第70話 アタック
小波さんが帰宅して藍斗は自分の部屋へと戻っていったが、私は玄関に立ち尽くしたままとあることを考えさせられていた。
--なんか藍斗ってめちゃくちゃモテてない⁉︎
最初に藍斗のことが好きになったのは金尾さんだ。いや、本当の最初って意味では私だけどね?
金尾さんは寝てばかりで掴みどころの無い性格をしているが、学校の女子の中でもトップクラスに可愛い。
睡眠時間があまりにも多いところを除けば男子の誰しもが彼女にしたいと言うだろう。
そして次は雨に打たれているところで声をかけた小波さん。
小波さんはとても小柄で一部の男子からはとてもウケが良さそうな体型をしている。別に幼児体型と馬鹿にしているわけではない。
幼児体型なだけあって顔はとても小さくこちらもトップクラスに可愛い。
幼児体型という短所? いや、長所? を除けば金尾さんと同じく誰しもが彼女にしたいと言うだろう。
そして極め付けは……。
私自信だ。
同じクラスの女子3人から好きになられているという状況を考えれば藍斗は完璧にモテ男。
別段ルックスがいいわけでもなく愛想がいいわけでもないのに、なぜかモテる藍斗に私はなぜかイラっとした。
それと同時に、このままだと藍斗が私以外の誰かと仲良くなって付き合って、最後には結婚する可能性すらあることを私は改めて実感させられた。
こうなったらもう悩んでいる暇はない。
私は階段を登り、再び藍斗の部屋の扉を開けた。
「小波さん、帰ったわよ」
「なんだよ。態々そんな報告しにきたのか?」
「まあ部屋に一人でいても暇だし、藍斗の部屋で暇でも潰そうかと思って」
「どうした急に……」
藍斗は普段絶対にしない私の行動に驚いているようで、先程まで読んでいたと思われる漫画を片手に私の方を見ている。
そんな藍斗が寝転がっているベッドに、もう一人分くらい誰かがなるスペースがあらことに気がついた私は、思い切って行動してみた。
「ねぇ、もうちょっと奥行ってよ」
「……は? なんで奥に行かないといけないんだよ」
「なんでもいいから。ほらはやく」
私は藍斗を両手で奥に追いやりながら、藍斗のベットに寝転がった。
「いや、何やってんだよ」
「昔はこうして二人で寝たりもしてたわよね」
「……そうだな」
覚悟を決めた私は藍斗と普通に会話をできていた。
昔もこうやって藍斗の隣で寝るのが好きだったな……。
「アンタって好きな人とかいるの?」
「--は? 急になに?」
「なんでもいいでしょ。ほら、早く教えてよ」
「……いねぇよ」
「へぇ〜。金尾さんは?」
「前も言っただろ。金尾はどっちかっていうと気が合う一緒にいて楽な存在だって」
「じゃあ小波さんは?」
「小波ともまだ知り合ってそんなに時間たってねぇし、そんな目で見たことねぇよ」
金尾さんも違う。小波さんも違う。
それなら藍斗が好きになる人ってどれだけ美少女で性格がいい女の子なんだろう……。
想像しただけで嫉妬してしまう。
「じゃあ私は?」
「……は?」
藍斗は横向きに寝転がって私に背を向けたまま呆気に取られたような声を出した。少しは私の頑張りに驚いただろうか。
でもまだだ。この質問に対しての答えを聞くまで私は食い下がらないわよ。
「いや、いるでしょ? 高校生なんだから好きな人くらい」
「いや、何言ってるんだお前は……」
私の発言を冗談だと思っているであろう藍斗に対して私は真剣な眼差しを向ける。
その視線を見て私が本気であることを感じ取った藍斗は私に訊いてきた。
「……飯崎はさ、本当に俺のこと嫌いじゃないのか?」
「嫌いじゃないわよ」
「そうか。俺も飯崎のことは嫌いじゃないよ。最近は罵り合いでさえ一緒にいて心地いいって感じるくらいだからな」
私と一緒にいて心地いいと感じてくれているということは、私も金尾さん達に負けないくらい藍斗の中にいられているということなのだろうか。
「……それだけ?」
「欲張るなよ……」
私が無理矢理問い詰めるので怪訝な表情をされたが、私はまだ足りないと言わんばかりに藍斗を見つめ続ける。
「拗れに拗れてた俺たちの関係が改善されてきてるのは間違いないと思う。でもこの先どうなるかとか、どうするべきなのかはよく分からん。ただ……」
「ただ?」
「……俺の心の中に1番大きな巣を張ってるのは飯崎で間違いないよ」
藍斗にそう言われた瞬間、私の表情は崩れに崩れ、酷く醜かったのではないだろうか。
藍斗が私に背を向けていて本当に助かった。
「よくできました」
「おい、おまえ何ニヤニヤしてんだよ‼︎」
「ニヤニヤなんてしてないわよ‼︎ あんた私に背を向けたままよくそんな勝手なことが言えたわね‼︎」
「見なくても分かるわ‼︎ てか飯崎からもなんか言え‼︎」
「私からは何も言いませ〜ん」
「不平等だ‼︎ 男女平等を求む‼︎」
「都合のいいときだけそんなこと言ってると友達無くすわよ」
藍斗が想像した私の表情はただのしたり顔だったかもしれないが、あの表情はしたり顔なんていいものではなかったと思う。
藍斗に私の紅潮した表情を見られる前に私は自分の部屋に戻ってきた。
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