第79話 1人の私

 放課後、いつもなら莉愛ちゃんに声をかけたり天井くんを無理やり誘ったりして遊んで帰ることが多い私だが、今日は誰に声をかけても用事があると断られたので1人で帰宅することになった。

 いつも誰かしらと一緒に帰宅していた私は久しぶりの1人になっての下校に寂しさを感じていた。

 普段は同じ家に住んでいることが気づかれないように、あえて若干タイミングをずらして帰宅している瀬下も今日は用事があると言っていた。みんな揃って一体なにをやっているのだろうか。


 久しぶりの1人で過ごす時間は、退屈だと思えば本当にただ退屈なだけの時間になってしまう。それならせっかくの1人の時間を満喫しようと思い私は1人でショッピングにでも行こうと思い立った。


 最近の私は瀬下との関係も悪化するばかりであまり気持ちが盛り上がることがない。そんな状況で莉愛ちゃんと天井くんのあの状況を見せつけられたら羨ましくもなるし、若干鬱陶しくもある。まあ瀬下との関係はこちらから悪くしているんだけど……。


 それならたまには貯金を続けているお小遣いをパーっと使っても誰かに怒られたりはしないだろう。そう思って私はショッピングに行くことにした。


 少なからず興味のある服や愛読しているラブコメの新刊など欲しいものは少なくない。


 そう思って気軽にショッピングにいったのだ。


 お店に到着してから自分が欲しいものが売っているお店を買いまわり、物欲が収まって行く。それなのに、あまりに気持ちの昂りを感じないのはやはり1人でショッピングに来ているからなのだろうか。

 いつもは私の隣に莉愛ちゃんがいて私たちの後ろには天井くんと瀬下がいる。そんな賑やかな毎日が当たり前になってしまい、1人ではいられなくなってしまったのだろう。


 たった1人の特に面白くないショッピングを続けていても意味はないと、ある程度買い物を済ませた私は帰宅するために出口へと向かっていた。


 そのとき、自分の10メートルほど先に瀬下の姿を見つけた。それも女性もののアクセサリなどを販売している店の中で。

 どうせ天井くんと来てるんでしょ、とは思いながらも女性用の店にいることに不安を覚えた私は、瀬下が会話している主が誰かを確認するためにこっそり店の外から覗いていた。


 まさか瀬下が女の子の家で遊んでいるなんてあり得ない。普段から女の子との関わりを持っているところなど見たことがないし、こんなところに遊びに来ているなんて尚更あり得ない。


 こそこそと瀬下の方をのぞいていると、陳列棚で隠れて私の目に見えていなかった瀬下と一緒にショッピングに来ている人物が目に入ってきた。

 

 瀬下と一緒にいたのは金尾さんと小波さんだったのだ。

 なんでその2人とこんなところに? ただ遊びに来ただけだっていうの?


 いや、あの2人と遊ぶならあのメンバーの中には間違いなく莉愛ちゃんと天井くんがいるはず。というかいなければおかしい。

 じゃあやっぱりあの2人を瀬下から誘って遊びに来たってこと?


 なんで。なんであいつは私以外の女の子と……。


 私の頭には昔瀬下が同じ中学の女子生徒を家に連れ込んできていた時のことがフラッシュバックしていた。


 私は、私はアンタが大好きなのに。


 それなのに、何でアンタは私以外の女の子と一緒にいるの?

 何で私以外の女の子と一緒にいてそんなに楽しそうなの?


 私はアンタだけを、あんただけのことをずっと好きでいるっていうのに……。


 そう思った瞬間、私は俯き加減で店の外に向かって走り出していた。


 愛というのは平等ではない。どちらかが与えれば必ず同じ分だけ愛が返ってくるというものではない。

 そんなことは頭で理解できているはずなのに、それなのに私は瀬下に愛の見返りを求めてしまった。


 私は瀬下が大好きだけど、瀬下は私のことが好きではない。


 そう思うと涙が止まらない。


 俯きながら、涙も止まらず視界も悪い中で私はひたすら外へ向かって走っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る