第48話 同居人の欲しい物
今日はくるみと2人で少し遠出をして繁華街へとやってきた。
普段あまりやってこない賑わいのある通りを歩いているだけでテンションは謎に上がる。
「よし、じゃあ天井くんのプレゼント探し、始めますか‼︎」
プレゼントを渡す本人の私よりもくるみのテンションが高いのが気になるが、私の買い物に付き合わせているのだし申し訳なさは感じている。
しかし、私の用事に嫌な顔一つせず付き合ってくれるくるみにはやはり感謝しかない。
今日は藍斗の誕生日に渡すプレゼントを買いに来た。
今までならあり得ないその事実に自分でそう言っていても顔が赤くなりそうになる。
「探すって言っても何にするかは決まってないのよね」
「まぁその辺歩いてたら良いのが見つかるよ。お店なんていくらでもあるんだし。とりあえず行こっか」
こうして私たちは繁華街を歩き始めた。
◇◆
藍斗が欲しいものをしばらく考え続けたのだが、検討も付かなかった。
まともな会話を1年半もしていないので藍斗の好きな物の話なんてしたことがない。何を好きで何が欲しいかなど分かるはずもない。
くるみにはとりあえずお店の中を歩いていれば何か見つかる、と言われたのだが……。
「莉愛ちゃん、本当に天井くんが何が好きか知らないんだね……」
「いや、ほんと申し訳ないです」
結局ピンと来るプレゼントは見つからず、私たちはフラペチーノを片手にベンチに座って休憩をしていた。
お店の中を歩きながら、くるみは私に何度も色々な物を提案してくれた。
服であったりペンであったり靴下であったり色々な物を提案してくれたのだが、どれもピンとこず、私はプレゼントを何にするか決めかねていた。
色々と提案をしてもらえるのはありがたいが、パンツを勧めてきた時は流石にくるみの頭を軽くこづかせてもらった。
そこで注意をしておかないと次は何を進めてくるかわからない。
「うーん、なんか思いつかない? 天井くんが家で使ってるお気に入りのものとか。一緒に住んでるんだし、そーゆーところを考えるのは有利な気がするけど」
「家で使ってるお気に入りのものかぁ……」
くるみにそう言われて私は普段の生活を思いだす。
藍斗がお気に入りで使っている物?
そう考えてもやはりすぐには答えは思い浮かばない。
別段好きな物があるわけでもなく、家では基本グーたらしている。
趣味もないしそもそも何かを好きになるやる気がない藍斗が家で使っている何かなんて……。
「……あ、紅茶」
「紅茶?」
藍斗の普段の生活を思い浮かべていたら思い出したことがある。
なぜか知らないが藍斗は毎日必ず紅茶を飲んでいる。
朝起きてきたら紅茶を飲むし、夜眠る前にも紅茶を飲んでいる。
朝起きてきたときはいつも不機嫌そうなのに、紅茶のピラミッド型のパックを手にしてお湯を注いでいるときの藍斗はいつもより少し表情が明るくなっている気がした。
まあ基本はリプトンのレモンティーなんだけどね。
やってることは格好いいのかもしれないが、結局味覚はお子ちゃまじゃない。
「うん。藍斗から直接好きって聞いたわけじゃないけど家でずっと飲んでるわ」
「ずっと飲んでるくらいだから多分好きなんだろうね。……紅茶か。紅茶が好きなら……」
「ティーカップね」
「うん、それだ‼︎ それだよ莉愛ちゃん‼︎」
毎日飲むほど紅茶が好きなら、ティーカップを渡せば喜んでくれるだろうか。
私のことが嫌いになっているはずなのに、嫌いな私からそんなものを渡されて不愉快にはならないだろうか。
そんな不安が頭をよぎる。
「私がプレゼントなんて渡して喜んでくれるかしら」
「何弱気になってんの‼︎ ほら、行くよ‼︎」
そう言ってくるみは私の手を引いた。
その手の暖かさは、いつぞや握った藍斗の手の暖かさに少し似ている気がした。
◇◆
くるみに連れられてやってきたのはティーカップ等を専門として扱う食器屋だ。
遠くから見ても明らかに高そうなお店感が漂っていて非常に入りづらい。
「ほら、早く入ろ?」
「ちょ、ちょっと待って。まだ心の準備が」
「心の準備なんていらないでしょ‼︎ ほら、早く‼︎」
「ちょ、ちょっとくるみぃ〜」
くるみがズカズカとお店に入っていくので私もくるみの後を追ってお店に入る。
お店に入って綺麗に陳列された商品に付いている値札を見ると、どれもただのティーカップとは思えない高級な値段をしていた。
「ちょ、ちょっと。これ、私たちには手が出ないんじゃないの?」
「ソ、ソンナコトナイヨ‼︎」
ダメだ、くるみは高級な値札にやられて完全に目を回している。
というかくるみ、このお店の価格帯知らずに勢いで入ったわね……。
一度落ち着いてからゆっくりと店舗を見渡すが、やはりどれも高いものばかり。
高校生の私たちには手が出ないや……。
なんてことを思っていた矢先、ひとつだけ安価なティーカップが目に入った。
それは白い下地に花柄があしらわれたよくあるティーカップ。
しかし、ポップな雰囲気のそのカップが藍斗には妙に合っている気がした。
「く、くるみ。これなら私たちでも手が出るわ」
「た、確かに手は出るけど……。まだ高くない?」
くるみがいう通り、高校生の私たちが手を出すにしては少しお高めの値段ではある。
もちろんプレゼントの価値が値段ではないことくらい承知の上だが、今まで藍斗に酷い言葉をかけてきた分のお返しと考えたら補って余りある。
「私、これにする」
「……うんっ‼︎ 莉愛ちゃんがそう思ったんなら、それが最高のプレゼントだよ」
こうして私は藍斗への初めての誕生日プレゼントを購入した。
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