第49話 恋愛経験なんてないよ?

 今日は学校が終わってから、くるみの家で藍斗の誕生日にどこへ出かけるべきかを考えていた。


 誕生日という特別な日にはどこか特別な場所へ出かけたくなるものだが、そもそも私たちが2人っきりで遊びに行くこと自体が特別なことなので、遊びに行く場所自体はさほど重要ではないのかもしれない。


 だからといって、地元の公園や自宅近くのショッピングモールでは味気ない。


「藍斗って特に趣味とかもないし……。どこに遊びに行けばいいのか検討がつかないのよね……」


「何言ってんの莉愛ちゃん」


「え、私何か変なこと言った?」


「莉愛ちゃんは天井くんと遊びに行くんじゃなくて、デートに行くんだよ‼︎」


「デ、デート⁉︎」


 くるみは私が意識的に考えないようにしていたことを大声で伝えてきた。

 目の前に座っているのだからわざわざ声を大きくする必要なんてないし、私を緊張させるようなことを言わないでほしい。


 くるみのいうとおり、高校生の男女が2人で遊びに行くなど、仮に付き合っているわけではなかったとしても、それはデートと呼ぶにふさわしい行為である。


 それを意識してしまうと変に緊張するので意識しないようにしていたのに、今目の前でくるみが大声でデートだと言ってきたことで、私のはそのことを意識せざるを得なくなってしまった。


「そうだよ、デートだよ。デートと言わずしてこれをなんと呼べばいいのですか莉愛さん」


「だ、だって私たち、まだ付き合ってるわけじゃないし……」


「お、"まだ"付き合ってる訳じゃないってことは今後そうなるかもしれないし、そうなりたいと思ってるってことだね?」


「そ、そりゃ好きなんだから当たり前でしょ……もうっ。あんまり茶化さないでよ」


 ニヤニヤと笑うくるみにそっぽを向け、一度場の空気が落ち着いたところで私は脱線していた話を元に戻した。


「それで、どこに行ったらいいと思う?」


「莉愛ちゃんと天井くんは2人で遊ぶの久しぶりなんでしょ? それならやっぱり定番でいいんじゃない? 天井くんは紅茶が好きなんだし紅茶が美味しいカフェとか」


「なるほど、その手があったか」


 紅茶が好きな藍斗の誕生日を祝うには紅茶が美味しいカフェに行くのはもってこいのデートプランだ。

 とは言っても藍斗はリプトンの甘いレモンティーを飲んでいることが多いので、カフェで出される甘すぎない大人向けの紅茶がそこまで好きかどうかは定かではないが……。


「それとあれだね。デートに行くなら午後からにするべきだね」


「え、何か理由があるの?」


「そりゃ今までろくに会話してこなかった2人が急に1日中一緒にいるってなったら大変でしょ?」


「なるほど。それは確かにそうだわ」


 くるみは恋愛経験者であるかのように饒舌に私にアドバイスをしてくれている。

 私が気づかないところまで気づいてしまうのだからやはりくるみは恋愛経験が豊富なのだろうか?


「そうそう。1日中一緒だなんて気を使うし疲れるからね」


「くるみは誰かと付き合っことあるの?」


「……ないよ?」


 あ、今めちゃくちゃ目が泳いだ。これは絶対嘘だ。


「めちゃくちゃ目が泳いでるじゃない‼︎ 絶対嘘よねそれ⁉︎」


「……嘘じゃないよ?」


 絶対嘘だわこれ……。


 くるみの反応を見れば今まで彼氏がいたことがないというのは嘘であることが容易に読み取れる。


 その相手はもしかして……。


「それって瀬下くんのこと? 今も好きだったりするの?」


「な、なんで私があいつのことなんか⁉︎ 今も昔も別に好きじゃないから‼︎」


 くるみは頑なにそう答えるが、焦り方を見ても十中八九瀬下くんのことが好きだろう。


「そっか。くるみは好きな人がいないんだね」


「そ、そうだよもう。変な勘違いされたら困るよ」


  最後はくるみの話に乗ってあげることにした。


 いつも私の手伝いをしてくれるくるみを困らせるわけにはいかない。

 それに今日はまた1つ、いいアイデアをくれたので許してあげよう。


 私がくるみには彼氏がいないということを理解したフリをすることでくるみは納得してくれた。

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