第50話 女の子は変身するんだね
飯崎から空けておいてくれと言われた6月26日の前夜、俺の元に飯崎から携帯で連絡が来たので俺はすぐに返信を返した。
飯崎
<明日、10時出発>
-20:18
天井
<了解>
-20:19
俺が一瞬で『了解』と端的なメッセージを返したのは明日のことを意識し過ぎていると思われないためだ。
ここで妙に間を開けたり、変に明日は何をするのか、なぜ2人で出かけるのかと質問をすれば明日が俺の誕生日で俺が何かを期待していると思われる危険性は高い。
それは俺としては本意ではない。
ただ……。
めちゃくちゃ気になるううぅぅぅぅぅぅうう‼︎
飯崎がなぜ俺を遊びに誘ったのかということも気になるし、どこに何をしにいくのかも気になって仕方がない。
正直に言おう。明日が俺の誕生日であるという事実は偶然かもしれないし、偶然である可能性の方が高いのは重々承知している。
しかし、俺は明日という日に期待してしまっている。
飯崎との関係は羽実子さんが亡くなってしまってから悪化し続けているし、飯崎が俺に対して酷い暴言を吐いて俺が飯崎を嫌いになってしまったのも事実だ。
しかし、最近は少しずつ会話も増え、普通に会話をすることができているし昔の雰囲気を思い出すことも多い。
飯崎には酷い言葉を言われて嫌いになってしまったわけだが、心の奥底では仲良くなりたいと思ってしまっているのだろうか……。
いや、そこまで悲観しなくとももしかすると飯崎も俺との関係を改善させることを望んでいるかもしれない。
そんなあり得ないことをずっと考えているうちに、俺はいつのまにか眠りについてしまった。
◇◆
目覚ましをセットしており予定通りの時刻に目覚めた俺は準備をしていた。
いつも瀬下と遊びに行くときと全く同じ準備でいいはずなのに、なぜかいつもより入念に身支度をしてしまっている。
とは言ってもオシャレに興味があるわけではないので、俺が購入した服はその全てがユニクロで購入されたものだ。シンプルイズベスト。
髪の毛も久々にセットしようと思ったが、変に俺が飯崎の前で格好つけるのは恥ずかしいので、髪型をセットするのはやめた。
同じ家に住んでいるので、瀬下と遊びに行くときよりも入念に準備をしていたら張り切っていると思われてしまう。
俺の身支度はどうでもいいとして、なぜか飯崎は一向にリビングに降りてこない。
時刻は午前9時59分。
俺が部屋で服を選んでいるときに隣の部屋から物音が聞こえてきていたので眠っているという事はないのだが、流石にそろそろ降りてこないと間に合わないだろ……。
そんなことを考えていると、2階から扉が開く音が聞こえてきて、足音が1階へと近づいてくる。
ようやく降りてきたか……。
リビングの扉が開き、俺は飯崎の方を向かうとしながら飯崎に話しかけた。
「おい、こんなギリギリに降りてきて……」
俺は飯崎を見て言葉を失った。
飯崎がめちゃくちゃ可愛いのだ。
可愛いのはいつものことなんだが、普段は結んでいない髪を結び上げ、ロングスカートに丈の短い服をしまいこんでいる。
そんな姿の飯崎を俺は見たことがなかった。
「……ちょっと、何黙ってるの? 何か言いなさいよ」
「な、何かって言われても……」
俺がそう言って口をつぐんでいると、飯崎は恥ずかしそうに髪をクルクルしている。
「……似合ってるよ。可愛いんじゃないか」
「言うのが遅いから減点‼︎ それじゃあ行くわよ」
「言わせるだけ言わせといて減点は酷くないか」
……え、なにこれカップルみたいじゃね?
今のはどういうことだ? 飯崎は俺は今日の服装を褒めてほしかったのか?
それじゃあまるで飯崎が俺のためにオシャレをしてきたみたいじゃないか……。
それに今、飯崎は俺から褒められた瞬間若干笑みを浮かべたような気がした。
俺に褒められたことが普段は見せない笑みを見せるほどに嬉しかったのだろうか。
誕生日にデートに誘われただけでもわけが分からないのに、今日は本当になにが起こってしまうのか、考えるだけで顔が綻ぶ……っておい俺、何綻ばせてんだよ気を張れ‼︎
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます