第67話 住み着いた新たな住人

「波瑠ちゃん、たくさん食べていってね」


「ありがとうございます」


 問題ばかり起こしてはいるが小波はすっかり我が家になじみ始めており、リビングでは俺と飯崎、母さんに小波の4人がテーブルを囲み夕食を食べていた。


 小波は俺たちの家にやってきては夕飯を一緒に食べてその後風呂に入り、21時頃に帰宅していくというルーティンができあがっている。

 なぜ家に泊めてやらないのかという人もいるかもしれないが、飯崎と小波とでは状況が違う。


 夜遅いとはいえ両親は家に帰ってくるので、天涯孤独の飯崎と違って毎日俺たちの家に外泊していたら両親が心配してしまう。

 それに小波とは幼馴染というわけでもなく最近知り合ったばかりなので、ずっと一緒にいたら気疲れしてしまい俺の心身を休める場所がなくなってしまう。


 泊まっていないとはいえ、毎日やってくる小波に流石の飯崎もフラストレーションを感じているようで、日に日に表情が疲れ切っていった。


「ちょっと、あの子いつまでいるのよ」


 夕飯中に飯崎が小波と母さんに聞こえないように俺に耳打ちしてきた。


「……ずっと?」


「なによそれ‼︎ 終わりが見えないじゃない‼︎」


 小波は問題ばかり起こすので、飯崎がフラストレーションを溜め込んでしまうのもわかるし、早くなんとかしなければならないとは思っている。


 しかし、家に帰ったら一人ぼっちの小波を放っておくわけにもいかず俺はこの先小波をどうするべきなのか悩んでいた。


「お義母さん。今日もとってもご飯がおいしいです」


 小波がそういうと、母さんは見事に煽てられてしまい笑顔を見せ、「そんな上手いこと言っても何もあげないわよぉ」なんて言葉を口にしている。


 自分の母親がここまでチョロいというのは息子的に悲しさが大きい。


「ねぇ、ちょっと。ついに陽子さんにまで媚を売り始めたんだけど。今の絶対お義母さんって意識して呼んでたんだけど? この状況なんとかなるの?」


 うーん……。そうは言われても小波を1人にしてしまったらまたあいつは大雨に濡れながら1人でブランコに乗っているかもしれない。

 とはいえ、この状況をずっと続けるわけにはいかないよなぁ。


「……よし、こういうときこそ仲間に助けてもらおうぜ」


 そう言いながら俺は携帯を耳に当てた。




 ◇◆




 私たちが夕飯を食べた後、藍斗は急遽みんなを招集した。

 何か思いついたという表情をしていたのはこういうことだったのね。


「莉愛ちゃん、なんで小波さんが天井くんの家にいるの?」


「私が聞きたいくらいだわ」


 事情は知っているけど、それがその後もずっと私たちの家に来ていい理由にはならない。

 いや、なるかもしれないけど毎日押しかけてきて迷惑をかけられるのは困る。


 小波さんのせいでブ、ブラジャーだって見られてしまったし……。


「はわわわわ……。天井さんがまた女の子と仲良く……。天井さんは優しい爽やか系イケメンだと思ってたのに、実は女たらしの肉食系男子なのでしょうか」


 金尾さんも自分が好きな相手である藍斗が自宅に女の子を連れ込んでいることに驚き動揺しているようだ。


「いや、イケメンではないでしょ」


「おいくるみ、否定するのがイケメンって部分だけなのはなんでだ?」


 そ、そうよ。藍斗はイケメンでしょ。


 くるみは藍斗みたいな顔は好みじゃないのかしら。それとも私が藍斗のことが好きだから補正をかけてしまっているだけなのだろうか。


「俺もお前がイケメンだとは思ったことはねぇよ」


 人間の感性ってのは不思議なもので、私と金尾さん、小波さんは藍斗の顔を格好いいと思い、くるみと瀬下くんはそうは思っていない。


 人によって好みが違うというのは不思議なものである。


 格好いいんだけどなぁ……。


「まあ俺も自分がイケメンだと思ったことは1回もないけどな」


「でしょ。それで、なんで小波さんが莉愛ちゃんたちの家に?」


「俺が連れてきたんだよ」


「やっぱり天井くんが連れ込んでるんだ」


「変な言い方はやめろ。俺はただ雨に濡れながら1人ぼっちでブランコに乗ってた小波が風邪をひかないように家まで連れ帰ってきただけだ」

 

「なるほどね〜。まぁそんな状況があったんだとしたら誰だって声をかけたくなるよね」


「だから仕方がなくだよ。仕方がなく」


「まあ仕方がなくだとしてもこの状況は見過ごせないけどね」


 くるみがそういうと、小波さんは藍斗に隠れるようにくっついた。


「い、いやです。私、天井さんと一緒にいたいです……」


 な、なによこの子。藍斗に媚びばっかり売って……。


 でも一人ぼっちになってしまう小波さんが可哀想なのも事実。

 いつもは変な行動ばかりなのに、こんなときに寂しそうな表情を見せられたら家に返すに返せなくなっちゃうじゃない‼︎


「そうは言ってもさ、一応私たちもう高校生なんだしさ。留守番くらい1人でできないの?」


「ひ、1人はこわい……」


 家族がいない家というのは家族がいるときと全く違う姿を見せることがある。

 いつもは何気なく入っているお風呂やトイレも、家に1人でいるという状況ができあがれば1人で過ごすには恐怖の空間になってしまう。


 それが毎日続くのだから、中々耐えられたものではない。


 その気持ちが私にはよくわかる。


「私にいい案があるんだけど」


 そう言い出したのはくるみだ。


「いい案?」


「女子会しよう‼︎」


 ……は?


 私はくるみの意見に拍子抜けだった。

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