第7章 新たな住人
第61話 不審者が家にいる⁉︎
中学生の頃、藍斗が猫を拾ってきたことがあった。
藍斗は母親が猫アレルギーであることを知りながら、こっそりと家の中に連れ込んでしばらく世話をしていた。
その猫は大層可愛くて、私も藍斗と一緒になって世話をしていたのを今でも覚えている。
母親が猫アレルギーだというのに、周りの迷惑を考えずに猫を連れてくる行為は中々に浅はかだとは思うが、捨てられている猫の姿を見たらいてもたってもいられなくなってしまったのだろう。
結局藍斗は母親に自分が猫の世話をしていることを気づかれる前に同級生の中から猫を引き取ってくれる家族を探し、その猫をその家族に譲り渡していた。
藍斗にはそう言った優しさがあって、私はそんな藍斗の優しい部分が好きだった。
それは藍斗のことを嫌いになろうと躍起になっていた時も同じで、結局藍斗の優しさに負けて私は藍斗のことが好きだと自覚をしなおしたわけだ。
しかし、その優しさが大きな問題の原因になろうとは、その時の私は微塵も思っていなかったのである。
◇◆
藍斗の誕生日を祝ってから一週間が経過し、7月に突入した。
茹だるような暑さで学校に行くのも嫌になる。
とはいえ、今日は昼から大雨が降り始め、夕方になっても降りつづいているので幾分か暑さも和らいでいる。
学校が終わってからくるみの家で2人で遊んでいた私はくるみの家を出て傘をさし、駅へと向かっていた。
傘をさしながら外を歩くのは普通なら面倒臭いことなのだが、最近の私は気分が良く雨の日でさえ気分が上がっていた。
未だに藍斗との喧嘩の頻度は下がりはしないが、藍斗の誕生日を祝ったあの日以来、喧嘩の頻度と同じくらい私と藍斗の間に普通の会話が増えていた。
少し前の私なら藍斗との会話が増えることに喜びを感じることはなかっただろうが、今の私は藍斗ともっと会話をしたいと思っている。
正直もう私が藍斗のことを好きだとバレてあの家を追い出されることなんて怖くない。
まあだからといって陽子さんと隆行さんに私の気持ちをひけらかすつもりはないが、最悪バレてしまうのはよしとしようくらいには考えている。
くるみと遊んで帰りが遅くなってしまったが、電車に乗って自宅の最寄駅に到着し、そこから傘をさして歩いて自宅に到着した私は傘を閉じて水を払う。
風も強く大粒の雨が降り続いているおかげで傘だけでは自分の体すべてを守り切れなかったようで、髪の毛や服はびしょ濡れ。体に付いてしまったしずくを両手で払い落とす。
家の中を濡らしてしまわない程度にしずくを払い落とした私は玄関の扉を開けた。
今日は陽子さんと隆行さんはまだ仕事から帰っておらず、玄関には藍斗の靴が置いてある。
私はリビングに入って、洗面所から音が聞こえてきた。
洗面所から音が聞こえるということは、藍斗も雨に打たれてびしょ濡れになって帰ってきて、きっと早めにお風呂に入っているのだろう。
そんなことを考えながら手を洗いに行こうとしたそのとき、藍斗の「ちょ、ちょっと⁉︎」という声と共に洗面所の扉が開いた。
そこには、びしょ濡れになった制服を着た藍斗と、その上にまたがる全裸の少女がいた。
そして藍斗は私たちに気が付き、私と目が合う。
「……あ、おかえり。お前も風呂入る?
「--っ‼︎」
私は肩からかけていたスクールバッグを思いっきり藍斗に投げつけ、藍斗の顔にカバンを直撃させる。
「何やってんのよアンタは‼︎」
藍斗の上にまたがっている女の子は背丈が小さく、中学生なのだろうかと勘違いしてしまうほどに体が小さい。
とにかく私は藍斗の顔面にスクールバッグを押し付け、その女の子を洗面所へと押し戻すのだった。
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