第73話 隠し事
辺りを見渡しながら帰宅した俺は洗面所で手を洗っていた。
鍵を持ってはいたが開けるのが面倒くさかったのでインターホンを押したのだが、そのせいで同居人であるくるみの機嫌を損ねてしまったようだ。
手を洗い終えてリビングに戻るとくるみは腕を組み、不機嫌そうにこちらを見た。
「誰にも見つからなかったでしょうね?」
「それに関しては毎日気をつけてるよ」
「ならいいけど。もう少し出かけててくれてもよかったけどね」
「用事が終わったら誰だって家に帰るだろ。ここは俺の家なんだから」
なぜ俺の家に幼馴染であるくるみがいるのかと疑問に思う人もいるかもしれないが、ここは俺だけの家というわけではない。
ここは俺の家でもあり、幼馴染であるくるみの家でもあるのだ。
俺たちはその事実をかくして生活している。
流石に高校生の男女が同居しているなどという事実を知られるわけには行かない。
そのため、くるみは俺が家に帰ってくると毎回この質問をしてくるのだ。
「ここ、私の家でもあるんだけど」
そんなことは分かっているので、俺は「はいはい」と疎ましく返事をした。
この家はここから30分ほど車で走った田舎に住んでいる俺の両親が購入したマンションで、将来田舎に住むよりも駅近のマンションに住みたいという理由で購入されたマンションだ。
すぐに住むわけでもないマンションを購入した理由は姉の通学のためである。
俺の姉が通う大学は通学に実家から電車を乗り継いで2時間はかかる。
それではあまりにも通学が負担になるということで、それなら1本電車に乗れば大学に到着するように駅の近くにあるマンションを購入した。
アパートを借りることも考えたようだが、どうせ将来マンションを購入するなら今のうちに購入して住んでしまえ、ということでこのマンションを購入する流れになった。
それは別にいい。こちらの都合とは全く関係ない話だし、それで俺が迷惑を被っていたわけではない。
むしろ俺も高校の近くにある家に住めて楽をさせてもらっている。
しかし、ある日俺の母親から聞かされた話を聞いて俺は度肝を抜かれた。
『そうそう、あんた高校に行ったらあそこのマンションに住むでしょ? あそこ、部屋もやたらと広くて持て余すと思うから、くるみちゃんが一緒に住むことになったから』
そんな大事なことを党の本人たち抜きで決定してしまうなど愚行でしかないのだが、当時の俺はくるみのことが好きだったこともあり、その依頼を快く受け入れた。
最初はそれなりにお互い仲良く暮らしていたのだが、ある日、問題が発生する。
それは俺が中学時代の友達数人を家に招いた時のこと。
高校生になったばかりの俺は中学時代に仲が良かった2人の男友達、そして女友達3人で遊ぶ予定を立てていた。
久々の集まりということもあって楽しみにしていたのだが、当日の集合時間5分前に男友達2人がドタキャン。
すでに女子生徒は俺の家に来ていたので、何もせずその女子生徒3人を返すというわけにも行かず家にあげた。
その日は特に何があったというわけでもなく、ゲームをしたりくだらない話で盛り上がって終わったのだが、そこからくるみの俺に対する態度は激変。
こうして俺たちは仲が悪くなってしまったと言うわけだ。
あの日を境にくるみが俺に対する態度を急変させた理由は今となっても分からないままとなっている。
とはいえ、仲が悪いと言うのにくるみはやたらと俺に付き纏うし、藍斗と飯崎さんを巻き込んだ遊びには必ず俺を呼ぶのでくるみの考えることは分からない。
「ちょっと、突っ立ってないで早く夜ご飯作り始めてよね」
そう言いながら、くるみは趣味である少女漫画を愛読しながらソファに寝転がっている。
同居をしていて男の方がご飯を作るというのは少ないかもしれないが、俺はくるみからの命令を断れず、いつまで経ってもこうしてくるみの下に敷かれている。
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