受けられなかった。
「なにか心当たりでもあるのか?」
「いや、心当たりというか……」
「なんだよ。もったいぶらず話せよ」
「この前もチラッと言ったけどな、くるみと俺が仲が悪くなった原因は俺が同級生の女の子を家に連れ込んだからなんだよ」
瀬下が女の子を家に連れ込んだという話はこの前確かに聞いたが、そんなことでくるみと瀬下が仲が悪くなる理由になるのか? 普通に考えればそんなことが理由になどなるはずもない。
……いや、その状況でくるみと瀬下の仲が悪くなる理由がひとつだけあるな。
「その顔、もう俺たちが仲が悪くなった理由に気がついてそうだな」
「お前は最初から気づいてたのか?」
「まあ薄々というか、確信したのは今くるみが泣いて走って帰っていったって話を聞いたからだけどな。当時はなんでくるみがそんなことで怒るのか理解できなかったけど、今くるみが泣きながら走り去っていった理由を考えるとしたらこれしかないなって」
「なるほどな……」
「……え、ちょっと男子2人で話進めないでよ。なんのことかさっぱりなんだけど」
飯崎は俺たちが何に気づいているのか分からず、不思議そうに俺たちの方を見ている。
「まぁとりあえずさ、くるみはもう家に帰ってるだろうから。早く追いかけてやれよ。プレゼントのことは俺たちに任せとけ」
「すまん。そうするわ」
「え、だからねぇ。なんの話してるかさっぱりなんだけど? 金尾さんと小波さんはずっと1番美味しいデザートは何かを議論してるし」
「いいんだよ。とりあえず俺たちは瀬下を見送れば」
「え、そんなことでいいの? いったい何が何だかさっぱり……」
「ほら瀬下、早く行ってきてやれよ。待ってるだろうから」
「すまん。やっぱり持つべきものは友達だな」
「都合のいいこと言ってないで、早く行け」
そして瀬下は両手を合わせて謝罪し、走り去っていった。
「え、本当にわけがわからないんだけど……」
「ほら、いいから。瀬下はいなくなっちまったし、さっき俺たちが選んだプレゼント買いに行こうぜ」
飯崎は疑問符を浮かべたままだが、俺たちはくるみのプレゼントを買いに行くことにした。
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