第66話 なんてもんもってきてんだ‼︎
俺が小波を拾ってから1週間が経過した。
拾うという言い方が正しいのかどうか定かではないが、俺的には捨て猫を拾うような感覚だったのだと思う。
俺が小波を拾った日から小波は俺と飯崎が住むこの家に入り浸るようになってしまった。
あの日から小波がこの家に来なかった日はない。
別に小波がこの家に押しかけてくること自体は迷惑ではないのだが、小波はこの家に来るたび様々な問題を起こしていった。
俺の風呂を覗きにきたり俺の歯ブラシを使おうとしてみたり、挙げ句の果てには部屋で暑いと言って下着になり始めたりと多くの問題が発生している。
流石に迷惑なので、この家に来たとしてもそういう危うい行動は慎むようにと伝えてはいたのだが、今日はとびきり大きな問題が発生した。
それは俺が飯崎が風呂を上がるのをリビングで待ちながらゲームをしていたときのこと。
「天井さん。これ、見てください。流石の私もこんな大きな物でたぶらかされたら拒否できる自信がないです」
「え、なんだって? ちょっと今ゲームに集中してるからまた後でな」
「ちょっとくらいいいじゃないですか」
「ダメだ。ここで死んだら俺のランクが下がって……」
「ほら、これ」
俺とテレビの間に入ってゲームを邪魔してくる小波を避けながらテレビを見ようと必死になっていたのも束の間、俺の目線は小波が小さな手で持っていた大きな物へと運ばれた。
「……え、ちょ、おま、それ」
「ね? 見た瞬間言葉を失うほど大きいんですよ」
「……一応訊いておくが、それはお前のか?」
「何言ってるんですか。見てください。この私の見惚れてしまう程のちっぱいを。片手におさまるくらいに小さい私がこんなに大きな物使ってたら持て余しちゃいますよ」
オフホワイトの下地にフリフリのフリル、ピンク色の花がデザインされたそれはあまりにも綺麗で、あまりにも大きい。
この若者向けのデザイン、流石に母さんのものだとは考えづらい。というか母さんがこんなの着てたらキツい。かなりキツい。
「てことはそれは、あれか? ……飯崎のってことか?」
「はい。飯崎さんのブラジャー……って痛ったっ⁉︎」
俺は小波が最後まで言葉を発する前に頭をグーで殴った。普通は女子をグーで殴るなんて非紳士的な行動は取らないのだが、これはどちらかといえば子供を教育する親のような感覚なので問題ないだろう。
「あううぅぅ……っ。何するんですか⁉︎ 痛いんですけど⁉︎」
「何するもクソもあるか‼︎ なんてもん持ってきてんだよ‼︎ そんなの俺が目にしたって飯崎が知ったらどうなると思ってんの⁉︎」
「さぁ、どうなるでしょうね」
「--ひっ⁉︎」
小波との会話に夢中になっていた俺は敵の接近に気がつかなかった。
リビングの扉が開かれるとそこには風呂から上がり服を着た飯崎の姿があった。
まさかこの距離にくるまで飯崎の襲来に気がつかないなんて……。
しかし、飯崎の表情はやけに落ち着いていた。そう、まるで嵐の前の静けさのような。
「とりあえずアンタ、どうなるか分かってるわよね?」
「え、ちょ、ちょっと飯崎さん……? この状況見たら俺が何もしてないのなんとなくわかるだろ? 俺に非はない‼︎」
「アンタが何もしてなくても、アンタは見てはいけないものを見たわ」
俺の横でぷくくと笑う小波。
クッソこいつ恩を仇で返す気だな⁉︎
「そっちのちっこいのも、覚悟しなさいよ?」
「ひぃっ……⁉︎」
ふんっ‼︎ ザマァねぇな‼︎
働いた悪事はそっくりそのまま自分に返ってくるんだよ‼︎ これが自然の摂理ってやつだぜ‼︎
俺だけが痛い目見るなんてそんな不平等なことがあっていいわけがないのだ‼︎
「何か最後に言い残すことは?」
「え、何そのセリフ。もう今後何も言えないみたいな口ぶりは何⁉︎」
「そりゃそうでしょ。だってもうアンタは……しゃべることなんてできないんだからねぇ‼︎」
バチンッ。
俺は飯崎に頬を平手打ちされてそのままソファへと倒れ込む。
思いっきり振り抜かれた右手はムチのようにしなり勢いを増して俺の頬へと向かってきた。
俺はソファに倒れ込んだままゴツンっと軽く何かを小突く音を聞きながら、少しずつ熱くなっていく頬をさす
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