第46話 忘れてしまうほどのショック

 放課後、私はくるみの家で作戦会議をすることにした。

 どのようにして藍斗に好きになってもらうかという大事な話である。


 これまで散々藍斗のことを嫌いなフリをしてきたので、藍斗の私に対する好感度は著しく低下しているはず。自分で言っていて悲しくなるわね……。


「莉愛ちゃん。私はね、藍斗くんを落とすのに良い方法を見つけたのだよ」


「ふむふむ師匠、それはどのような方法でしょうか?」


「うーん、そんな反応するってことは莉愛ちゃんは知らないんだねぇ。知らないというよりは嫌いなフリをしていたから忘れてるって方が正しいかもだけど」


「え? 知らないって何を?」


「来週の土曜日、何の日か知ってる?」


 来週の土曜日が何の日かとくるみから問われた私は頭をフル回転させて考えるが、それが何の日だったのか思い出せない。


 来週の土曜日、6月26日……。


 その響きに、やたらと懐かしさを感じたものの、私はその日が何の日か思い出すことができなかった。


「ごめん。何の日だったか全く思い出せないわ」


「できれば莉愛ちゃん自身に思い出してほしかったんだけど……。まぁいっか」


「え、なにそれ。そんなこと言われたら自分で思い出したくなるじゃない」


「じゃあもうちょっと考えてみて。私はベッドで寝転びながら携帯でも弄ってるから」


 ベッドで横になりくつろぐくるみの横で、私は険しい表情で6月26日が何の日かを思い出していた。


 パッと頭に浮かばないということは私にとって大切な日ではないということだろうか。

 6月26日という響きの中に懐かしさを感じたということは、昔は私にとってその日が大切だったのか……?


 私にとって大切な日で、私が忘れているとしたら……。


「あ、藍斗の誕生日」


「お、よくできました‼︎ 流石莉愛ちゃんだね」


 私はママが死んでから、誰かの誕生日というものを素直に祝えなくなっていた。

 高校生にしてこの考え方に到達するのは流石に早過ぎるのかもしれないが、ママの死で死を身近に感じてしまった私にとって誕生日というのは1つ大人になる日というよりも、また少し死に近づいてしまった日というイメージを持ってしまっている。


 自分の誕生日もママが死んでからは祝えなくなってしまったし、他人の誕生日は全て頭から消し去ったのだ。


 もちろん藍斗の誕生日も頭から完全に消し去っており、そのせいで私は6月26日が藍斗の誕生日だとすぐに気づくことができなかった。


 去年は藍斗の誕生日に気がつくこともなくすぎて行ったのね……。


「まさか好きな人の誕生日も忘れるなんてね……」


「私だってすぐいろんなこと忘れるから気にしなくていいよ。それに私からしてみれば莉愛ちゃんが天井くんのことを私の前で藍斗って呼び捨てにしてるだけでもかなりの成長だから。子供の成長は早いわねぇ」


「あなたもまだ子供ですが?」


「バレたか」


「そりゃバレるでしょ」


「まぁそういうことだからさ。とりあえず6月26日、瀬下に先越される前に先約しておいたら?」


「……え? それって……」


「そう、そのまさかだよ莉愛ちゃん。莉愛ちゃんから、デートに誘うのだ‼︎」


 そうだよね。私の方から誘わないと今の関係は何も変わって……ってデート⁉︎ 普通に遊びじゃなくて⁉︎

 

 だってデートって付き合ってる男女がするものでしょ? あれ、付き合っていなくても男女2人が一緒に遊べばそれはデートになるのか?


 じゃあ私が遊びに誘うだけでもそれはデートになるの? ん? デート? デートって何だっけ……。


「デート⁉︎ しかも私から⁉︎ 今まで好きって素振りなんて一度も見せた事がないのに⁉︎」


「おいっ。今まで嫌いなフリをしてきたから今度は好きになってもらうために頑張るんじゃなかったんかい」


「そ、それはそうだけど……」


「ほら、これみて」


 そう言ってくるみは携帯の画面を私に見せてきた。


飯崎莉愛

<6月26日、予定空けといて>

-11:26


天井

<オケ>

-11:50


「え、くるみが藍斗を誘ったの?」


「いやいや、アイコンと名前をよく見てよ」


 そう言われて藍斗を誘う文言を送っているアカウントのアイコンを見ると、それは私が好きで好きでやまないペンギンのキャラクター、ペンミーくんの画像たった。


 え、待てよ? これは要するに……。


「もしかして⁉︎」


「そのまさかデェス‼︎」


「な、なんてことしてくれてんのよ⁉︎」


「だってー、莉愛ちゃんこうでもしないと誘わないでしょ?」


「そ、そんなことは……」


「あるよね」


「ないとは言えないってだけよっ」


 私のためを思ってくれての行動だとは言え、まさか勝手に藍斗に連絡されるとは思っていなかった。

 しかも律儀に日付を指定しているので、藍斗からすればその日が自分の誕生日だということは容易に理解できるはず。


 もうちょっと気づかれないように、来週の土曜日、なんて言い方でも良かったのではないだろうか……。


「まぁそういうことだから。ここからが作戦会議だよ‼︎」


「……はぁ。はいはい」


 こうして私は藍斗の誕生日に藍斗と2人で遊びに行くことになった。

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