第75話 尋問

 月曜日、俺と莉愛は瀬下とくるみに真相を確かめるべく、放課後に直接本人たちに訊いてみることにした。

 直接訊くのは勇気がいるが、変に遠回しに聞くよりも直球で訊いてしまった方が気を遣わずに済むし楽だろう。


「なぁ、瀬下とくるみって一緒に住んでんの?」


「「ブフォッ‼︎」」


 俺がその質問をしたタイミングが良くなかった。


 瀬下とくるみは下校中に自販機でジュースやコーヒーを買って飲みながら帰るという習慣がある。

 瀬下は俺が質問したタイミングで飲んでいた炭酸飲料を、くるみはあからさまに甘ったるい見た目をしている微糖の缶コーヒーを口から吹き出してしまった。


「ちょ、ちょっと大丈夫?」


「だ、大丈夫だよ莉愛ちゃん。で、なんだって? 私と瀬下が同棲してる? そんなわけないじゃん」


「そ、そうだぞ藍斗。俺がこんな奴と同棲なんてするわけないだろ」


 2人は全力で同棲していることを否定しているが、2人とも完全に目が泳いでいる。これはクロですね……。


「は? こんな奴って私のこと? 殴りかかってやろうか」


「今はそんなことしてる場合じゃないだろ。話をややこしくすんなめんどくせぇ」


 俺に同棲しているという事実を指摘された動揺のせいか、2人の仲は確実に険悪になってしまっている。


「お前らの喧嘩なんて今はどうでもいいんだよ。それにな、2人とも口に含んでた飲み物吹き出すさっきの反応の後で同棲してないは無理があるだろ」


 俺がそう指摘すると、瀬下とくるみは諦めたような表情を見せてから渋々話し始めた。


「……はぁ。そうだよ。俺たちは同棲してる」


「やっぱりな」


 瀬下とくるみが同棲しているという話を聞いた俺と飯崎の反応をみた瀬下は、目を丸くして俺たちを見る。


「……え、意外と驚かないのな」


「まあ知ってたからな。今更驚くことでもないだろ。俺と飯崎も同棲してるし」


「まあ確かにそれなら驚くこともないかもね。私も正直莉愛ちゃんと天井くんが同棲してるって聞いたとき、自分達と同じ境遇すぎることには驚いたけど、同棲してるって事実自体にはあんまり驚かなかったし」


「ほら、くるみも驚かないって言ってるだろ」


 俺とくるみの会話を聞いてうんうんと横で頷く飯崎とは対照的に、瀬下は明らかに動揺の色を隠せずにいた。


「いや、ちょっと待ってくれ。今なんて言った? 藍斗と飯崎さんが同棲してる?」


「その通りだ」


「……ダメだ、理解が追いつかん」


 瀬下は両手を上にあげ、この状況を理解をすることはできないと敗北宣言を挙げた。

 自分たちの秘密がバレた挙句、俺と飯崎が同棲しているという驚きの事実が急に2つも押し寄せてきたのだから驚くのも無理はない。


 小波の件で俺たちの家に上がった瀬下だが、あそこは俺の家ということで話は通してあったので、俺たちが同棲しているという事実を知ったのは今が初めてだろう。


「それで、1個だけ質問させてもらいたいんだけど」


「莉愛ちゃんの質問なら何だって答えてしんぜよう‼︎ なんたって莉愛ちゃんの質問だからね‼︎」


「あまり何を言っているのか分からないけれど……。瀬下くんとくるみって同棲しているのになんで仲が……」


「あ、私用事思い出した‼︎ じゃあ私帰るから‼︎ また明日ね‼︎」


「え、ちょ、ちょっとくるみ⁉︎」


 質問する前に言っていた、莉愛ちゃんの質問なら何でも答える、という発言を無かったことにしてくるみは急に走って行ってしまった。飯崎の質問がよほど答えづらいものだったのだろうか?


「今の質問でなんで逃げたんだろ。大した質問でもなかったような気がするけど、瀬下は何か知ってるか?」


「いや、俺自身なんで俺とくるみの仲が悪くなったのか、正確には分かってないんだよ」


「正確には分かってないってことは、何で仲が悪くなったのか、多少の検討はついてるのか?」


「まあ多少はな」


「その理由ってのは?」


「俺が高校生になったばっかりのときに中学時代の友達を家に招いたことがあったんだよ。多分それが原因だ」


「いや、友達呼ぶだけで仲は悪くならないだろ」


「普通はな。俺が呼んだ友達ってのが女子3人だったんだよ」


「……は?」


 急な瀬下の俺昔モテてましたアピールに、俺は低い声で返答した。

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