第43話 観客がいるとやる気って出る

 昼休みは陽子さんと隆行さん、それに藍斗と一緒に昼食を食べ、私の体育祭は充実したものになっていた。

 ママが死んでしまってからこれまで、親が参加する行事は私にとって地獄のような時間だったが、今日の体育祭は今までの行事とは違って楽しい。そんな感情を抱いてしまっている自分がいた。


 そう、今私の横にいる藍斗と肩を組むまさにこの瞬間までは。


「なんで私がアンタと肩組んで二人三脚なんてしないといけないわけ⁉︎」


 藍斗と二人三脚をするために足を結んだり肩を組んだりするのが嫌なわけではない。むしろ嬉しいまであるのだが、これほどまでに藍斗と密着するのは子供の頃依頼なので私の胸の鼓動は思わず早くなる。


 藍斗を恋愛対象として意識しては行けないと分かっているはずなのに、これだけ距離が近いと意識せずにはいられない。


 それに……。


 私の視線は自然と藍斗の唇へと向けられる。


 私、藍斗とキスしたんだよね……。しかも2回も。


 アアアアァァァァァァァァ‼︎ もうこんなの平常心を保っていられるはずがないじゃない‼︎


 どうしてこんなことに……。


 私が出場する予定の個人競技は二人三脚と玉入れ。


 二人三脚ではくるみとペアになって走る予定だった。

 しかし、くるみはその前に出場した女子対抗リレーで足を捻ってしまい走れなくなってしまったのだ。


 その代わりとして藍斗が私と一緒に走ることになったのである。


「俺もなんで今こうして飯崎と肩をくんでんのか疑問だよ。くるみにはペアは瀬下だって聞いてたんだけどな」


 くるみ……。やってくれたわね。まさか藍斗にも嘘をつくなんて。あとで覚えときなさいよ。

 くるみが私に代わりに競技に出場してくれる人を準備してくれた時、くるみはこう言っていた。


『ごめんっ‼︎ 莉愛ちゃん‼︎ 代わりは金尾さんにお願いしたから‼︎ ちょっと眠そうだったけど大丈夫‼︎』


 くるみからこう伝えられた私はくるみの代わりに金尾さんと一緒に走ると思い込んでいた。

 それなのに、私の元にやってきたのは金尾さんではなく藍斗だったのだ。


 最初から藍斗がくるみの代わりだと聞いていたら拒否したのに……。


 「くるみったらもう……」


 まぁ、仮にくるみが藍斗以外の男子に声かけてたら流石に平手打ちしてたかもしれないからまだマシか。

 そう思うことで私は自分の気を鎮めた。


「まあ確かに予想外の事態ではあるけどな。母さんと父さんは喜ぶんじゃないか?」


「どうかしらね。私が藍斗の足引っ張らないか心配してるんじゃない?」


「それはないな。俺足おせぇし」


 先ほどは一緒にお昼ご飯を食べて、私も天井家の一員として認められたと思っていたが、やはりまだ本当の子供ではないというところに後ろめたさを感じている。


 陽子さんと隆行さんは私を本気で応援してくれるだろうか。藍斗の邪魔だとは思われていないだろうか。


 そんなことを考えていると私たちの前のペアがトラックを半周して私たちの元へとやってきて、私は考えをまとめきれないまま走ることになってしまった。


「……足引っ張ったらごめん。」


「何言ってんだよ。まだなんか気にしてんのか?」


「べ、別にそういうわけじゃ……」


「まぁそれも仕方ないよな。飯崎からしたら本当の両親は俺の親じゃないんだから」


「そ、そんなこと私は……」


「まぁ気楽に考えた方がいいと思うぞ。とりあえずはさ、いいとこ見せようぜ。"俺たちの" 母さんと父さんにさ」


「--っ」


 藍斗は "俺たちの" 母さんと父さん、と言った。要するに、陽子さんと隆行さんは私のママとパパなのだ。

 ただの言葉遊びみたいなものなのに、私はその言葉を聞いて何故かすんなりと自信を持つことができた。


「……そうね。子供二人が体育祭で二人三脚を一緒に走るなんて普通の親じゃ中々味わえたもんじゃないだろうし、見せつけてやろうじゃない」


 いつもお世話になっている二人に、私の両親に、いいところを見せたいと思うのは、私が子供で陽子さんと隆行さんが親なのだから、当然のことだろう。


 



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