第6章 気づいてしまった気持ち

第45話 くるみへの告白

 私は今日、くるみを誘って二人で朝からカフェにやってきていた。

 モーニングの食パンを食べながらガムシロップの入った甘めのコーヒーを口にする。


 そうしてくるみに本題を打ち明ける機会を伺っていた。


「あ、あのね……」


「どうしたの、莉愛ちゃんがそんなにかしこまるなんて珍しいね」


 珍しいと思われるのも当然だろう。私は普段結構物事ははっきりいうタイプで、口をつぐみながら次の発言に困っているなんてことは早々ない。



 にしたって、こんなに言いづらいものなのか……。

 というかここまで言いづらいならもう言わないほうがいいのではないかとさえ思ってしまう。

 でもここで言わなければ、これまでの自分を変えることはできない。


 今までの私は無理して本当の自分を変えてまで藍斗のことが嫌いだと言い張って来たのだ。

 それならこれくらいの変化、いつだってできるようじゃなければ意味がない。


「私、藍斗が好き」


「うん、知ってたけど」


 ……知ってた? 私が藍斗を好きだって?


 私はくるみに藍斗を好きだなんて一言も言っていないしそんな素振りは見せた覚えがない。

 だからくるみが私が藍斗のことを好きだと知っているはずがない。


「……え、知ってた?」


「知ってたというか気付いていたというか、あれだけあからさまに天井くんの事好きな素振り見せられたら気付かざるを得ないよね」


「ちょっと待って、私がいつどこで藍斗のことを好きな素振りを見せたっていうの⁉︎」


「いやいつどこでというか、常にずっと?」


 藍斗のことが好きな気持ちはうまく隠せているつもりだったが、どうやらくるみにはすっかり見破られていたらしい。


「そ、そうなんだ……」


「うん。でも莉愛ちゃんが天井くんのことを嫌いなフリをしている理由については流石の私も知らないけどね」


 くるみは私が天涯孤独であることも、私が藍斗と一緒に住んでいることも知らない。

 それは私たちが意図して学校の誰にも事情を言おうとしていないからだ。


 もちろん先生たちは事情を知っている。ただ、この学校に通う生徒は私たちのことを誰も知らない。


 でも、くるみになら私たちのことを話してしまってもいいかもしれない。


「あのね……。私と藍斗、一緒に住んでるの」


「へぇーそうなんだ。……って一緒に住んでる⁉︎」


 ファミレスにくるみの大きな声が響き渡った。


「ちょ、ちょっとくるみ⁉︎ 声が大きいよ‼︎」


「ご、ごめん。ちょっと、いやかなり驚いたよ」


 今まで私はずっと藍斗のことを嫌いなフリをしていたし、急に私が藍斗のことを好きだと告白して来たことにも驚くだろうが、ましてや同じ家に住んでいるとなれば驚くのも無理はない。


「ま、まぁ驚くよね……」


「そ、そりゃまあ驚くよね。そもそも莉愛ちゃんが天井くんのこと、藍斗って名前で呼んでるのも驚きだし……。いやー、でも色々と複雑な事情があったんだねぇ」


「……うん」


「まぁ色々と事情があったとはいえ、大好きな天井くんを嫌いなフリをするっていう選択が莉愛ちゃんらしいっていえば莉愛ちゃんらしいかな」


「え、私らしい?」


「うん。だって絶対莉愛ちゃんと天井くん絶対両思いなのに」


「……私と藍斗が?」


「うん。それに莉愛ちゃんくらい可愛ければ誰だって好きになるよ。そんなに可愛いのに自信が無いところが莉愛ちゃんらしいかな」


 私と藍斗が両思い? そんなわけがない。藍斗は私のことが大嫌いなはずだ。


「よく分からないけど……。それでね、くるみには私が藍斗と付き合えるよう協力して欲しいの」


「えっ」


「迷惑だった……?」


「め、迷惑だなんてそんな。今の時点で絶対付き合えるだろ、なんて思ってないよ。やっと決心した莉愛ちゃんの力になってあげようじゃないか‼︎」


「途中なんて言ってるかあんまり聞こえなかったんだけど……ありがと」


 こうして私はくるみの協力を得ることとなった。

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