第64話 人は見かけによらない
鼻の痛みはしばらくなくならず、ジンジンとした痛みが続いていた。これほどまで強烈に顔面に物をぶつけられたのは初めてではないだろうか。
しかし、飯崎がそうしたくなる気持ちも分かる。
そりゃ家で兄妹が全裸の同級生、それも女子生徒に馬乗りされていたらそんな反応にもなるだろう。
まあそうは言っても流石に重さにしたら2キロ以上はありそうなカバンを顔面にぶつけるのはいかがなものかとは思うが……。
鼻を真っ赤にした俺は自分の部屋に正座させられ、俺の横には服を着た小波が座っている。
俺の服では大きすぎると思って飯崎の服を貸してやったが、体が小さい小波が飯崎の服を着ると結局ブカブカで妙に艶かしく思わず視線を小波に向けてしまう。
「何ジロジロ見てんの変質者」
俺が視線を向けていた方向に気がついたようで、飯崎はギロっと俺を睨みつけてきた。
「おい変質者はやめろ。なんか変態よりダメージあるぞ」
「どっちでも一緒でしょ。犯罪者」
「余計酷くなったんだが?」
「アンタなんて言葉じゃ言い表しようの無いクズよ‼︎」
飯崎は大声で俺を怒鳴りつけた。
最近関係性が改善してきていただけに、飯崎が大声で怒鳴るところは久し振りに見た気がする。
こんなところでせっかく改善されてきていた関係を悪化させるわけにはいかない。
「落ち着けって。話を聞いてくれ」
「落ち着いてられるわけないでしょ⁉︎ アンタみたいな人間が横にいたら小波さんだって可哀想だわ」
「あ、ごめんなさい。天井くんを襲ったの、私だから」
「……へ?」
小波は俺に罪を被せるつもりは無いようで、自分で自分の悪事を白状した。
いや、でもこれ小波が俺のことを痴漢とか変態呼ばわりしてたとしたらどうしようもないんだよな。完璧に冤罪なのだが俺にはどうすることもできない。
今回は完全に小波に非があるとはいえ、その辺りは俺も気をつけて行動するべきだな。
小波には振り回されてばかりだが、正直に自分の悪事を白状してくれたことにだけは感謝する。いや感謝する理由なんてねぇけど。
「だから言ったろ。俺は何もしてないって」
「ちょ、ちょっと待って。小波さん、もう一回言ってくれない?」
「天井くんを押し倒して馬乗りして、何ならそのまま最後までやっちゃおうって思ってたの、私だから」
「「……何言ってんの⁉︎」」
俺と飯崎は全く同じ反応で驚いてしまった。
え、だって最後までってそういうことだよな? そういうことだよな⁉︎
じゃあもし飯崎があのタイミングで帰宅してこなかったとしたら俺どうなっちゃってたの⁉︎
正直理性を保っていられたのかどうかは紙一重だな……。
「そんなに驚くことですか? 私は本気でしたけど」
「本気ってお前な……。そこは、冗談です、って言うところだろ」
「え? だって本気でしたし」
「……もう何でもいいわよ。小波さん。何であなたは公園で雨に打たれてた上に、こいつを襲おうとしたの?」
飯崎が小波にそう訊くと、小波は一瞬表情を曇らせてから話し始めた。
「要するに鍵っ子なんです。私」
「両親の帰りが遅いってこと?」
「帰りが遅いなんてレベルじゃないです。ほとんど帰ってこないです」
俺は小波の事情を先ほども聞いたが、この話を聞いた飯崎は一瞬呆れた様子で俺の方に目をやりため息を吐きながらも納得した様子だった。
「なるほどね。あなたの事情はわかったわ。それで、これからどうするつもり?」
「どうするも何も帰るしかありません。なぜ天井さんの家に飯崎さんがいるのか、お2人の事情はよくわかりませんが迷惑をかけるわけには行かないので」
そう言ってまた、小波はまた表情を曇らせた。
その表情を見た俺は飯崎の方に目をやる。
そして飯崎は再びため息をついて、諦めたように話し始めた。
「……はぁ。分かったわよ。小波さん、とりあえず今日はうちに泊まって行って。1人はさみしいだろうし」
「……いいんですか?」
「よくはない……けど、小波さんが寂しい思いをする方がよくないから」
「……ありがとうございます」
こうして小波は俺たち2人が住む家に泊まって行くことになった。
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