第68話 お泊まり会の意図
くるみの思い付きで私たちは急遽くるみの家でお泊まり会を開くことになった。
くるみの家に到着した私たちはくるみの部屋で布団を敷き詰め、パジャマに着替えてから女子会をスタートさせた。
私たちがパジャマに着替えたのは自らの意思ではなく、くるみからの指示である。
小波さんをどうにかするのになぜくるみの家でお泊まり会を開いてパジャマに着替えなければならないのかを疑問に思った私は、他のメンバーが会話をしている間にくるみに小声で訊いてみた。
「ちょっとくるみ、何で私たちくるみの家に集められたの?」
「まだ気づかないのかね莉愛くん」
いや、そんなこと言われても分かるわけなくない? というか口調も変になってるし。
「気づいてないけど」
「小波さんって家で1人なのが寂しくて莉愛ちゃんたちの家に行ってるんでしょ? それなら私たちがみんな小波さんの友達になればいいんじゃないかと思って」
「……そっか。家でも1人が多いから誰かとコミュニケーションを取るのが苦手で友達も少ないはずだし、私たちが友達になればその寂しさは無くなるかもしれないわね」
「しょゆこと♡」
ウインクをしながら可愛い子ぶってもそのギャグはないわ。
とはいえ、くるみの判断力には驚かされた。小波さん問題の解決方法をここまで容易く導き出すとは。
くるみから今日のお泊まり会の意味を聞けたところで全員参加の会話が始まった。
「よかったよ。みんな両親の許可が取れて」
「男子の家に泊まるわけじゃないですし両親の了承を得るのは容易いことです。まあ私は天井さんの部屋に泊まっても良かったんですけど?」
そう言って小波さんを牽制したのは金尾さんだ。そこまで敵意剥き出しに出来るのはもはや才能ね。
「私も天井さんの家に泊まりたかったです。天井さんの部屋で、天井さんの横で、天井さんの中で」
「ちょ、ちょっと⁉︎ 中でってどういうことですか⁉︎」
流石の金尾さんも小波さんの発言に狼狽する様子が見受けられる。
「天井さんのことが好きすぎて天井さんと抱きつくだけじゃ飽き足らず、中に入りたいってことですよ」
「だ、だからその、中でっていうのが……」
「孫は目に入れても痛くないっていうじゃないですか。そんな感じですよ」
してやられたという感じで金尾さんは顔を赤くした。
いや、今のは誰だって間違えるわよ。私だってその、そういう話だと思ったし……。
というか絶対意図的に間違えるような言い方してたでしょ。
「や、やりますね小波さん。まさか飯崎さんの他にこれ程強力なライバルが現れるとは」
そう言って難しそうな顔をしているけれど、私からしてみれば金尾さんも十分に強力なライバルで負けたくない相手だ。
「金尾さんも小波さんも積極的だねぇ。それなら今度2人で天井くんの部屋に泊まってきてよ。面白そうだから」
「何言ってんのよ。アイツと同じ部屋に泊まったら何かれるか分かんないわよ?」
「いや、だから何かするのは私の方で……」
「もうその話はいい‼︎ 訳がわからなくなるから藍斗に襲われるってことにしておきましょう」
小波さんは藍斗のことが好きだという態度を前面に押し出しているだけあって発言が危なっかしい。小波さんの方から襲うという状況はかなりまずい。
「そういえば私気になってたんですけど、もしかして飯崎さんって天井さんに何かされたことあるんですか?」
「な、何かって何よ⁉︎」
私は金尾さんからの急角度のパスに思わず驚いてしまう。
「そりゃあんなことやこんなことをされたり……。服とか脱がされたりしてんじゃないですか? 逆に飯崎さんが脱がしてるまであるんじゃないですか? 天井さんの筋肉どうでしたか?」
「べ、別に何もしてないわよ‼︎ そ、それに藍斗の筋肉なんて見たことないし……」
変なスイッチが入ってしまった様子の金尾さんは何やら怖いことを呟きながら私の方へと詰め寄ってくる。
でもごめんなさい金尾さん。私、筋肉どころか見てはいけない部分まで見ちゃってるのよね……。
「ちょっと君たちー。小波さん放ったらかしにして話進めないの。今日の主役は小波さんなんだから」
くるみの一言で我に帰った私は一度咳払いをしてから話を元の路線に戻す。
「小波さん、これからどうしたい?」
「……私は」
小波さんは私の質問に対して返答に悩んでいるのか言葉を詰まらせた。
「私は天井さんとずっと一緒にいたいです」
「……へ?」
「ま、まさかの結婚宣言⁉︎」
「だ、ダメですよ⁉︎ 天井さんは私のものなんですから‼︎」
「いや金尾さんのものではないけどね⁉︎」
このメンバーで藍斗の話をしていると話がややこしくなりがちだが、ずっと一緒にいたいとはどこまでを見据えての発言なのだろうか。
「……ふふっ。皆さんといると暖かい気持ちになりますね」
「今の会話のどこに暖かさを感じたのか教えてほしいくらいだわ」
「全部ですよ。私、両親がずっと家にいないこともあって人と会話をする機会が少なくて引っ込み思案になったんです。だから、家でだけでなく学校でも1人ぼっちになってしまってました。なので皆さんの会話は新鮮でとても暖かいです」
「私はいつも寂しくなったら瀬下を殴ってるよ」
「ちょっと、小波さんの話が台無しになるじゃない。え、というか初耳なんだけどそれ。DVじゃないそれ」
「人聞きの悪い‼︎ あれは愛だから」
それが愛なのだとしたらきっと、この世に本物の愛なんてない。
「私はずっと寝てたので寂しいとか辛いとかって思ったことはないですけど、天井さんを好きになってからは毎日楽しいですね。寝てるフリしてこっそり天井さんの行動を追いかけたりしてます」
「ちょ、ストーカーじゃないそれ」
「大丈夫です。バレないですから」
「そういう問題じゃなくない⁉︎」
「ふふっ。はははっ。やっぱり皆さん面白いです。私もこんなふうにみんなで楽しくワイワイできる仲間がいればなぁ」
小波さんのその発言に私たち3人は顔を見合わせ目を丸くした。
「何言ってんの小波さん。私たちもう友達でしょ?」
「……え?」
くるみが小波さんにそう伝えると、今度は小波さんの方が目を丸くした。
「そうよね。私はもう小波さんが私たちの家に入り浸るようになってから友達だと思ってたけど」
「……そう……なんですか?」
「おや、困惑してますなぁ。ちなみに私もコミュ障拗らせて未だに友達の定義はわからないので安心してくだされ」
「……それなら安心……ですかね?」
会話をする度ややこしい話にはなってしまっていたが、結局最後は金尾さんの一言で納得してくれたようだった。
それからも私たちはしばらく女子同士での会話を楽しみ、夜更かしをしてから眠りについたのだった。
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